ECサイトを利用する顧客にとって、好きな決済手段を選べるのはもはや当たり前の時代になりました。2022年にPonemon Instituteが行った調査(英語)によると、希望する支払い方法が選べなかったとき、サイトから離脱したことがある人は全体の59%にのぼります。しかし、ネットショップを開業してユーザーの求める決済方法にできる限り対応しようと思うと、それぞれの決済機関で審査を受けて個別に契約しなければなりません。契約後も顧客の支払い管理や入金確認などの事務作業をそれぞれのシステム上で行わなければならず、膨大な負担が発生してしまいます。そんなときに便利なのが、決済代行サービスです。
決済代行サービスとは
決済代行サービスとは、クレジットカード会社など決済手段を提供する機関と、それらの決済手段を導入したい事業者を仲介し、審査や契約手続き、売上入金管理などを代行するサービスです。
事業者が複数の決済機関と直接契約を結ぼうとすると、契約だけでなくシステムの構築と導入、入金管理などに膨大な手間がかかります。決済代行サービスを利用すると、複数の決済機関との間に発生する手続きを決済代行会社がまとめて行ってくれるため、一度の導入で幅広い決済方法を顧客に提供できるようになります。また、ひとつのシステムで入金管理なども行えるため、作業負担も軽減することができます。
決済代行サービスの例
- クレジットカード・デビットカード
- 後払い(コンビニなどでの後払いや、商品受け取り時の代金引換など)
- 電子マネー
- QR・バーコード決済
- 携帯キャリア決済
- 口座振替
- プリペイドカード
- 請求書を利用した掛け払い(BtoB)
導入事例として特に多いのは、クレジットカード決済の代行サービスです。クレジットカードには、VISA、Mastercard、JCB、American Express、Diners Club International、銀聯(ぎんれん、別名ユニオンペイ)、Discoverの7大国際ブランドがあり、それぞれのブランドの下に、カードを発行してカード会員を管理するイシュアと、カード加盟店を管理するアクワイアラが存在します。
例えば、VISAとJCBを決済方法として導入したい場合、販売者はVISAのアクワイアラとJCBのアクワイアラそれぞれと契約をする必要があります。決済代行サービスを利用すると、事業者はひとつの決済代行会社と契約を結ぶだけで、VISAとJCB両方のクレジットカード決済に対応できるようになります。
決済代行サービスの仕組み
消費者がネットショップでクレジットカードを利用して商品を購入した場合を例にとり、取引の裏側でどのような手続きで代金が販売者の元へ届くのか、決済代行サービスを利用したときの決済処理の仕組みを説明します。
1. 消費者が、クレジットカード情報を入力する
消費者がネットショップでクレジットカード情報を入力します。この時点では、実際の現金の移動は発生していません。入力された情報は、決済ゲートウェイというサービスを通して暗号化され、決済代行会社に安全に送信されます。
2. 決済代行会社が、売上データをクレジットカード会社に伝え、承認を求める
決済代行会社は、「消費者がクレジットカードを使用して〇〇円の商品を購入した」という売上データをクレジットカード会社に送り、支払いの承認を求めます。このプロセスは通常リアルタイムで行われ、数秒以内に完了します。
3. クレジットカード会社が、支払いを承認する
売上データを受け取ったクレジットカード会社が支払いを承認すると、消費者と販売者の取引が成立します。クレジットカード会社が支払いを拒否した場合、消費者は別の支払い方法を試すことができます。承認が得られた場合、決済代行会社は販売者に支払いの確定を通知します。
4. 販売者が、消費者に商品を届ける
取引の成立にともない、販売者は消費者に商品を発送します。デジタル商品などの場合は、この時点でアクセスが提供されます。
5. クレジットカード会社が、決済代行会社に商品代金を入金する
取引に問題がなければ、クレジットカード会社は受け取った売上データにある金額を決済代行会社に支払います。
6. 決済代行会社が販売者に売り上げを入金する
決済代行会社は、商品の売上金額から手数料を差し引いた分の金額を販売者に支払います。
7. カード会社が、消費者の口座から商品代金を引き落とす
クレジットカードの引き落とし日に、消費者の口座から商品代金が引き落とされます。消費者が商品を購入する際の決済プロセスが完了します。
決済代行サービスでできること
希望する決済機関との契約
決済代行サービスでは、決済機関への審査申し込みや契約を代行します。事業者は決済代行会社に必要書類などを提出すれば良く、決済機関ごとに同じ情報を何度も伝える必要がありません。
決済サービスに合わせたシステムの構築
決済代行サービスは、決済処理を行う環境を構築します。事業者は決済機関ごとにシステムを構築する必要がなく、決済代行会社が各決済サービスに合わせたシステムをまとめて構築します。
決済処理の実行
顧客が商品を購入したときの売上処理やキャンセル時の返金処理、入金処理を代行します。決済データと取引記録を照合し、金額があっているか確認する消し込み作業を自動化するサービスを提供しているところもあります。
決済代行サービス会社の代表例3つ
Shopify(ショッピファイ)ペイメント
Shopifyペイメントは、Shopifyのオンラインストアのための決済代行サービスです。Visa、Mastercard、JCB、American Expressのクレジットカードとデビットカード、Apple Pay、Google Pay、Shop Payに加え、BancontactやiDEALなど海外で人気の決済方法も受け付けることができます。Shopifyでネットショップを運営している場合、Shopify内で簡単に登録できます。支払いの受け取りには、週1回、または月1回のいずれかを選択できます。
SBペイメントサービス
SBペイメントサービスはクレジットカード決済、PayPayなどのオンライン決済、コンビニ決済、キャリア決済、Google Pay、楽天ペイなど、40ブランド以上の決済方法を取りそろえた決済代行サービスです。特筆すべきは、クレジットカード加盟店の管理を行うアクワイアラでもあり、審査から決済サービスの提供までワンストップで行っているという点です。また、Shopifyでネットショップを運営している場合は、連携した決済サービスがあり、新たにシステムを開発する必要がありません。支払いの受け取りは15日と末日の月2回です。
ソニーペイメントサービス
ソニーペイメントサービスは、30年以上の長い実績をもち、クレジットカード決済、PayPayやLinePayなどのオンラインID決済、コード決済、Apple PayやGoogle Payなどのアプリ決済、コンビニ決済、電子マネー決済、キャリア決済、Pay-easy銀行振り込み、BtoBかけ払い決済、口座振替など、非常に幅広い決済手段に対応している決済代行サービスです。国内で唯一、カード会社に対して他のネットワークを解さずに接続している会社であり、安定性に定評があります。支払いの受け取りは当月末締め、翌日末日入金の月1回ですが、回数の変更は相談が可能です。
決済代行サービスの選び方:6つのポイント
1. 対応している決済手段は何か
利用したい決済手段に対応しているだけでなく、なるべく多くの決済手段に対応している決済代行サービスを選択しましょう。対応する決済方法が多いほど顧客のニーズに広く対応できます。 越境ECを視野にいれている場合は、多くの決済代行サービスは国際取引に対応していますが、利用可能な決済手段や手数料は国によって異なるため、ターゲットとなる国やエリアで一般的な決済手段に対応しているかどうかを確認して選びましょう。
2. 利用料や手数料はいくらか
利益に影響が出ないよう、月額のサービス利用料や手数料がなるべく抑えられる決済代行会社を選びましょう。決済代行会社を利用する場合、導入費用だけでなくサービス利用料や手数料などが発生します。こういった初期費用やランニングコストによって資金繰りや利益率に悪影響が出ないように、検討段階で確認することが大切です。決済代行サービスでは次のような費用が発生します。
- 初期費用:システムをネットショップに組み込むための初期設定や、導入サポートなどにかかる費用です。実店舗の場合は、機器の導入もここに含まれます。初期費用の相場は3万円〜8万円程度ですが、個別に見積もりが必要なケースもあります。初期費用が無料の決済代行サービスもあります。
- 月額固定費:システムの利用やデータの管理に対して毎月支払う費用です。相場は3000円〜8000円です。
- 決済手数料:売り上げごとに発生する手数料です。決済手段や商品の種類によっても手数料は異なりますが、クレジットカード取引の手数料の相場は2.5%〜5%です。
- データ処理料:金額にかかわらず、取引ごとに発生するデータ処理の手数料です。一取引あたり10円程度が相場です。
- 振込手数料:売上金の振り込みにかかる手数料で、相場は数百円から千円程度です。振込頻度によって変わる場合もあります。
ほかにも、取引がキャンセルされ返金が発生する場合などに追加で手数料が発生する場合があります。取引量や業種によっては手数料が交渉可能な場合もあるため、複数のサービスの見積もりをとり、比較検討すると良いでしょう。
3. 入金サイクルは妥当か
月次、週次、日次など、どの頻度で入金されるかを調べ、事業に適しているかどうかを確認しておきましょう。決済代行サービスによって、取引の成立から入金までの期間が異なります。入金サイクルが短ければ資金繰りへの影響は少なくてすみます。
4. セキュリティは万全か
顧客の決済情報を安全に保護するための対策がどれだけ整備されているかも重要なポイントです。2024年、国内のクレジットカードの不正利用に対する被害額は過去最悪の541億円であり、個人情報の流出といった事件も相次いでいます。不正利用や個人情報の流出が起きてしまうと、販売者も信頼を失ってしまう可能性があります。そうならないためにも、セキュリティの対策が徹底されている会社を選びましょう。
クレジットカードの不正利用対策には次のようなものがあります。
- 3Dセキュア:カード情報だけでなく、カード会社に登録した別のパスワードを入力することで、悪意のある第三者による不正利用を防ぎ、安全に買い物ができるようにする仕組み
- 不正検知サービス:取引データを学習し、不審な取引があるとアラートを出す仕組み
またセキュリティ対策の認証を得た企業かどうかも、ひとつの判断基準になります。認証には次のようなものがあります。
- ISO/IEC27001:情報セキュリティの対策を高いレベルで行っている事業者に与えられる国際規格
- プライバシーマーク:個人情報に関して適切な保護措置を行っている事業者に与えられる日本産業規格
決済代行サービス会社がとっている対策や、取得した認証を確認しましょう。
5. サポート体制が整っているか
決済に関することで顧客から問い合わせがあった場合、自社だけで解決するのは困難です。問題が発生した際にコールセンターや担当者とコンタクトが取りやすく、サポート体制が充実した決済代行サービスを選びましょう。
6. 補償・保険の用意はあるか
チャージバックに対する補償や保険の制度も確認しましょう。クレジットカードでは、不正利用などの理由で顧客が支払いに同意しないとき、販売者である加盟店がクレジットカード会社に利用代金を返金する「チャージバック」が発生することがあります。この場合販売者に商品が戻ることもないため、大きな損害となります。決済代行サービスによっては、この補償をあらかじめプランにいれていたり、追加オプションとして保険を用意していたりするところがあり、チャージバックの損失を一定額補償してもらえます。
まとめ
決済代行サービスは、EC事業者などとクレジットカード会社などの決済機関の間に入り決済手続きを代行するサービスで、決済に関連する事務作業の負担を軽減してくれます。決済代行サービスを利用することで、顧客に多様な決済手段を提供できるため、カゴ落ちを防ぎ売り上げにもつなげやすくなります。決済代行サービスを選ぶ際は、対応する決済手段の多さ、手数料の低さ、入金サイクルの短さ、セキュリティの高さなどが重要なポイントになります。この記事を参考に自分の事業にあった決済代行サービスを選び、多様な決済方法を導入して、ビジネスを成長させましょう。
決済代行サービスについてのよくある質問
決済代行サービスとは?
決済代行サービスとは、クレジットカード会社をはじめとする決済機関と、決済を導入したい事業者を仲介し、審査や契約手続き、売上入金管理などを代行するサービスです。
代表的な決済代行サービスとは?
- Shopify ペイメント
- SB(ソフトバンク)ペイメントサービス
- ソニーペイメントサービス
- PayPal(ペイパル)
- KOMOJU(コモジュ)
- Epsilon(イプシロン)
- Paygent(ペイジェント)
- ZEUS(ゼウス)
決済代行サービスと決済ゲートウェイの違いは?
決済代行サービスが事業者に代わって決済処理を行うのに対し、決済ゲートウェイはオンラインでの支払い処理を安全かつ迅速に行うための技術を提供する点に違いがあります。決済代行サービスが、決済ゲートウェイを兼ねる場合もあります。
文:Taeko Adachi