銀行に普通預金口座を持っている人なら、支払いに使えるお金を把握することの難しさを理解しているでしょう。引き落としされる金額をチェックして、収入が支出を上回っているようにしておく必要があります。この普通預金口座への入出金の動きが、キャッシュフローです。
会社もこの点では家庭と似ています。キャッシュフローを黒字にしておくためには、残高を注意深く監視し、残高がマイナスになる可能性を予測して他の資金源からお金を調達する必要があります。この記事では、さまざまな種類のキャッシュフローについて詳しく紹介します。
キャッシュフローとは?
キャッシュフローは、特定の期間に受け取ったお金(キャッシュインフロー)と支払ったお金(キャッシュアウトフロー)の記録です。効果的なキャッシュフロー管理を行えば、キャッシュインフローがキャッシュアウトフローを上回ることを保証できます。
売掛金(会社に対して支払われるべきお金)や買掛金(会社が支払うべきお金)は、キャッシュフローには含まれません。これらは、会社の総資産と負債を示す貸借対照表という別の財務諸表に記録されます。売掛金が回収され、買掛金が支払われた時点で、会社はそれらをネットキャッシュフローとして記録します。
キャッシュフローと利益の違い
会計方法の違いにより、会社の利益とキャッシュフローは大きく異なる場合があります。損益計算書は、発生主義会計を採用しており、売上、費用、利益は、資金の受け取りや支払いの時期に関係なく、発生した時点で記録されます。
したがって、たとえば、ある期間中に10億円の商品を販売した場合、顧客から10億円全額をまだ回収していない場合でも、損益計算書にはその全額を記録します。
同様に、費用が8億円であれば、一部の費用の支払いが繰り延べられている場合でも、その期間中に発生したため全額を記録します。対照的に、現金主義会計では、その期間中に実際に回収された売上と実際に支払われた費用のみを記録します。
キャッシュフローの重要性
キャッシュフローは企業にとって非常に重要です。なぜなら、キャッシュフローは事業の継続と運営の維持に不可欠な要素だからです。企業はキャッシュフローを黒字にしておくか、赤字が発生する可能性を予測して他の資金源から資金を調達する必要があります。
キャッシュフローが黒字であれば、給与、家賃、仕入先への支払いなどの支払いを確実に行うことができます。十分なキャッシュフローがないと、財務上の義務を果たすのに苦労し、最終的には支払い不能に陥る可能性があります。
十分なキャッシュフローがあれば、新しい市場への進出、新製品の開発、他社の買収など、新しい機会に投資することも可能にします。成長戦略を追求するために必要な財務的な柔軟性も得られます。
健全なキャッシュフローは、経済の低迷やサプライチェーンの混乱といった予期しない事態を乗り切る上でも役に立ちます。また、外部からの資金調達が必要な際に、投資家や金融機関にとって魅力的な企業となるでしょう。
キャッシュフローの種類
企業会計で広く認識されているキャッシュフローには主に3つの種類があり、さらに一部の業界や地域では他の種類のキャッシュフローが採用されています。日本の企業は通常、四半期ごとの財務報告書でキャッシュフロー計算書にこれらの種類を記載します。キャッシュフローの種類は次のとおりです。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、会社の製品やサービスの生産と販売から生じるお金の流れを追跡します。これは、会社の事業活動によって得られた現金から、売上原価や保有在庫のコスト、さらに一般管理費などの現金支出を差し引いたものです。
営業キャッシュフローは、会社が持続可能であり、外部の資金調達なしに請求書の支払いをするために十分な資金を定期的に獲得しているかどうかを示すため、最も重要です。
投資キャッシュフロー
投資キャッシュフローは、不動産や設備などの事業資産の売買に支払ったまたは受け取った資金を追跡するものです。また、株式、債券、その他の証券の購入に支出した資金、およびこれらの投資から受け取った配当金や利息も含まれます。
投資からのキャッシュフローがマイナスであっても、在庫や将来の販売と利益を生む可能性のある研究開発などの活動に投資されているのであれば、必ずしも危険信号ではありません。
財務キャッシュフロー
財務キャッシュフローは、会社がその運営資金を調達するために外部から受け取る資金を指します。これには、借入金やや債券の売却、投資家への株式販売、株式公開による収入などが含まれます。また、借入金や債券の元本を返済(借入金や債券の利息は営業キャッシュフローから支払われます)、自社株や株式の買い戻し、配当金の支払いなどにも充当されます。
財務キャッシュフローは、会社が事業運営から内部で生み出される現金ではなく、外部の資金源にどれだけ依存しているかを示します。
アンレバードフリーキャッシュフロー
アンレバードフリーキャッシュフローは、会社が資産に投資した後、負債の利息を支払う前に残っているお金です。
これは、事業運営に使用される負債のコストは考慮されません。負債は通常、債券や銀行融資の形で発生します。したがって、アンレバードフリーキャッシュフローとは、利息費用を差し引く前に会社が使用できる現金の額です。アナリストや投資マネージャーは、この指標をよく使用します。
ディスカウントキャッシュフロー
ディスカウントキャッシュフローは、将来にわたって生み出されると予想される金額に基づいて、何かの価値を推定する方法です。
ディスカウントキャッシュフローの主な目的は、会社の適切な株価など、資産の理論的な価値や価格を決定することです。会社が生み出すディスカウントキャッシュフローと株価を比較することで、投資家はその会社が過小評価されているか過大評価されているかを評価できます。
インクリメンタルキャッシュフロー
インクリメンタルキャッシュフローは、会社が個別のプロジェクトや投資の収益性を測定する方法であり、何を追求するべきかを決定するのに役立ちます。インクリメンタルキャッシュフローを測定することで、会社はプロジェクト間で期待されるキャッシュフローを比較できます。これにより、どのプロジェクトが利益を上げる可能性が高いか、どこに投資すべきかを特定できます。
キャッシュフローの計算方法
キャッシュフローは、注目しているキャッシュフローの種類に応じて、いくつかの方法で計算できます。以下に、よく使われる3つの種類と、それぞれの計算式を紹介します。
営業キャッシュフロー
企業によっては、開示する情報の詳細度に応じて計算式が異なることがあります。多くの大企業は営業キャッシュフローを示す項目を用意していますが、キャッシュフロー計算書がない場合は、次の基本的な計算式を使って算出することができます。
純利益 + 非現金費用 - 運転資本の変化 - 税金 = 営業キャッシュフロー
損益計算書の非現金費用はキャッシュフローに加算されます。これらの費用には、資産価値の減価償却や従業員への株式報酬が含まれます。運転資本の純変化(運転資本は、流動資産から流動負債を引いたものです)は差し引かれます。税金は、現金で支払う必要があるため、差し引かれます。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローとは、運営に必要な現金から、会社の資産(工場やオフィスなど)の維持・更新にあっかる支出を差し引いたものです。こうした支出は設備投資と呼ばれます。フリーキャッシュフローの計算式は下のとおりです。
営業キャッシュフロー - 設備投資 = フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは、財務アナリストや企業経営者によって計算され、事業の強さを示す重要な指標です。これは、事業拡大、買収、配当金の支払い、自社株の買い戻し、負債の返済などに充てられる資金の額を示すからです。会社が外部資金に頼らずに、自社の資源をどれだけ利用できるかを測る指標となります。
キャッシュフロー予測
会社が売上成長と収益性に関する予算や季節予測を作成するのと同様に、キャッシュフローの予測も検討する必要があるかもしれません。簡単な計算式は次のとおりです。
期首現金残高 + 予想流入額 - 予想流出額 = キャッシュフロー予測
予測期間中に予想される価格とコストの変化を予測に組み込む必要があるかもしれません。たとえば、製品コストと間接費が10%増加すると予見し、12%の価格引き上げを計画している場合などです。キャッシュフロー予測は、実際の資金の流れに基づいて、継続的に監視と調整を行う必要がある場合があります。
キャッシュフローの例
以下は、発生主義会計と現金主義会計に基づいたキャッシュフローの仮設的な例です。
スポーツウェアを製造する会社の月間売上が、約10億円に成長しています。8億円の費用がかかり、2億円の利益が出ています。
しかし、売上の半分、つまり5億円は顧客からの30日後支払い条件での取引であり、現金売上は5億円です。
一方で、会社は月間費用の4億円を現金で支払い、残りの4億円ドルは30日後に支払う予定です。
したがって、会社の利益は2億円でしたが、キャッシュフローはその半分の額でした。
5億円の現金売上 - 4億円の現金費用 = 1億円
発生主義会計は「対応の原則」に基づいています。これは、特定の期間の売上高と、その売上高の発生に関連する費用を対応させるというものです。したがって、上記の例では、10億円の売上と8億円の費用が同じ期間に対応します。現金主義会計では、各々の現金部分だけが記録されます。
キャッシュフローはビジネスにとって重要
起業したときはスプレッドシートをいじる自分の姿を想像していなかったかもしれませんが、こうした地味な作業は、実は事業を成功させるために不可欠です。将来のキャッシュフローを把握していないと、事業を継続するための資金が不足する可能性があります。幸いなことに、計算アプリ、テンプレート、計算式を活用して、会社のキャッシュフローを管理し、収益性を向上させることができます。
キャッシュフローに関するよくある質問
簡単に言うとキャッシュフローとは何ですか?
簡単に言えば、キャッシュフローはビジネスや個人の財務におけるお金の出入りの動きです。特定の期間における実際の現金または現金同等物の変化を追跡するものです。
キャッシュフロー計算書とは何ですか?
キャッシュフロー計算書は、特定の期間における会社の現金の流入(受取)と流出(支払)に関する詳細な情報を提供する財務文書です。会社の流動性、支払い能力、全体的な財務パフォーマンスを評価するのに役立ちます。
キャッシュフローで何がわかりますか?
キャッシュフローは、会社が現金の管理をどれだけうまく行っているかを説明し、運営資金を生み出し、負債を支払い、成長に投資する能力を示します。会社の運営効率と財務健全性に関する洞察を提供します。
キャッシュフローは利益を意味しますか?
いいえ、キャッシュフローは利益を意味しません。利益は収入と費用の差であり、キャッシュフローは会社の現金の実際の出入りを指します。会社は利益を上げていても、キャッシュフローをうまく管理できていない場合、キャッシュフローの問題を抱えることがあります。
健全なキャッシュフローとは何ですか?
健全なキャッシュフローとは、会社が常に支出よりも多くの現金を生み出している、黒字の状態です。この黒字のキャッシュフローにより、企業は営業費用をまかない、新しい機会に投資し、負債を返済し、株主への利益還元を行うことができます。
良いキャッシュフロー比率とは何ですか?
良いキャッシュフロー比率は一般的に1以上です。1を超える比率は、会社が営業から生み出した現金で短期負債をカバーできることを示します。この比率は、営業キャッシュフローを流動負債で割ることで算出されます。