これから起業家を目指す人にとって、商品開発はどのような流れで行われているのか、事前に知っておくことが大切です。アイデアを出してから商品の販売に至るまで、どのようなステップを踏むのかについて興味がある人もいることでしょう。
商品開発は、独自性のあるアイデアを出すだけでなく、市場調査やプロダクトマネジメントが必要になります。さらに、売れる商品を生み出すためには、試行錯誤を繰り返すことでアイデアをブラッシュアップすることが必要です。
この記事では、商品開発の流れを、アイデアの出し方から販売に至るまでの流れを実例と共に紹介します。11のステップにわけて細かく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
商品開発の種類

商品開発には主に2つの種類があり、ゼロから新商品を開発する場合と、既存商品の改良やラインナップ強化を行う場合に分かれます。
新商品の開発
商品開発と聞くと、新商品の開発をイメージする人が多いでしょう。業界や時代のトレンド、消費者のニーズなどのデータを集め、分析結果を元に商品を開発します。既存商品とは異なる新たなコンセプトの商品を生み出すため、アイデアを形にするまでに時間がかかる場合があります。さらに、製造方法の決定から量産化のための生産ライン確保までを行う必要があります。安定した商品供給ができるようになるまでに、時間とコストを費やすことになるでしょう。一方で、オリジナリティのある商品を開発できれば、競合他社との差別化ができます。開発の過程で蓄積したノウハウを、次回以降の商品開発に活かすことも可能です。
既存商品の改良やラインナップ強化
すでに販売している自社商品を改良してより良い商品を開発したり、ニーズに合わせて機能やデザインの異なる商品を増やすラインナップ強化を行うことも商品開発のひとつです。市場に流通している商品の問題点を改善したり、顧客ニーズに応えられる改良を加えたりします。商品のコンセプトやブランドイメージを維持しつつ改良を行う場合もあれば、ターゲット層を変えて大幅な路線変更を行う場合もあります。
既存商品のラインナップ強化は、新しい機能やデザインのバリエーションを追加する方法で、商品コンセプト自体は維持するのが一般的です。より多様な顧客ニーズに応えることができるようになるというメリットがあります。
商品開発の流れ11ステップ

1. 市場調査を行う
市場や業界のトレンド、顧客ニーズを知るために、まず市場調査を行います。市場調査を行うことで、潜在的なニーズがあるのか、今後の成長性は期待できるか、競合他社は多いかといった情報を得ることができます。マーケットリサーチとも呼ばれ、自社で行うだけでなく、調査会社に依頼することも可能です。市場調査を行う主な方法は、以下の通りです。
- ウェブアンケート:メールやオンラインフォームでアンケートに回答してもらいます。
- キーワードリサーチ:Googleトレンドで検索回数の多いキーワードやその推移を確認したり、Googleキーワードプランナーで検索ボリュームを確認したりします。
- ソーシャルリスニング:Facebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)などのSNS上で、商品ニーズの有無を調べます。
- デプスインタビュー:調査対象者にインタビューを行います。
- グループインタビュー:調査対象者を数名集めて、グループでのインタビューを行います。
- 行動観察:店頭、街頭などで、調査対象者の行動や身につけているものを観察することで情報収集を行います。
2. 競合分析を行う
競合他社の強みや弱み、取っている施策などを知るために、競合分析を行います。競合他社のマーケティング戦略や価格設定、流通の方法などを把握することができ、自社の立ち位置を知ることにもつながります。これにより、自社の競争優位性を高める施策を考える際にも役立つだけでなく、市場需要を特定して規模を試算することもできます。
3. ターゲティングを行う
ターゲティングは、どのような顧客層に商品を提供するのかを明確化するプロセスのことです。ターゲット市場をより細分化したグループに分ける市場セグメンテーションを行うことで、自社がアプローチすべきターゲットを絞り込みます。年齢層や性別だけでなく、行動パターンや趣味趣向、価値観などさまざまな要素でセグメンテーションが可能です。
ターゲティングを行うことで、顧客ニーズがあるだけでなく、自社の強みも活かせる市場を開拓することにもつながります。ターゲットがはっきりしていると、商品コンセプトの明確化や、ブランド戦略の立案にも有用です。
4. アイデアを出す
市場調査とターゲティングの結果を元に、商品アイデアを出していきます。まずは実現可能かどうかを気にせず、ブレインストーミングを行い、自由にアイデアを出しましょう。市場やターゲットのニーズだけでなく、自社の強みや機能、使用シーンにも着目すると、より幅広いアイデアを出しやすくなります。
5. 企画書を作成する
アイデアを出したら、それを元に企画書を作成し、商品コンセプトをまとめます。企画書には、以下のような内容をまとめると良いでしょう。
- 商品の特徴
- ターゲット
- 利用場面
- 競合優位性や強み
- 商品イメージ
- 市場やトレンドとの整合性
また、商品の見た目が伝わるイメージスケッチも用意しましょう。完成品の商品がどのような形やデザイン、機能を持っているかをわかりやすく、かつシンプルに手描きのイラストで表現します。特筆すべき機能や形状などは、説明文を追加すると良いでしょう。こうすることで、商品の具体的な特徴が伝わりやすくなります。
6. 試作品を作る
商品コンセプトに基づいて、商品の試作を行います。試作品を作ることで、アイデアを形にした際の問題点や改善点、使用しやすさなどを検証することができます。試作は、商品の性能だけでなく、デザインを決める際にも役立ちます。モックアップの段階では問題がなかったデザインであっても、実際に試作してみると改善が必要となることもあるでしょう。そのため、完成品に至るまでに、何度か試作品に改良を加えることも少なくありません。
7. サプライチェーンを構築する
納得のいく試作品ができたら、原材料の仕入れから製造、販売までの一連のプロセスであるサプライチェーンを構築します。具体的な方法は以下の通りです。
- 複数のサプライヤーからサンプルを入手し、品質とコストを比較する
- 候補となるメーカーからサンプルを取り寄せる
- 国内調達と海外調達を比較検討する
製造ノウハウや製造用の設備を持っていない場合は、既存の商品を自社ブランドとして販売するホワイトラベルや、自社オリジナルの商品を製造業者に作ってもらうプライベートレーベルで商品開発することも可能でしょう。
8. 価格設定を行う
商品製造にかかるコストを把握し、価格設定を行いましょう。
まず、売上原価(COGS)を算出します。売上原価とは、商品の製造と流通にかかる総費用のことで、主に以下のような費用が含まれます。
- 原材料
- 製造費用
- 倉庫保管料
- 配送費用
- 輸入税
売上原価や需要、競合状況、製造者から卸売業者への販売価格である仕切り価格なども加味した価格設定を行いましょう。
9. 販売戦略を立案する
ターゲットに効率的にアプローチし、安定した売り上げを確保するには、販売戦略の立案が不可欠です。市場調査や競合分析、ターゲティングの結果を踏まえて、売上目標の設定や販売計画の策定を行います。事業における目標の達成具合を数値で表すKPIを設定することも重要です。具体的な販売戦略の手法には、以下のようなものが挙げられます。
- アップセルとクロスセル:アップセルは、商品に興味を持つ顧客に対し、上位の商品やオプションを提案する手法、クロスセルは商品に関連する別の商品を提案する手法です。
- バンドル販売:商品を組み合わせてパッケージ化し、割引価格で提供することです。
- 無料トライアル:一定の期間、商品を無料で試すことができる仕組みです。
- 割引:初回購入者や期間限定などで商品の割引を提供します。
- 紹介:顧客が、友人や家族を紹介してくれた時に紹介者特典を提供します。
10. テストマーケティングを行う
本格的に商品の販売を開始する前に、テストマーケティングを行って市場の反応や顧客のフィードバックを集めましょう。テストマーケティングとは、新商品や新サービスの発表前に、期間やエリアを決めて試験的に販売し、市場や消費者の反応を確認することです。商品を量産する前に、テストマーケティングを行うことで、市場の反応は期待通りか、想定通りのターゲット層に購入されているか、価格設定は適切か、また問題点や改善点はあるかを知ることができます。
テストマーケティングをせずに市場に参入し、予想通りの反応を得られなかった場合、大量の在庫を抱えたり、販売機会を損失したりといったことが考えられますが、テストマーケティングを行うことで、これらのリスクを最小限に抑えることができます。具体的なテストマーケティングの方法は以下の通りです。
- クラウドファンディングキャンペーンを行う。
- ターゲット市場の非常に小さなグループにアイデアを公開して意見を求める。
- Redditなどのフォーラムでフィードバックを求める。
11. 商品を発表する
商品の販売開始を行う際、重要となるのは新商品の発表です。多額の広告費を確保できない場合でも、以下のコツをおさえて効率的にローンチすることが可能です。
- タイミングを見極める:季節性や消費者のトレンド、市場の状況に合わせてリリース日を決めます。
- 発表するチャネルを選ぶ:SMSやメール、SNS、ウェブサイトなど、商品のローンチを発表するチャネルを選択します。
- 発表する内容にこだわる:キャッチフレーズやキャッチコピー、目を引くビジュアル作成など、発表する内容が閲覧者の印象に残るように工夫します。
- 特別感を演出する:発表パーティーや発表ライブ配信を行ったり、数量や期間限定で特別版を販売したりして特別感を出します。
商品開発の成功事例
キリンビバレッジ:世界のKitchenから

キリンビバレッジの「世界のKitchenから」シリーズの清涼飲料水は、世界各国の過程のキッチンを訪れ、その土地ならではの素材やレシピを参考に作られています。作り手の顔が見える商品を作りたいというキリンビバレッジの思いを前面に出し、SNSやウェブサイトには写真や動画が豊富に使用されています。また、女性をターゲットにした清涼飲料水で、世界各地の「家庭のお母さん」が作るレシピを参考に、美味しさだけでなく家庭料理の温かさ、海外旅行で出会う新たな味などのコンセプトを盛り込んでいます。消費者の特定保健用食品への認知が進んだタイミングでのローンチだったこともあり、健康の為なら高くてもかまわない、という消費者心理を活用し「安全で高級感のある商品」というブランディングにも成功しています。
花王:アタックZERO

花王の「アタックZERO」は、花王の主力商品であったアタックをリニューアルした商品です。化学繊維素材の衣類の増加や洗濯環境の変化に伴い、汚れ落ちの悪さに不満を覚える顧客が多かったことがわかり、自社で研究と開発を重ねました。洗濯洗剤としてすでに大きなシェアを抱えていた商品を改良する過程で、新開発の洗浄基材の開発に成功し、従来品の販売を終了するという決断に至っています。ヤシの実のしぼりかすを原料に活用するなど、サステナブルな取り組みも消費者に受け入れられている理由のひとつです。
DINETTE(ディネット)のPHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ)

D2CコスメブランドのPHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ)は、ユーザー参加型の商品開発で成功を収めた事例のひとつです。Instagramを中心に美容情報を発信する美容メディア、DINETTE(ディネット)が、ユーザーの声を集めながら商品開発を行い、PHOEBE BEAUTY UPの新商品に反映させています。インフルエンサーを起用したり、SNSでコメントやDMに積極的に返信したりと、ファンとの距離が近く、優れた顧客体験を提供していることも人気の理由です。
味の素冷凍食品:ギョーザ

味の素冷凍食品の「ギョーザ」は、油や水を加えずフライパン調理で羽根つき餃子が自宅で作れる商品です。家庭で使っているフライパンを持参してもらい行った消費者調査では、目分量で水を加える消費者が多いことが浮き彫りとなり、水を計る必要のない商品設計を目指して開発が行われました。底面の皮のパリっとした食感だけでなく、側面の皮のモチモチ感や具材のジューシーさにこだわり、何度も素材の配合比率の微調整を繰り返しています。また、「ギョーザ」発売40周年という節目の年にリニューアルされた新商品でもあります。雑誌や新聞、テレビCMなどのメディアを活用した宣伝と、実演試食会や景品の当たるキャンペーンなども連動させることで、リニューアルの事実を広く伝え、売り上げを伸ばすのに成功しています。
商品開発を成功させるコツ

ターゲティングと商品コンセプトにこだわる
適切なターゲティングと明確な商品コンセプトは、顧客の心をつかむ商品開発に欠かせません。ターゲティングが上手くいっていないと、優れた商品コンセプトも受け入れてもらいにくいでしょう。また、商品コンセプトが明確であれば、その後の販売戦略やマーケティング戦略も取りやすくなり、効率的な商品プロモーションが可能となります。
自社のノウハウを活用する
競争優位性を高めるには、自社の強みやノウハウを生かした商品開発を心がけると良いでしょう。消費者のニーズや市場の需要を知ることも重要ですが、これまでに蓄積してきた自社の技術やブランドイメージを活かした商品開発を行えば、競合他社との差別化にも役立ちます。開発のコスト削減やリスク回避のためにも、開発者や生産者としての今までの経験を活かすことが重要です。
顧客の声を集める
商品開発で重要なもののひとつに、顧客の声を集めることがあります。ローンチ後にレビュー収集やアンケートを行い、フィードバックを集めましょう。商品の感想や改善点、需要のあるバリエーションなどを探ることができるだけでなく、新たなニーズの発見につながることもあるでしょう。また、SNSなどを活用して意見を求めることで、顧客が企業に親近感を抱いてくれたり、ファンになってくれたりする場合もあります。特にターゲット層が若い世代の場合には、SNSを積極的に活用すると良いでしょう。
販売後も改善を繰り返す
販売開始後も顧客の声を元に改善を繰り返すことで、より多く販売ができる商品へと成長させることができます。販売計画の立案から実行、効果測定、改善のPDCAサイクルを回すことで、より良い商品開発が可能となり、競合他社との差別化ができます。
まとめ
商品開発には新商品の開発と、既存商品の改良・ラインナップ強化の2種類があります。どちらの場合も、商品開発は市場調査と分析からスタートし、ターゲティングやアイデア出しを行った後に、商品コンセプトの立案を行います。コンセプトに沿って試作品を作ったら、サプライチェーンの構築、販売戦略の立案を行いましょう。また、新商品を販売する前には、テストマーケティングを行うことで市場や顧客の反応を確認しておくと、予想と異なる反応が得られた場合には軌道修正をすることもできます。新商品発表の際には、タイミングの見極めや発表するチャネル選択、内容にこだわることをおすすめします。発表直後には忘れずに顧客のフィードバックを集めることで、更に商品を改良することもできるでしょう。
商品開発を成功させるには、ターゲティングと商品コンセプトにこだわるだけでなく、自社のノウハウを活用することも意識しましょう。さらに、顧客の声を元にPDCAサイクルを回し、改善を繰り返すことで、より良い商品を開発することにもつながります。
商品開発に関するよくある質問
商品開発プロセスとは?
商品開発プロセスとは、事業者が新商品を市場に投入するために取る作業のことを指します。ゼロからの新商品開発だけでなく、既存商品の改良、ラインナップ強化も含まれます。
商品企画と商品開発の違いは?
商品企画は、商品のアイデア出しや市場調査を行い、顧客ニーズに応えられる商品を考案することを指すのに対し、商品開発の仕事内容は、商品コンセプトやアイデアを考えるだけでなく、実際に商品化し、販売することを指します。商品開発では、テストマーケティングを行い改善するといった作業も含まれます。
商品開発に必要なスキルは?
商品開発は、顧客ニーズを知るための情報収集や分析能力が必要となるだけでなく、商品イメージを形にするためのデザイン能力、他部署や取引先とのやり取りを円滑に進めるためのコミュニケーション能力も不可欠です。
必須となる資格はありませんが、商品開発士や商品プランナー、商品開発コーディネーターなどの資格を持っていると、商品開発の際に役立てることができます。
実用最小限の製品(MVP)とは?
実用最小限の製品とは、顧客ニーズに応えられる最小限の機能を備えた製品のことです。英語ではMinimum Viable Productと表され、頭文字を取って「MVP」とも呼ばれます。
初期の段階において、最小限の機能のみを持つ商品を開発します。一度市場に出し、顧客からのフィードバックを得ることで、これらを参考に改善を加えることが可能となります。顧客の反応を見ながら商品のブラッシュアップができるため、より顧客ニーズに合った商品を作ることができます。最初から完璧な商品開発を目指して開発した場合、思うような反応が得られないと大きな時間とコストの無駄が発生してしまいますが、MVPを作ることで、これらの時間とコストの削減にもつながります。
商品開発の流れは?
- 市場調査を行う
- 競合分析を行う
- ターゲティングを行う
- アイデアを出す
- 企画書を作成する
- 試作品を作る
- サプライチェーンを構築する
- 価格設定を行う
- 販売戦略を立案する
- テストマーケティングを行う
- 商品を発表する
文:Masumi Murakami