Shopifyのエンジニアが執筆した、Eコマースプラットフォームアーキテクチャに関するShopifyのブログ記事 Making Commerce better with Shopify’s composable architecture: an op-ed を日本語に翻訳しています。
Shopifyのモジュール化された柔軟なプラットフォームが、ビジネスの複雑性をどのように解決し、またビジネスをどのようにスムーズに拡大・適応・革新できるのかを紹介するブログシリーズの第1弾をお届けします。
大企業は独特の課題に直面しています。
それは、標準化された効率性と特注のカスタマイズの両方が求められることです。
企業は、未来を見据えた技術を採用し、迅速な市場投入を実現したいと考える一方で、パーソナライズされたオムニチャネル顧客体験によってカスタマージャーニーをコントロールしたいとも考えています。こうした課題に対応するために、リスク軽減を目的としたマルチベンダー戦略を採用するケースが増えていますが、同時に、複数のシステム管理に伴う複雑さを回避するために、スムーズな(摩擦のない)統合が求められます。企業独自のニーズに合致した技術とカスタムソリューションを組み合わせることで、特定の目標達成に必要なカスタム開発が可能になるケースが多いと言えるでしょう。
Shopifyはエンタープライズ規模のニーズに対応できることでも広く知られていますが、多くの企業は変革に伴うリスクや複雑化への懸念から、既存のレガシープラットフォームからの移行に慎重です。しかし、Shopifyはコンポーザブルコマースを推進することで、企業が現代的で適応性が高く、未来を見据えた柔軟なコマースソリューションを構築できるよう支援しています。
コンポーザブルアーキテクチャは、綿密な設計と実装を通じて、高い柔軟性、拡張性、そして迅速な開発を実現します。マイクロサービス、API、クラウドネイティブソリューション、分離型アーキテクチャを活用することで、安定性と将来性を兼ね備えたアプリケーションスタックを構築することが可能です。
開発者はモジュール性と再利用性を活かし、単体でも他のシステムと連携しても機能するアプリケーションを開発できます。これにより、企業は個別にカスタマイズされたソリューションを構築しながら、安定性とスケーラビリティの両方を確保できます。
この記事は、エンタープライズレベルのリファレンスアーキテクチャを提供するブログシリーズの第1弾です。引き続き、Shopifyのコンポーザブルアーキテクチャについて詳しく見ていきましょう。
企業に求められる柔軟性と機動性の実現
急速に進化するデジタル環境の中、企業は複雑な業務を管理しながら、多様な販売チャネルを通じてパーソナライズされた顧客体験を提供することが求められています。このような状況下で成功を収めるには、従来のモノリシックなプラットフォームの制約を克服し、よりモダンで柔軟なアプローチを採用する必要があります。
Shopifyの「コンポーザブルコマース」への取り組みは、まさにこの要件に応えるものです。Shopifyのプラットフォームは、モジュール型のアーキテクチャを基盤とし、マイクロサービス、アプリケーション、Webhook、コネクターを組み合わせることで、企業が導入当初から優位性を確保できるよう設計されています。
例えるなら、Shopifyは「レゴブロック」のようなものです。
最初に基本的な機能を提供するいくつかのレゴセットが用意されており、企業はこれらをベースにビジネスの基盤を構築できます。さらに、Shopifyは既存のレゴセットを拡張するための無数のレゴブロックも提供しています。
これは、Shopifyのサードパーティアプリケーション、アクセラレーター、開発ツールなどから成るエコシステムを通じて実現され、企業はそれぞれの技術スタックに合わせて自由にカスタマイズできます。必要なものはすべて揃っていますが、すべてを使う必要はありません。サードパーティ製またはカスタム開発されたアプリケーションを設定して、システムのデフォルト機能を上書きすることも可能です。
ビジネス成長を加速するShopify:柔軟性・拡張性・統合性を備えたアーキテクチャ
Shopifyのコンポーザブルアーキテクチャを活用することで、企業は自社にとって最適なコンポーネントを選択しながら、Shopifyの安全かつ安定したインフラストラクチャを活用できます。
Shopifyのパートナーアプリ、APIライブラリ、再利用可能なコンポーネント群は、迅速性をさらに高め、大規模なデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させます。Shopifyは、企業の成長、拡大、構造化の過程において、制約のない柔軟性を提供します。各コンポーネントは、プラットフォーム全体の機能に影響を与えることなく、個別に更新または交換できます。これにより、継続的な改善と機能提供がより迅速かつ効率的に行えます。
ShopifyのAPI中心のアプローチにより、企業はSAP、NetSuite、Microsoft Dynamics、Optimizely、Klaviyo、Yotpo、Stripe、Avalaraなど、多様なサードパーティツールやサービスとシームレスに統合できます。このようなオープンなエコシステムにより、企業は最適なツールやサービスを活用し、コマース体験をカスタマイズして変革を促進できます。
公開APIとオープンな開発者プラットフォームという特徴を活かして、企業は独自のニーズに合わせてマイクロサービスをShopify上に展開できます。Shopifyが提供する既存のコマースロジックを効果的に置き換え、独自のロジックやサービスを実装し、必要に応じて異なるサービスを独立して展開することも可能です。
カスタムモバイルアプリ、ソーシャルコマースプラットフォーム、従来型のオンラインストアなど、Shopifyの安定したヘッドレスまたはコンポーザブルアーキテクチャを活用することで、あらゆるコマースチャネルにおいてシームレスな顧客体験を提供できます。
成功の鍵はニーズに合わせたソリューションの提供
コンポーザブルコマースの真の強みは、個々の企業ニーズへの対応力にあります。
画一的なソリューションに縛られることなく、コンポーザブルアプローチによって、企業は特定の要件や優先順位に合わせた独自の技術スタックを構築できます。このきめ細かなアプローチにより、各チームは自律性と俊敏性を高めながら、企業全体のエコシステムとのシームレスな統合を実現できます。
汎用的で中立的なフレームワーク:カスタマイズの基盤
以下の図は、企業のEコマースエコシステムで一般的に見られるコンポーザブルコマースアーキテクチャの汎用的かつ中立的な構成を示しています。重要なのは、企業が自社のニーズと目標に最適な技術とパートナーを選択できるという点です。
Shopifyは、コマースエンジンが企業の技術スタックにおける重要な要素であることを認識していますが、それだけにとどまりません。Shopifyが目指すのは、中核となるコマース機能を信頼性の高いShopifyで実行しながら、企業が最適なパートナーやカスタム構築されたマイクロサービスと容易に統合できる環境を提供することです。Shopifyは中核となるコマース機能だけでなく、最高のソリューション群を提供することで、企業が真にユニークなコマース体験を創造できるよう支援することに重点を置いています。
Shopifyとの統合方法をより深く理解するために、次のセクションからは著名な顧客企業におけるアーキテクチャの例を紹介します。Shopifyが既存システムにどのように組み込まれているのか、他の主要コンポーネントとどのように統合されているのか、そしてShopifyが技術ロードマップの中でどのように進化していくのかについて考察します。
例1:数十億ドル規模のグローバル食品・飲料企業
以下は、数十億ドル規模の食品・飲料企業の技術スタックにShopifyがどのように統合されているかを示した例です。
この企業はShopifyのAPIを効果的に活用することで、取引処理と在庫管理を効率化し、SAPなどのシステムとリアルタイムでデータを同期させ、顧客認証や注文プロセスを円滑に実行しています。
ShopifyのWebhookとFunctions APIはイベントドリブンアーキテクチャをサポートし、顧客とのインタラクションに動的に対応します。GoogleのアナリティクスやGrafanaなどのオブザーバビリティプラットフォームと統合することで、顧客行動に関する貴重なインサイトも得られます。
さらに、インテグレーション層を介してモバイルアプリケーションやサードパーティサービスと接続することで、Shopifyは効率性と拡張性を促進する統合されたエコシステムを提供しています。
例2: 4億ドル規模の消費財企業
こちらは、消費財企業の技術スタックに統合されているShopifyの例です。
この消費財企業では、Shopifyの中核的なコマース機能であるカート、チェックアウト、注文プロセスによって、取引処理と在庫管理が効率化され、スムーズな運営が実現しています。
さらに、Shopify Admin APIを活用することでカスタムアプリケーションやサービスと接続し、機能を強化しています。YotpoやCriteoなどのサードパーティソリューションとの統合により、高度な顧客エンゲージメントと分析が可能になり、PIPE17を通じてMicrosoft Dynamics 365などのシステムとのデータ同期も実現しています。
このような統合されたアーキテクチャを採用することで、リアルタイムのインサイトと効率的なワークフローが実現し、市場の需要への迅速な対応と顧客体験の向上を両立させています。
例3: 1000億ドル規模の自動車ブランド
以下の図は、1000億ドル規模の自動車企業の例です。同社はさまざまな地域にてこの手法でShopifyを技術プラットフォームに組み込んでいます。
この自動車企業では、Shopifyの中核機能であるカート、チェックアウト、支払いプロセスなどを活用することで、効率的な取引プロセスと在庫管理を実現し、シームレスな顧客体験を提供しています。また、既存のCRMやCDPとの統合により、顧客プロファイルとイベントデータを効果的に管理し、パーソナライズされたライフサイクルマーケティングを強化しています。
さらに、税金計算や不正防止対策を行うサードパーティシステムとも統合することで、業務効率をさらに向上させています。PIM (商品情報管理) システムは、製品情報の充実とローカライズをサポートし、ERPとの統合は会計と在庫管理の最適化に貢献しています。このように比較的シンプルなアーキテクチャを採用することで、グローバル展開しながらも、多様な市場ニーズに対応したパーソナライズされた体験を提供できるようになりました。
コンポーザブルコマースの共通点と未来への展望
ここまでいくつかの企業の事例を紹介してきました。これらの活用事例は企業ごとに大きく異なり、それぞれの運営モデルやビジネスニーズに合わせた独自の技術基盤を反映しています。しかし、いくつかの共通点も見られます。
第一に、Shopifyが提供するコマース機能は、オンラインとオフライン両方のニーズをサポートするように設計されており、未来志向の技術プラットフォームの重要な要素として、安定性と柔軟性を提供しています。
第二に、Shopifyは世界クラスの機能を提供する一方で、製品開発から顧客サービスに至るまで企業全体を包括的に管理するには、他のプラットフォームやソフトウェアとの連携が必要となる場合もあります。
最後に、コンポーザブルであることは、単にIT・DXリーダーの希望というだけでなく、企業にとって安定性、低コスト、そして将来性を兼ね備えたアーキテクチャを構築するための戦略的なアプローチです。マイクロサービス指向戦略やモノリシックシステムからの移行で失敗を経験した技術リーダーは、組織に合わせて適切な抽象度のソリューションを選択することの重要性を理解しています。
エンタープライズ向けのShopifyプランにご興味のある方は、ぜひこちらからお問い合わせください。
今回はShopifyのコンポーザブルアーキテクチャの概要を紹介しましたが、実際にはこの記事で触れた以上の深みがあります。次回以降は、Shopifyと統合された主要アプリケーションの詳細、企業が直面する課題、そしてこのプラットフォームでコマース戦略を統一することで得られるメリットについて、さらに深く掘り下げていきます。