企業が市場で信頼を得るためには、商品やサービスを提供するだけでなく、自社の考え方や価値をどのように伝えるかも重要です。こうした情報発信や社外との関係構築を担うのが広報です。近年は組織の規模を問わず、広報の整備を進める企業が増えています。
本記事では、広報とは何かをわかりやすく解説し、企業における広報の役割や仕事も紹介します。これから広報を担当する方や、広報の仕組みを整えたい企業の方はぜひ参考にしてください。
広報とは

広報とは、企業や団体などが関係者との良好な関係を築くために行う情報発信活動です。顧客、株主、取引先、従業員、地域社会などに向けて適切なメッセージを発信し、信頼を育てながら、最終的な目的達成や課題解決に役立てていきます。
広報とPRの違い
PR(パブリック・リレーションズ)も企業や団体が関係者や社会との良好な関係を築くことを目的とした活動ですが、より広い領域を指し、広報はその一部であるとされています。
具体的には、PRには情報発信だけでなく、社会の声を聞き取る広聴も含まれます。世論調査や意見収集などを通じて外部の評価やニーズを把握し、企業の方針や活動に反映していくこともPRの役割です。
広報と宣伝の違い
宣伝は主に消費者を対象として、商品やサービスの購入を促し、売り上げを伸ばすための販促活動であり、ステークホルダーからの信頼獲得を目指す広報とは目的が異なります。手法にも違いがあり、宣伝はテレビCM、新聞広告、Web広告などの有料広告を活用することが多いですが、広報は企業活動を通じて理解を深めてもらうアプローチを取ります。
広報の役割

広報の役割は、以下の3つに分けられます。
1. 企業広報
企業広報(コーポレート広報)は、企業そのものへの理解と信頼を高める役割を担います。対象は、株主、投資家、取引先、行政、メディア、求職者、地域社会など、企業活動に影響力を持つステークホルダーです。企業の理念や姿勢、事業の方向性を適切に伝え、長期的な関係を築くことを目指します。人材採用や資金調達、取引関係など経営に直結するテーマを扱うため、企業の顔として位置づけられます。
2. サービス広報
サービス広報は、商品やサービスの特徴、ブランドの世界観を社会に広める役割を担います。対象は、既存顧客、潜在顧客、商品に関する専門メディア、インフルエンサーなど、主にサービスに直接関わる人々です。商品の認知を広げるだけでなく、ブランドの魅力やストーリーを伝えることで共感を生み、長期的なファンづくりにもつながります。事業成長に直結する領域であり、マーケティングとも密接に関わります。
3. 社内広報
社内広報(インターナル広報)は、企業のビジョンや社外からの反応などを社員へ伝え、組織全体が目標に向かって行動できる状態をつくる役割を担います。対象となるのは、従業員、経営陣、アルバイト、契約スタッフ、業務委託先、内定者など、企業の内部で働くすべてのメンバーです。社内コミュニケーションを活発化し、企業理念や戦略、従業員の取り組みやその成果を共有することで、企業文化の形成や社員のモチベーション向上を図ります。また、課題やリスクを共有し、必要に応じて改革を促すこともあります。
広報の仕事

プレスリリースの作成・配信
新商品の発表、業績報告、経営方針の変更など、企業のニュースを正式な文書としてまとめ、メディアに配信する業務です。ブランド認知度を高めるための重要な役割を担っています。発表後は反応を確認し、次の発信へ活かすまでが一連の流れです。
主な業務内容
記者会見の運営
記者を招待した説明会の運営を担当し、会見の企画から当日の運営、終了後のフォローまで一連の流れを管理します。記者会見は、経営に関わる重大発表など話題性・緊急性が高い情報を公表する際に行われます。正確かつ誤解のない形での情報発信が求められるため、発表内容の整理や想定される質問への対応など、さまざまな調整が必要です。
主な業務内容
- 企画と会場選定
- プレゼンテーションや質疑応答の準備
- 記者クラブへの案内
- 本番の進行管理、司会、取材同席
- 会見後のフォローアップ
メディアリレーションズ
メディアとの良好な関係づくりを通じて、メディア露出の機会を広げる取り組みです。記者の関心やメディアの編集方針を理解しながら、社会的に意義のある情報を、社会や業界、メディアの動向に合わせたタイミングで提供します。業界動向の共有や企画相談など、双方に価値のあるやり取りを続けることがポイントです。
主な業務内容
- 記者や編集者との日常的な連絡
- 記事化につながる情報の提案
- 取材依頼への迅速な対応
- 記者クラブでの資料配布や説明
- 取材後の確認、フォローアップ
自社サイトやSNSの運用
ホームページ、オウンドメディア、SNSなどを通じて企業の情報を直接発信します。継続的な発信を通じて、企業の価値観や日頃の取り組みを伝え、ステークホルダーとの接点を増やします。また、誤解を招かないよう、内容の正確性や表現のトーンを慎重に管理することも重要です。
主な業務内容
- コーポレートサイトのニュース欄や採用情報ページの更新
- 決算資料やIR資料などの管理
- オウンドメディアの記事企画、執筆、編集
- X(エックス)、Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)などの運用
- 投稿内容のチェック
- コメントやメッセージの確認
社内報の作成・配信
社内のメンバーに向けて情報を届け、企業文化や価値観を共有する広報活動です。社内報やイントラネットを活用して、経営の考え方や各部門の取り組みを可視化し、社員が同じ認識で働ける環境をつくります。
主な業務内容
- 発信媒体の選定
- 社員インタビュー、プロジェクト紹介
- 経営陣からのメッセージ共有
- 現場の声や成功事例の紹介
- 社内イベントや制度の案内
- グループ企業や関連会社への情報共有
コンプライアンス管理
企業が外部へ発信するあらゆる情報が、法令や社内ルールに抵触していないか、企業イメージを損なわないかを確認する業務です。わずかな表現のミスが大きなトラブルにつながったり、世間の誤解を招いたりするケースもあるため、社会情勢や受け手の価値観を踏まえた慎重な判断が求められます。
主な業務内容
- 公式資料、広告、PRコンテンツの表現チェック
- 社員のSNSや講演における発信内容の確認
- 差別表現や誤解を招く表現の排除
- 法務部門や各部署との連携
クライシスコミュニケーション
事故、不祥事、システム障害、炎上など、企業の信頼を揺るがす事態が発生した際に、被害を最小限に抑え、信頼を回復するための対応を行います。世間の混乱や誤解、二次災害を招かないよう、正確かつ迅速に状況を伝え、ブランド価値への影響を最小限に抑えることが求められます。社会からの厳しい視線にさらされた局面に対処しなければならず、大きな責任が伴います。
主な業務内容
IR活動
株主や投資家に向けたコミュニケーション活動(IR活動)も広報業務の一部として扱われることがあります。IR活動では、単に財務や経営状況を伝えるだけでなく、企業の価値や今後の方針を的確に伝えることが求められます。課題やリスクについて誠実に説明することも、信頼関係を構築するうえで重要です。
主な業務内容
- 株主総会・投資家説明会・決算説明会の企画運営
- 開示資料の作成
- 投資家やアナリストとの個別面談
- CSR活動
会社説明会の運営
会社説明会は、求職者に自社の魅力や働く環境を伝える重要な広報活動です。求職者に企業像が正確かつ魅力的に伝わるように、人事と連携しながら、企業理念や事業内容、働き方などを分かりやすく整理することが大切です。
主な業務内容
- 新卒、中途採用向け会社説明会の企画
- 会社紹介資料、スライドの表現チェック
- 登壇者が発表するメッセージの作成
- 当日の進行管理、質疑応答の準備支援
- 参加者アンケートの回収、改善提案
企業における広報活動の事例3選
1. 株式会社メルカリ
株式会社メルカリは、エンジニア組織の知見や文化を広く社会に共有する「Mercari Engineering Blog」を運用しています。専門性の高い技術情報を継続的に公開することで、メルカリの技術力や開発体制の透明性を示し、サービスへの信頼向上に寄与しています。また、現場エンジニアが自ら発信するスタイルは、自社の開発文化を社外に伝える効果が高く、エンジニア採用の強化にも大きく貢献しています。
2. 株式会社スープストックトーキョー
株式会社スープストックトーキョーでは、「10年後もおいしいものを食べ続けられる未来をつくる」という企業の価値観を伝えるため、サステナビリティに関する情報を公式サイトで発信しています。たとえば、通常は流通しない規格外の果実であっても、味や品質に問題がないものを食材として活用するなどの取り組みが紹介されています。こうした活動をストーリーとして伝えることで、消費者をはじめとした関係者に関心を持ってもらいやすくなり、社会との信頼関係構築につながっています。
3. 株式会社良品計画
無印良品を展開する株式会社良品計画は、MUJI REPORTという報告書をオンラインで公開しています。内容は財務情報だけでなく、環境・社会への取り組みなどの情報も含まれていて、株主や投資家だけでなく顧客、求職者、地域社会など、幅広いステークホルダーが企業姿勢を理解できるように設計されています。
広報を成功させるための5つのポイント
1. 情報を正確かつ分かりやすく伝える
広報の基本となるのは、媒体ごとに適した表現を用いて、相手に理解されやすい形で伝えることです。たとえばプレスリリースでは、タイトルや冒頭で「誰が・何を・なぜ行ったのか」を明確に示し、最初の数行で要点を把握できるようにします。本文では事実、背景、補足情報などを順序立てて整理すると、記者や関係者が内容を理解しやすくなります。また、数字やデータ、第三者のコメントを適切に盛り込むことで、情報の客観性と説得力を高めることができます。
2. 関係者との協力体制を築く
広報は社内の各部署、経営陣、記者など多くの関係者と協力しながら進めるため、日頃から信頼を得られる体制をつくることが重要です。相談しやすい雰囲気づくりや丁寧な情報共有が、発信の質やスピードにも影響します。
3. 目標を明確にする
広報活動を成功させるには、目標を明確にすることも重要です。新商品の告知、ブランド認知度の向上、採用活動の強化など、自社が広報で何を実現したいのかを整理することで、情報発信の方向性が定まり、適切な媒体も選びやすくなります。また、目標を設定しておくことで、成果の客観的な測定にもつながります。
4. トラブル発生時は誠実かつ迅速に対応する
炎上や不祥事が起きた際に大切なのは、透明性と誠実さを優先した対応を心がけることです。情報を隠ぺいするなど不誠実な対応を取ってしまうと、ブランドの信用を長期的に損なうことになりかねません。トラブルが発生した際は、状況を迅速に確認し、事実にもとづいた情報を発信するとともに、再発防止策を明確に示すことが重要です。
また、あらかじめ対応フローやマニュアルを用意しておくことで、万一のトラブル発生時も、混乱を防ぎ、統制された対応につなげることができます。
5. ツールやデータを活用して発信の質を改善する
ウェブ解析ツール、SNS管理ツール、ニュース配信サービスなどのデジタルツールを活用すると、広報活動の成果を可視化できます。データをもとに文章の改善や発信タイミングの最適化を行うことで、広報の質を継続的に高められます。
まとめ
広報は、企業とステークホルダーをつなぐための幅広い活動を担っています。社外への情報発信だけでなく、社内での情報共有、危機対応、採用支援など、多面的に企業を支えています。
効果的な広報活動を続けるためには、プレスリリース、イベント運営、SNS発信、社内報づくりなど、複数の施策を組み合わせて継続的に話題を生み出していくことが欠かせません。今回紹介した広報の事例やポイントを活かし、優れた広報組織の構築を目指しましょう。
よくある質問
広報とは?
広報とは、企業や団体が顧客・株主・取引先・社員・地域社会などと信頼関係を築くために行うコミュニケーション活動です。社会からの期待や反応を踏まえて、組織の価値観や姿勢が適切に伝わる情報を選び、分かりやすく発信することで、理解や共感を促します。
広報と宣伝の違いは?
広報はブランド認知度の拡大やブランド価値への理解を促し、ステークホルダーから信頼を得るのが目的であるのに対し、宣伝は商品・サービスの認知を向上させ購買を促すための施策です。
広報の役割は?
広報の役割は大きく3つに分けられます。
- 企業広報:企業の理念や姿勢を社会へ伝え、株主、投資家、行政、メディアなどとの信頼構築を図る役割
- サービス広報:商品やサービスの価値をユーザーへ伝え、ブランドへの理解や共感を促す役割
- 社内広報:社員へ企業の方向性や情報を共有し、一体感を高めることで組織力や企業文化を育てる役割
広報の主な仕事は?
- プレスリリースの作成・配信
- 記者会見の運営
- メディアリレーションズ
- 自社サイトやSNSの運用
- 社内報の作成・配信
- コンプライアンス管理
- クライシスコミュニケーション
- IR活動
- 会社説明会の運営
文:Hisato Zukeran





