国際的な取引が当たり前になった今、私たちは国内で暮らしていても、知らないうちに海外の商品やサービスと関わっています。その中で欠かせない仕組みのひとつが「関税」です。関税という言葉はニュースで耳にする機会が多いものの、普段の生活ではあまり意識しないかもしれません。しかし関税は、輸入品の価格や国内産業の競争力、企業の経営判断にまで影響する重要な制度です。
本記事では、関税の基本的な仕組みや目的を、初めての方にもわかりやすく解説します。
関税とは?

関税とは、海外から輸入される商品に対して国が課す税金のことです。この制度は各国で広く導入されており、輸入者である企業や個人は、商品を受け入れる側の国へ関税を納めることになります。
たとえば、海外から商品を仕入れてECサイトで販売する場合、輸入を主導したサプライヤー、または海外業者と直接取引しているのであれば販売事業者自身が、関税を負担することになります。支払った関税は仕入れコストに含まれるため、最終的には商品の販売価格に影響します。
関税が発生するタイミング
関税は、海外から届いた商品を「外国貨物」から「国内貨物」に切り替えるときに発生します。輸入した商品はまず税関の管理下に置かれ、必要に応じて検査や書類確認が行われます。このとき、商品を税関管理下のまま一時的に保管する場所として保税倉庫が使われます。関税は、保税倉庫などの保税区域から商品を国内に引き取るタイミングで納めます。
関税の役割

1. 国内産業の保護
海外から安価な商品が大量に流入すると、国内の生産者が価格競争で不利になり、事業を続けられなくなることがあります。関税をかけることで輸入品の価格を一定程度引き上げ、国内産業の競争力を維持する狙いがあります。
たとえば日本は輸入米に対して1kgあたり341円、または402円の関税を課しており、海外の安価な米が輸入されるのを抑制しています。
2. 税収の確保
関税は国家の税収のひとつです。
現在は消費税などのほうが税収としては大きいものの、関税は今でも国を支える重要な財源です。輸入量の多い国では、関税収入が無視できない規模になることがあります。特に発展途上国では、国境で徴収する関税が最も安定した税収源となる場合が多いです。
3. 貿易政策・外交手段
関税は、国どうしの交渉にも使われます。
たとえば、海外企業が国内の市場価格より極端に安い値段で商品を輸出する「ダンピング」や、外国政府の補助金によって価格が不当に下がっている場合など、国内産業が不利になる輸入が発生することがあります。こうした時には、一時的に税率を引き上げる緊急関税(セーフガード)が発動されます。また、相手国の措置に対抗して関税を引き上げる報復関税なども代表的です。
逆に、経済的な支援や連携のために関税率を引き下げる協定を結ぶこともあります。このように、関税は貿易のバランスを調整し、国際的なルールを守るための交渉材料にもなっています。
関税の影響

企業への影響
関税による影響を最も受けやすいのは、越境ECなどの輸出入ビジネスに従事している企業や、海外から原材料を輸入している企業です。輸入品の価格が高くなれば仕入れコストが増え、利益率が下がりやすくなります。そのため、価格設定の見直しや、より安い仕入れ先の検討が必要になることがあります。
消費者への影響
関税が上がると輸入品の価格が高くなり、その分が最終的に小売価格に反映される価格転嫁が起きることが多いです。衣類、食品、日用品など、輸入に依存する商品が値上がりすれば、家計への負担が増える可能性があります。
経済・サプライチェーンへの影響
関税は国どうしの対抗措置を招くことがあり、報復関税によって貿易摩擦に発展することがあります。関税の応酬が続くと、物流が滞ったり、仕入れルートが不安定になったりと、企業の調達活動にも影響が広がります。特に世界的なサプライチェーンは国境をまたいで構成されているため、ある地域で貿易摩擦が起きるだけで幅広い産業に波及し、価格変動や納期遅延が生じる可能性があります。
関税の種類

日本で輸入品に適用される関税率は、大きく「国定税率」と「協定税率」の2種類に分かれています。国定税率は日本が法律に基づいて決めたもので、協定税率は日本が締結している国際条約に基づいて適用されるものです。どちらが適用されるかは、品目や相手国、条約の有無などによって決まります。
1. 国定税率
日本において「関税定率法」と「関税暫定措置法」という2つの法律に基づいて決められた税率です。主に次の3種類があります。
- 基本税率:「関税定率法」に基づいて、長期的に適用される基本的な税率です。
- 暫定税率:市場環境の変化や政策上の必要がある場合に、一定期間だけ基本税率に代わって適用される税率です。「関税暫定措置法」で定められ、基本税率よりも優先して適用されます。
- 特恵税率:開発途上国の経済発展を支援するため、対象国からの輸入品に対して通常よりも低く設定されています。
2. 協定税率
協定税率は、日本が締結している国際条約に基づいて適用される税率です。
- WTO(世界貿易機関)協定税率:WTO加盟国に対して適用される税率で、「一定以上高い関税を課さない」という国際的な約束に基づいています。国定税率より低い場合は、こちらが優先して適用されます。
- EPA(経済連携協定)の税率:特定の国や地域と締結した協定に基づき、関税を引き下げたりゼロにしたりする税率です。協定ごとに内容が異なり、対象国からの輸入について大きなメリットがあります。日本はこれまでにEU、イギリス、オーストラリア、メキシコなど多くの国とEPAを締結しています。
- 多国間EPA(CPTPP・RCEP など)の税率:複数の国が参加するEPAもあり、その代表例がCPTPP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定) とRCEP(地域的な包括的経済連携)です。これらの協定では幅広い品目で関税の引き下げや撤廃が進められており、アジア太平洋地域の貿易を促進する役割を果たしています。
まとめ
海外から商品を仕入れて販売する事業者にとって、関税は価格設定、仕入れ判断、利益率などに直結する重要な要素です。基本的な仕組みを知っておくだけでも、急な税率変更や国際情勢の変化に落ち着いて対応できるようになります。
変化を早くつかむことができれば、仕入れ先の切り替えや価格設定の調整など、適切な対応をいち早く行えます。逆に、変化に気づくのが遅れると、利益率の低下や在庫リスクにつながることもあります。ニュースなどで最新の情報をこまめに確認しながら、自分のビジネスに合った判断ができるように備えていきましょう。
よくある質問
関税は誰が払う?
海外から商品を日本に入れるときは、商品を輸入する企業や個人が関税を納めます。
支払った関税は仕入れコストに含まれるため、最終的には商品価格に反映され、消費者が間接的に負担することも多いです。
輸出の場合は、相手国側の輸入者が関税を負担します。
個人輸入でも関税はかかる?
個人が自分で使う目的で海外から商品を購入した場合でも、一定額を超えると関税や消費税が課税されます。少額の場合は免税になることもありますが、高額商品や数量の多い注文は課税されやすいため、個人輸入でも「関税が発生する可能性がある」と考えて確認しておくと安心です。
関税額はどうやって決まる?
商品ごとに決められている HSコード(品目分類) によって税率が決まっています。HSコードは世界共通の番号で、日本では国定税率、協定税率のうち該当する最も低い税率が適用されます。
報復関税がかけられた場合、払うのは誰?
関税を払うのは、常に「輸入する側」つまり、関税をかけた側の国の事業者です。たとえば、アメリカが中国製品に関税をかけた場合、関税を支払うのはアメリカ側の輸入者(企業や消費者)となります。中国がアメリカに対して報復関税をかけた場合も同じで、その関税を支払うのは中国側の輸入者になります。報復関税は「相手国に罰金を払わせる仕組み」ではなく、相手国の輸出品を売れにくくして、貿易交渉で圧力をかけるための措置なのです。
文:Taeko Adachi





