「そろそろスモールビジネスの法人化を考えたい」「個人事業主からステップアップしたい」そんなときに必要になるのが、法人登記です。
法人登記とは、会社や法人を設立する際に、会社の基本情報を法務局に登録する手続きのことを指します。法人登記を行うことで、法人として法律的に認められ、取引先や金融機関からの信用も得やすくなります。
この記事では、ネットショップを法人として運営したい人や、個人事業主として起業したけれど、事業の成長を見据えて法人化したいと考えている人に向けて、法人登記の流れや必要書類、費用の目安、登記内容の変更方法などを解説します。
法人登記の流れと手順

1. 会社の基本事項を決める
まずは、登記に必要な会社の基本情報を決めます。
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 事業目的
- 資本金額
- 役員の構成(代表取締役・取締役など)
登記住所をコワーキングスペースやバーチャルオフィスなどにしたい場合は、事前に法人登記が可能かどうかの確認も必要です。
2. 法人印を作る
会社を設立する際には、複数の法人用の印鑑を作る必要があります。2021年の法改正により、法人設立登記をオンラインで申請する場合には、実印の登録は任意になりました。ただ、書面での申請のほか、契約書や法的手続きなど依然として実印が必要になる場面は少なくありません。また、銀行口座の開設や請求書への押印など、さまざまな場面で印鑑を使い分ける必要があります。
用途によって使い分けできるよう、次の3種類をセットで用意しましょう。
- 実印:法務局に登録する印鑑
- 銀行印:金融機関に登録する印鑑
- 角印:請求書や見積書などで使用
3. 定款を作成し、公証役場で認証を受ける
株式会社を設立する場合は、会社のルールを記した定款を作成し、公証役場で認証を受ける必要があります。定款には会社名、所在地、目的、資本金額、発起人の情報などを記載します。定款は紙で作成する方法と、電子定款として作成する方法があります。
なお、合同会社、合資会社、合名会社の場合は定款認証が必要ありません。
4. 資本金を払い込む
定款の認証が終わったら、会社設立の出資者が、資本金を発起人名義の銀行口座に払い込みます。自分が発起人の場合、個人の生活で使う生活費の口座と別の口座を用意したほうが管理がしやすくなります。振り込みが完了したら、通帳の表紙、個人情報欄のページ、振込内容が確認できるページをコピーし、振込証明書を作成します。
5. 登記に必要な書類をそろえる
法務局の公式ウェブサイトか窓口から書式を入手して、必要書類を作成します。法人登記の申請には、定款のほか、登記申請書や役員の就任承諾書など多くの書類が必要です。
6. 法務局に登記申請を行う
必要な書類をそろえたら、会社の本店所在地を管轄する法務局に申請を行います。申請方法は、法務局窓口での直接提出、郵送での提出、オンライン申請の3種類です。オンライン申請の場合、電子証明書や専用ソフトの準備が必要ですが、自宅から手続きができるため便利です。
7. 登記完了・会社設立日の確定
法務局に申請書類を提出し、内容に不備がなければ、数日〜1週間程度で登記が完了します。登記が受理された日が「会社の設立日」となり、正式に法人として活動できるようになります。
法人登記に必要な書類

法人登記の必要書類は、会社の形態によって多少異なりますが、株式会社の場合は上の書類をそろえて法務局に提出します。
法務局では、電話や窓口、ウェブ会議で、登記についての無料相談を実施しているところが多く、登記の流れや必要な書類について、丁寧に教えてもらえます。地域によっては予約制になっているため、事前に確認しておくと安心です。
設立登記申請書
法務局に法人登記を申請するための書類です。会社名(商号)、本店所在地、事業目的、資本金額など会社の基本情報を記入します。書式は法務局のウェブサイトや窓口で取得可能です。
登録免許税納付用台紙
法人の登記手続きにかかる登録免許税の支払いを証明する収入印紙を貼るための台紙です。登記申請書とは別に提出します。台紙は法務局の窓口で入手できますが、A4やB5の白いコピー用紙などを使用してもかまいません。なお、収入印紙に消印を押印してはいけません。
定款(謄本)
会社を運営する上での基本的ルールを記した重要書類です。決まったレイアウトはありませんが、次の事項は必ず記載しなければなりません。
- 商号(会社名)
- 目的(会社が行う事業内容)
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(資本金のこと)
- 発起人の氏名または名称および住所
日本公証人連合会のウェブサイトで、会社の形態や規模別の記載例をダウンロードできます。
なお、株式会社設立の場合は、公証役場で認証を受ける必要があります。紙で提出する場合、認証手数料のほかに印紙代4万円が必要ですが、電子定款なら不要です。
発起人の決定書(発起人決定書、発起人会議事録)
会社設立時に、設立メンバーが決定した事項をまとめた書類です。代表取締役の選任、本店所在地の住所の確定、資本金額の設定などを記します。
設立時取締役の就任承諾書
会社設立時に取締役となる予定の人が、就任を承諾する意思表示を記した書類です。取締役となる人全員分を作成して提出します。
設立時代表取締役の就任承諾書
会社設立時に代表取締役となる予定の人が、就任を承諾する意思表示を記した書類です。
設立時取締役の印鑑証明書
会社設立時に取締役に就任する個人の印鑑証明書です。設立時取締役が複数人いる場合は全員分の証明書が必要になるほか、有効期限が3か月である点も注意が必要です。
監査役の就任承諾書
会社設立時に監査役を設置する場合、監査役となる予定の人が就任を承諾する意思表示を記した書類です。
資本金の払込証明書
会社の資本金が実際に払い込まれたことを証明する書類です。設立時の発行株式数や払込を受けた金額・日付などを記載します。作成した振込証明書は、発起人名義の銀行通帳の表紙、個人情報欄のページ入金ページのコピーを添付して提出します。
法人印の印鑑届出書
法人印を法務局に登録するための書類です。これを届け出ておくことで印鑑証明書を発行できるようになります。法務局の公式ウェブサイトから書式を印刷し、法人印を押印して提出します。オンラインで登記をする場合は、登記と同時に手続きをする場合にかぎり、オンラインで印鑑届出書を提出することも可能です。
なお、オンラインで登記申請をする場合、印鑑届出書の提出は任意とされていますが、会社の銀行口座開設や契約締結など、さまざまな場面で印鑑証明書が必要となるため、提出しておくことをおすすめします。
登記すべき事項を記載した書面またはCD-R
登記申請書に記載した内容を、法務局が登記簿に正確に反映するための書類です。内容を記載した書面で提出するか、データを保存したCD-Rを提出します。
登記完了後に必要な手続き

法人口座の開設
登記事項証明書、印鑑証明書、定款、代表者の本人確認書類などを用意して、銀行で口座を開設しましょう。
税務署での手続き
会社の本店所在地がある地域の税務署に次の書類を提出しましょう。
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書(節税のためには特に重要)
- 給与支払事務所等の開設届出書(役員報酬を支払う場合)
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(年2回の納付にする場合)
- 適格請求書発行事業者の登録申請書(インボイス登録を行いたい場合)
- 棚卸資産の評価方法の届出書(特定の棚卸資産の評価方法を第1期から採用したい場合)
- 減価償却資産の償却方法の届出書(法人が所有する法定償却方法以外の減価償却を適用したい場合)
自治体での手続き
法人住民税や事業税の関係で、都道府県・市区町村にも「法人設立届出書」を出しておく必要があります。地域によって提出書類や提出先が異なるため、事前に自治体の公式サイトで確認しておくと安心です。
年金事務所での手続き
事業主が一人で経営する一人社長の企業でも、法人設立後に社会保険への加入が必要です。年金事務所へ届け出をおこなってください。
労働保険関係の手続き
従業員を雇う場合、労働保険の手続きを行う必要があります。労働保険とは、労災保険と雇用保険をあわせた名称です。労働基準監督署で労災保険、公共職業安定所(ハローワーク)で雇用保険の届け出を行ってください。
そのほかの許認可の申請
また、業種によっては別途、許認可や届出が必要になる場合があります。たとえば、飲食店であれば飲食店営業許可、美容室であれば美容所開設届、古物を扱う場合は古物商許可などが必要です。
これらは法人登記とは別に、それぞれの業種を管轄する行政機関へ申請しなければなりません。事業を始める前に、関係する許認可についてもしっかり確認しておきましょう。
法人登記にかかる費用

資本金
資本金とは、会社設立にあたって出資者から会社に振り込まれたお金であり、事業を運営するための元手となる資金のことです。資本金は「会社の体力」であるとも言えます。資本金をいれておくことで、銀行から借入をしなくても事業を運営していくことが可能となります。
どの形態の法人であっても、法律上は資本金1円で設立できますが、今後の運営を考えて無理のない金額を設定することが大切です。一般的には、開業後3か月〜半年でかかる運営資金を目安にするといいとされています。たとえば、事業を1か月運営するのに20万円かかるようであれば、60〜120万円あると安心です。
また、資本金額は、取引先や銀行からの信用にもつながるので、融資による資金調達を検討している場合は、50〜300万円程度はいれておいたほうが、信用を得やすいでしょう。
ただし、資本金額が大きいと、払うべき税金も上がります。資本金1000万円未満であれば、2年間は消費税の支払いが免除されるといった特例もあるので、事業の規模感にあった資本金を設定しましょう。
登記費用
登記にあたっては、法人化にかかる登録免許税を支払う必要があります。
金額は、会社の形態によって異なります。
- 株式会社:資本金額の0.7%(算出される金額が15万円に満たないときは、登記申請1件につき15万円)
- 合同会社:資本金額の0.7%(算出される金額が6万円に満たないときは、登記件数1件につき6万円)
- 合名会社・合資会社:資本金額にかかわらず1件につき6万円
定款認証費用
株式会社の場合、会社のルールをまとめた定款を認証してもらうのにも費用がかかります。費用は、次のように資本金の額に応じて異なります。
- 資本金額が100万円未満の場合:3万円
- 資本金額が100万円以上300万円未満の場合:4万円
- そのほか:5万円
なお、資本金額が100万円未満で、発起人が3人以内の個人であり、すべての発行株式を発起人が所有し、取締役会が設置されていない場合のみ、例外的に1万5000円で認証を受けることができます。また、紙で提出する場合は、定款印紙代として4万円の支払いが必要です。
合同会社・合名会社・合資会社では認証不要のため、費用がかかりません。
会社実印の作成費用
新しく法人を立ち上げるにあたり、会社の実印が必要になります。会社の印鑑は実印・銀行印・角印の3種類が必要で、作成は印鑑の材質によって1万5000円~10万円ほどかかります。
印鑑を作成したら、法務局に印鑑届出書を提出して印鑑登録を行います。印鑑登録自体に費用はかかりません。
そのほか証明書の発行手数料
印刷証明書の発行
- 窓口申請+郵送受取:500円
- オンライン申請+窓口受取:420円
- オンライン申請+郵送受取:450円
登記事項証明書の発行
- 窓口申請+郵送受取:600円
- オンライン申請+窓口受取:490円
- オンライン申請+郵送受取:520円
専門家への依頼料
登記や定款作成の業務は、司法書士や行政書士といった専門家に依頼することもできます。報酬の相場は、設立する会社の形態や規模などによっても異なりますが、5〜30万円程度が目安とされています。
時間を節約したい人や、書類作成に不安がある人は、専門家の力を借りるのも有効な選択肢です。
法人登記後、登記事項を変更するには?

会社を設立して法人登記が完了すると、いよいよ本格的に事業をスタートできます。ただ、たとえば法人登記後に住所変更が必要になった場合など、登記した会社の基本情報に変更があった際には、変更のあった日または決議日から2週間以内に、法務局に対して登記の変更手続きを行う必要があります。
次のような場合に、登記の変更手続きが必要です。
- 会社の名称変更
- 本店所在地の移転
- 事業目的の追加・変更
- 代表取締役や役員の交代・退任
- 代表取締役の住所変更
- 資本金の増資・減資
登記内容の更新は、法人の義務であり、放置してしまった場合罰金が科されることもあります。変更が発生したら、できるだけ早めに手続きを行いましょう。会社設立時に作成した定款の記載事項に変更があった場合は、変更登記に加えて定款変更の手続きも必要になります。定款変更そのものには費用はかかりませんが、変更内容の登記申請を行う際、所定の登録免許税がかかる点も注意が必要です。
登記事項変更の手続きの流れ
1. 変更内容を決定する
取締役会や株主総会などで正式に変更を決定します。
2. 必要書類を作成する
変更内容に応じて必要な書類を準備します。登記申請書や株主総会議事録が必要になるケースが多いですが、そのほかにも変更登記の内容に応じて追加で必要な書類があるので、法務局のホームページで確認しましょう。
3. 法務局へ登記申請を行う
所轄の法務局に登記変更の申請をします。会社設立時の法人登記と同様に、窓口、郵送、オンラインの3つの方法で申請ができます。
書面申請の場合は、会社・法人の本店または主たる事務所を管轄する法務局に直接持参するか、郵送で書類を提出します。
オンライン申請の場合は、原則として電子証明書が必要となります。法務局が提供する、無料の申請用総合ソフトを使用して作成した申請書の情報をインターネット経由で登記所に送信します。
4. 登記完了
内容に不備がなければ、数日~1週間程度で登記が完了します。
登記変更にかかる費用
登記変更の際には、変更の内容によって法務局に支払う登録免許税が発生します。主な登記変更1件あたりにかかる登録免許税は次のとおりです。
- 商号(会社名)の変更:3万円
- 本店所在地の移転(同一管轄内に移転する場合):3万円
- 本店所在地の移転(管轄外に移転する場合):新旧各法務局に3万円ずつ(合計6万円)
- 代表取締役・役員の変更:1万円(資本金額が1億円を超える場合は3万円)
- 代表取締役の住所変更のみ:1万円(資本金額が1億円を超える場合は3万円)
- 目的の追加・変更:3万円
- 資本金の増資:増加額の0.7%(最低3万円)
- 資本金の減資:3万円
また、必要に応じて専門家への報酬や書類作成費用なども必要になります。
まとめ
法人登記は、事業を継続的に運営していくうえで欠かせない基盤づくりのひとつです。設立時には必要な書類や手続きが多く感じられるかもしれませんが、内容をしっかり把握しておけば、スムーズに進めることができます。
また、登記後に会社の情報に変更があった場合は、速やかに登記内容を更新することが法律上の義務となっています。対応が遅れると思わぬトラブルや過料の対象となることもあるため、注意が必要です。しっかりと調べて、着実に準備を進めましょう。
よくある質問
法人登記は完了まで何日かかる?
登記申請から完了までの期間は、繁忙期でなければ通常3日〜1週間程度です。ただし、公証役場での定款認証(株式会社の場合)や資本金の払込みなど、事前準備にも日数がかかるため、全体では1〜2週間を目安にすると良いでしょう。
法人登記にかかる費用の相場は?
窓口へ行って自分で登記した場合、資本金を除いて、株式約25万円、合同会社であれば約10万円程度かかります。司法書士・行政書士などの専門家に依頼する場合は、これに加えて5〜30万円の依頼料がかかります。
法人登記はオンラインでできる?
はい、法人登記はオンライン申請にも対応しています。法務省が提供する登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと供託ねっと」を使えば、自宅からでも申請が可能です。ただし、オンライン申請をするには、事前に電子証明書を取得する必要があるほか、専用ソフトを使って書類を作成する必要があります。
商業登記と法人登記の違いは?
商業登記は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社などの営利団体である会社についての登記を指し、法人登記は一般社団法人、NPO法人、社会福祉法人等も含む法人全般の登記を指します。ただ、一般的には商業登記と法人登記を区別せずに、まとめて法人登記と呼ばれることも少なくありません。
文:Taeko Adachi