スモールビジネス(小規模企業者)は、日本の企業全体の約99.7%を占める重要な存在であり、経済の原動力のひとつとなっています。新たなアイデアがスモールビジネスによって形になるたびに、雇用の創出やイノベーションが生まれ、社会に活力をもたらしています。
しかし、「スモールビジネス」と一口に言っても、その定義は業種や従業員数によって異なります。この記事では、日本におけるスモールビジネスの定義や、その役割について詳しく解説しているほか、成功事例を一覧で紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
スモールビジネスとは

スモールビジネスは、一般的に少人数かつ少ない資金で運営される事業を指します。日本では中小企業基本法により、業種ごとに「小規模企業者」として定義されています。
また、会社だけでなく、パートナーシップという形態や個人事業主という形で活動している人々も、スモールビジネスと呼ばれることがあります。このようなスモールビジネスは、副業からも始めやすく、規模の小ささを活かして顧客との緊密な関係を築きやすいという特徴があります。
これから起業を考えている方や、副業としてビジネスを始めたいと考えている方にとって、スモールビジネスとしてのスタートは現実的かつ堅実な選択肢となるでしょう。
業種ごとに異なるスモールビジネス(小規模企業者)の定義

日本では、スモールビジネス(小規模企業者)の区分は業種により異なります。中小企業庁のウェブサイトによると、中小企業者は中小企業基本法に基づき以下のように定義されています。
製造業その他:資本金(または出資の総額)3億円以下の会社、または従業員数300人以下の会社および個人
卸売業:資本金(または出資の総額)1億円以下の会社、または従業員数100人以下の会社および個人
小売業:資本金(または出資の総額)5000万円以下の会社 または 従業員数50人以下の会社および個人
サービス業:資本金(または出資の総額)5000万円以下の会社 または 従業員数100人以下の会社および個人
このうち、さらに小規模な事業として定義されているのが「小規模企業者」です。具体的には以下のように分類されます。
製造業・建設業・運輸業など:従業員数20人以下
卸売業・小売業・サービス業:従業員数5人以下
出典:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
なお、こうした事業規模の分類は、補助金や助成金などの公的支援制度の適用条件にも関わってきます。起業や新事業展開を考える際には、自社がどの区分に該当するかを確認し、活用できる制度についても把握しておくことが大切です。
スモールビジネスの担い手
近年では、女性や若年層による起業が増えており、スモールビジネスの担い手はより幅広い層へと広がっています。
たとえば、女性経営者の増加が顕著で、2012年から2022年の10年間で女性の起業者数は約12万人増加しています。 また、29歳以下の若年層による起業も増加しており、2012年には約7.6万人だった起業者数が、2022年には約11.3万人に達しています。
出典:2024年版 中小企業白書 第2節「新たな担い手の創出」
こうした動きからも、スモールビジネスは、性別や年齢を問わず誰もが挑戦できる選択肢として注目を集めています。
スモールビジネスのメリットと課題

スモールビジネス(小規模企業者)には、大企業とは異なる利点と難しさがあります。スモールビジネスを始めるにあたってのメリットと課題には、以下のような点が挙げられます。
スモールビジネスのメリット
- 市場の変化に柔軟に対応できる
- 経営判断のプロセスを簡素に行うことができる
- 顧客との関係を密に築くことができる
- 他の事業者とコラボレーションできる
- ECプラットフォームを活用してオンラインでビジネスを完結できる
スモールビジネスの課題
- 起業に必要な資金を調達するハードルが高い
- 市場競争で大企業より不利になりやすい
- 地元を超えた商圏拡大に工夫が必要
スモールビジネスの事業形態

ビジネスを始めるにあたって、最初に検討すべきなのが「どのような事業形態で始めるか」です。スモールビジネスには複数の形態があり、それぞれに税務、責任範囲、事業規模拡大のしやすさなど、異なる特徴があります。
個人事業主
個人事業主は、法人登記せずに税務署に開業届を出し、自分の名前で商品やサービスを販売する形態です。スモールビジネスでは最も一般的な形態ですが、個人と事業が法的に同一とみなされるため、ビジネスの借金や責任は、個人が負うことになります。手続きも簡単で手軽に始められるため、多くのスモールビジネスが選択する形態です。
合同会社
合同会社は、出資者全員が経営に関与する「所有と経営の一致」が特徴の会社形態です。出資者には経営の権限がない株式会社とは異なり、出資者が「社員」として事業運営に参加します。出資額にかかわらず、原則として平等な決定権があり、定款で定めるなどの方法でスピーディーな経営判断ができます。また、出資者の責任は「有限責任」であり、万一倒産しても出資額を超える債務を負うことはありません。設立費用も比較的少額で済み、手続きも簡素なため、スモールビジネスの法人化に適しています。
株式会社
株式会社は、株主(出資者)と取締役(経営者)が明確に分かれている「所有と経営の分離」が基本となる法人形態です。株主は会社の所有者として、株主総会を通じて取締役を選任・解任する権限を持ちますが、経営には直接関与しません。一方、取締役は会社の業務執行や意思決定を担います。
この仕組みにより、経営の専門性が高まり、外部からの資金調達が容易になるなどのメリットがあります。また、株主が経営を監視することで、コーポレートガバナンスの強化にもつながります。ただし、所有と経営が分離されることで、意思決定のスピードが低下する可能性や、経営者と株主の間で対立が生じるリスクもあります。
このような特徴から、株式会社は大規模な資金調達や上場を目指す企業に適した法人形態とされています。
パートナーシップ型の事業形態
日本におけるパートナーシップ型の事業形態には、「有限責任事業組合(LLP)」と「事業協同組合」があります。これらは複数の事業者が共同で事業を行う際に選択される組織形態であり、それぞれに特徴があります。
有限責任事業組合(LLP)
有限責任事業組合(LLP)は、2005年に導入された法人格を持たない新しい事業形態で、構成員全員が出資額を限度とする「有限責任」を負います。個人資産を守りながら共同で事業に参加できるのが特徴です。
LLPの大きな利点は、内部の取り決めを自由に定められる点にあります。利益配分や意思決定の方法は出資比率に関係なく柔軟に設計でき、構成員の役割や貢献に応じた運営が可能です。税務面でも、法人ではなく構成員に課税される「構成員課税」が採用されています。
スタートアップや専門家同士の共同事業、プロジェクトベースの事業などに適しており、柔軟性と対等性を重視したい起業家にとって有力な選択肢です。
事業協同組合
事業協同組合は、中小企業者が互いに協力し、相互扶助の精神に基づいて共同で事業を行う組織です。設立には4人以上の中小企業者が必要で、組合員の事業活動を支援・補完するための共同事業を実施します。これにより、経営の近代化や合理化、経済的地位の向上を図ることが目的とされています。
組合の運営は、出資額に関わらず「一人一票」の原則に基づき、民主的に行われます。また、組合員は自由に加入・脱退が可能であり、組合の事業は組合員の事業に関連するものであれば幅広く実施できます。共同購買や共同受注、共同販売などの事業を通じて、組合員の経営効率化や市場競争力の強化が期待されます。
スモールビジネスの成功事例

南方郵便機(東京都府中市)|地域密着型の自家焙煎コーヒー店
東京都府中市にある南方郵便機は、1989年創業の自家焙煎コーヒー豆専門店です。府中駅から徒歩6分という立地にある小さな店舗ながら、深煎りのフレンチローストに強いこだわりを持ち、オーナー自らが厳選した「本当においしい」と思える豆だけを提供しています。
また、オンラインショップを通じて全国にコーヒー豆を販売しているほか、ふるさと納税の返礼品としても取り扱われています。さらに、地元ではコーヒー教室を開催するなど、地域に根ざした活動をおこなっています。
山本製作所有限会社(愛知県豊川市)|真鍮切削加工
愛知県豊川市の山本製作所有限会社は、1975年創業の真鍮切削加工を専門とする町工場で、従業員6名の小規模企業です。コロナ禍で受注が約90%減少する中、元看護師である三代目社長・田中倫子氏が看護師時代の友人から「マスクの一時保管に困っている」という声を受けたことをきっかけに、猫型の真鍮製マスク掛け「しっぽ貸し手」を開発しました。
ウイルスの不活性効果が期待できる真鍮素材を使用し、職人の手作業で仕上げられたこの商品は、医療現場や日常生活でのマスクを清潔に保管できると評判を呼び、発売から3か月で累計6,000個以上を販売するヒット商品となりました。
合同会社 ねっか 奥会津蒸留所(福島県只見町)|地域密着型の焼酎ブランド
福島県只見町にある合同会社 ねっか 奥会津蒸留所は、2016年に4人の米農家と1人の醸造技術者が設立した小さな蒸留所です。ねっか奥会津蒸留所の米焼酎「ねっか」は、自社田や創業メンバーの田んぼで栽培する酒米と日本酒造りの技術を用いて製造されており、香気成分が極めて高いのが特徴です。
特別豪雪地帯の広大なブナ林がもたらす清らかな水、寒冷地ならではの環境負荷を軽減した蒸留方法、そして地域に根付いてきた文化と技術が交わることで、只見にしかない唯一無二のライスウイスキーを生み出しています。
Licca(群馬県みなかみ町)|間伐材を使用したアロマブランド
群馬県みなかみ町に拠点を構えるLiccaは、国際協力活動の経験を持つ長壁総一郎さん・早也花さん夫妻が2020年に創業したアロマブランドです。
Liccaでは、地元の自伐型林業チームと協力し、間伐材の枝葉を主な原料としてエッセンシャルオイルを製造しています。谷川山系の湧水や間伐材や製材所で出る端材を蒸留の際の熱エネルギーとして使うことで、化石燃料の使用減に努めています。このような取り組みにより、地域資源を無駄なく活用し、持続可能なものづくりを実現しています。
現在は自社製造のアロマだけでなく、地元ホテルの調香や、小学校でアロマの魅力を伝える「香育」活動など、地域に根ざした活動もおこなっています。
まとめ
スモールビジネスは、業種や売上規模、従業員数、法人形態などによって多様な形で展開されており、その定義も一様ではありません。「いつかは自分のビジネスを」と考えているなら、実現したい事業に適した形態や、規模に応じて活用できる補助金・支援制度についても調べてみましょう。
また、スモールビジネスは単なる「小さな商い」ではありません。地域に雇用を生み出し、新たな価値を提供し、社会に活力をもたらす経済の重要な担い手です。実際、日本の企業の約99.7%はスモールビジネスであり、まさに国内産業を支える基盤となっています。
さらに、現在はビジネス運営を支えるテクノロジーも大きく進化しています。たとえばShopify(ショッピファイ)を活用すれば、オンラインショップの立ち上げから在庫管理、決済処理、売上分析までを一元的に行うことができ、個人や少人数からのスタートでもスムーズに運営が可能です。
アイデアと意志さえあれば、スモールビジネスは今すぐにでも始められます。市場やニーズを見極め、自社の強みを活かすことが、成功への第一歩となるでしょう。
よくある質問
日本でのスモールビジネスの定義は?
日本では「スモールビジネス」は一般的に「小規模企業者」を指し、中小企業基本法により業種ごとに定義されています。製造業では従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業では5人以下の事業者が該当します。
スモールビジネスの始め方は?
スモールビジネスを始めるには、まず、参入したい分野を選び、必要なモノや資金を準備します。必要に応じてビジネスプランや事業計画書を作成します。事業を始めるにあたって必要になるものをピックアップし、かかる費用を試算しましょう。次に、他人のビジネスモデルを参考にし、情報収集します。
どんな事業を立ち上げるか決まったら、個人事業主として開業届を出すか、法人を設立するかを決め、必要な手続きを行います。事業の内容によっては許認可や事前申請が必要な場合もあります。事業計画段階でどのような手続きが必要なのか調べておくことが重要です。
最近では、ShopifyなどのECプラットフォームを活用し、初期費用を抑えてオンラインからスタートするケースも増えています。
スモールビジネスが直面しやすい課題は?
スモールビジネスでは「資金調達の難しさ」「人材の確保」「大手企業との価格競争の厳しさ」などが主な課題です。特に創業初期は運転資金が限られているため、補助金や助成金制度の活用が重要です。また、少人数体制だからこそ、業務の効率化やITの導入を進め、限られたリソースを有効に使う工夫が求められます。
文:Yukari Watanabe