新しく事業を立ち上げたいと考えているものの、起業にあたって必要なことがよく分からない人も多いでしょう。そこでこの記事では、起業する際に必要な5つの手順を詳しく解説します。事業活動に必要な資金の調達方法や、起業家に求められる知識・スキルなども紹介しますので、起業を検討している人はぜひ参考にしてください。
起業に必要な手順5つ
1. 起業の目的を明確にする
まず、起業の目的を具体的に定める必要があります。なぜ事業を始めるのか、その動機をあらかじめ明確にしておくことで軸が定まり、経営判断や選択決定の指針となります。また、進むべき方向が定まっていれば、モチベーションを保ちながら事業活動を続けやすくなります。
たとえば「大金持ちになりたい」といった漠然とした目的では、起業後すぐに収入を伸ばせないと活動を続ける意欲を維持できないでしょう。しかし「教育サービスの提供を通じて、勉強が苦手な子どもたちを助けたい」のように起業する目的が明確であれば、困難な状況であっても前向きに挑戦し続けられるはずです。
起業の目的を明確にする際、利益の追求だけでなく、社会に対して提供したい価値や達成したいビジョンをあわせて考えることが重要です。成功する起業家の多くは、単なる利益追求ではなく、具体的なビジョンを持って事業を進めています。
たとえば、ソニー株式会社の創業者の一人である井深大氏は、通信機器やラジオなど新時代の社会に必要とされる技術を届け、戦後日本の再建と技術革新に貢献するために起業しました。また、戦時中に共に働いた技術者たちが、その情熱と技術を自由に発揮できる職場を作りたいという強い思いもあり、現在まで受け継がれています。このように、起業する明確な目的は事業や会社の基盤となり、経営者や従業員のモチベーションの維持につながるだけでなく、そのストーリーはブランド構築にも役立ちます。
2. 事業内容を決定する
どのような商品やサービスを提供するのかなど、具体的な事業内容を決めていきます。企業の目的に沿ったアイデアを見つけるところから始め、その後に商品・サービスを届けたい顧客層や提供方法などを具体化していきます。
起業アイデアを見つける
起業アイデアを探す際、以下の方法が有効です。
- 今の時代や社会が何を求めているのかを考える
- 既存の商品やサービスを改良できないかを検討する
- 商品やサービス、事業などの新しい組み合わせを探す
特に、日常生活で不便に感じることや「こういうサービスがあればいいのに」と思う瞬間に着目することで、多くの人のニーズに応えられる新規事業のアイデアを生み出すきっかけになる場合があります。自力でこのようなアイデアを見つけるのが難しい場合は、周囲の意見や他者の視点を取り入れるのも効果的です。
事業の顧客層や提供方法などを決める
起業アイデアを見つけた後は、以下の項目を決めていきます。
顧客層:
誰に商品やサービスを提供するのかを考えます。その際、顧客の年齢や性別、居住地などを具体的に設定することで、提供方法や事業戦略も決定しやすくなります。
顧客との関係性:
起業アイデアや商品に合わせて、対面またはオンラインでサービスを提供するのか、リピーターになってもらうのか、一度きりの取引で関係が終了するのかを明確にします。
収益化の方法:
商品やサービスの価格設定や収支の仕組みなど、利益を得る具体的な手段を考えます。
提供する価値:
顧客にどのような利益や価値を提供できるかを明確にします。その際、競合となる商品やサービスについて調査し、差別化できるポイントや独自の強みが何かも考えます。
業務内容:
仕入れやマーケティング、販売などをどのように行っていくか、事業に必要な業務や作業が何かを考えます。
必要な資源:
事業活動に必要な設備や人材、初期の仕入れにかかる資金などを明確にします。
パートナー:
製造業者や販売先など、事業に必要なパートナーを選定します。
どれだけ良い商品やサービスを提供しても、ターゲットが不明確では販売数を伸ばすのは難しいでしょう。上記の要素を検討したうえで、ターゲット層に最も効果的にリーチできる販路や販売方法を決定することが求められます。また、競合との違いを打ち出し、事業を有利に進めるための工夫も欠かせません。
3. 事業形態を決める
起業する際、法人として会社を設立するか、個人事業主として事業を開始するかを決める必要があります。それぞれのメリット・デメリットを踏まえたうえで、自身のビジネスに最も適した事業形態を選ぶことが求められます。
個人事業主
個人事業主として起業することは、法人の設立に比べて手軽に始められる点が魅力です。開業にかかる手続きや費用が少なく、初期の準備が比較的容易に進められるため、速やかにビジネスを立ち上げることができます。
また、会計処理も比較的シンプルであり、会計ソフトを活用すれば自分で管理しやすいのも利点の一つです。収入の少ない事業の初期段階では、法人に比べて税負担が軽く済む点もメリットといえるでしょう。
一方で、個人事業主は法人に比べて社会的信用が低いため、融資を受けづらい場合があります。さらに、経費として認められる範囲が狭いため、法人のようには節税対策ができないデメリットもあります。
法人
日本で設立できる法人の形態には、以下の4種類があります。
株式会社:
株式を発行し、投資家から資金を集めて事業活動を行う法人です。株主は出資額に応じて経営への参加権を持ち、経営を支える役割を果たします。大規模な資金調達が可能であり、社会的な信頼度も高いのが特徴です。
合同会社:
出資者と経営者が同一で、運営の自由度が高い会社形態です。設立コストが比較的低く、小規模な起業や少人数でのビジネスに向いています。株式会社よりも柔軟な運営が可能ですが、社会的な認知度はやや低い傾向にあります。
合資会社:
有限責任社員と無限責任社員が最低1名ずつ必要な法人です。合同会社と同様、設立コストが比較的低い特徴があります。さらに、会社の財務情報を外部に示す決算公告義務がなく、会社のルールである定款を自由に規定できる点もメリットです。しかし、会社倒産時に無制限責任社員にかかる負担が大きくなる点がデメリットとして挙げられます。
合名会社:
無限責任社員のみで構成される法人形態です。各社員が出資者でありながら経営に参加できるメリットがある一方、それぞれが全責任を負わなければならないデメリットがあります。こうした特徴から、経営に対する強い意志を持つ起業家に選ばれる場合が多い会社形態です。
なお、有限責任社員とは、出資額までの責任を負う社員を指します。たとえば会社が倒産して1,000万円の負債を抱えたとしても、出資額が100万円ならその金額以上の支払いは不要です。一方、無限責任社員は会社の債務に対して無制限の責任を負うため、抱えた負債と同額の金額を支払わなければなりません。
法人化する最大のメリットは、社会的信用が向上する点です。金融機関などから資金調達がしやすくなり、大手企業との取引も円滑に進む可能性が高まります。また、法人は経費として認められる項目が広いため、節税の余地が大きい点も魅力です。
一方で、定款認証や登記申請の費用がかかり、手続きに手間がかかる点がデメリットとして挙げられます。また、会計処理が複雑になるため、個人で管理するのが難しく、場合によっては専門家に依頼する必要が生じる場合もあります。
4. 資金を調達する
事業内容や事業形態を決定することで導き出される、起業するために必要な資金を調達します。さまざま調達方法が考えられますが、代表的なのは融資、補助金・助成金、クラウドファンディングの3つです。
融資
融資とは、銀行などの金融機関や信用保証協会などの公的機関から資金を借りることを意味します。ほかにも、自治体のあっせんを受けて資金を借り入れる制度融資と呼ばれるものも存在します。
融資の代表的な制度として、日本政策金融公庫の「新規開業資金」があります。この制度を活用すれば、これから起業する人は最大7,200万円までの融資を受けることが可能です。利率については、特定の条件を満たすかどうか、担保があるかどうかで異なりますが、年利0.60~3.30%の範囲に設定されます。通常の利率(1.35~3.70%)より低い割合が適用されるため、事業実績がない起業家にとって有利な支援策といえるでしょう。
資金調達の手段として有用な融資ですが、借りた資金は期限までに利子を加えて返済しなければならない点には注意が必要です。また、融資を受けるには事業計画書をはじめとするさまざまな書類の提出が求められるため、準備に手間がかかる点も理解しておく必要があります。事業計画書とは、事業の概要のほか、売上高や経費の見込み、マーケティング戦略などをまとめた文書のことです。この文書をもとに、金融機関が融資するかどうかを審査します。
補助金・助成金
補助金と助成金は、国や地方自治体が提供する資金支援制度です。融資とは異なり、返済の義務がない場合が多いため、売り上げが伸びずに返済が困難になるといったリスクを抱えずに活用できる特徴があります。
補助金は、特定の事業活動を支援する目的で交付されるものです。募集期間や金額が限定されており、審査基準が厳しいため、必ずしも受給できるわけではありません。また「かかった経費の●割を助成」と決められているものが多く、費用の全額を支払った後、その一部の金額が支給される形になる点にも注意が必要です。
起業時に利用できる補助金を3つ紹介します。
小規模事業者が対象で、販路開拓や生産性向上などに向けた経費を支援する制度です。通常枠は50万円、創業枠は200万が上限ですが、インボイス制度を登録している場合はさらに50万円が加算されます。
小規模事業者などが生産性を高める目的でITツールを導入する際に必要な費用を支援する制度です。導入するツールによって補助額が異なりますが、最大で450万円までの支援を受けられます。なお、複数の事業者が連携してツールを導入する場合に限っては、最大で3,000万円までの支援を受けられます。
中小企業・小規模事業者の働き方改革や設備投資などを支援する補助金で、補助額は750万~8,000万円です。
助成金は主に雇用促進や社会貢献活動を支援するもので、要件を満たせば受給しやすい特徴があります。
起業時に利用できる助成金を2つ紹介します。
中小機構と都道府県、金融機関が資金を拠出して運用されるファンドから、創業や販路開拓などに取り組む中小企業に資金が助成されます。
雇用機会が不足している地域に事業所を設置・整備し、地域住民を雇用する企業に対して、設置費用や雇用者数に応じて最大3回助成されます。金額は従業員数に応じて異なり、50万~800万円に設定されています。中小企業や創業企業の場合、支給額が増加する優遇措置もあります。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて多数の個人から資金を調達する手法です。プロジェクトの内容や目標金額を提示し、支援者からの共感を得ることで資金を集めます。このような特徴から、0円で起業するアイデアの一つとしても人気があります。
クラウドファンディングには、寄付型や購入型、融資型といったさまざまな形式があり、クラウドファンディングサイトを通じて事業に応じた方法を選択することができます。当初の目標額に達するとプロジェクトが実行され、利用時に設定している場合は支援者にリターン(支援に対するお礼)を提供します。ただし、達成できなかった場合は一部のプロジェクト形式を除き、返金しなければなりません。
さらに、クラウドファンディングは資金調達だけでなく、事前に商品やサービスの反響を確認するマーケティング手段としても有効です。特に、社会問題の解決を目標に掲げた事業やユニークなアイデアの実現を目指すプロジェクトは共感を集めやすく、クラウドファンディングを通じて起業初期から大きな支援を得られる可能性があります。
5. 開業手続きを行う
事業を正式にスタートさせるには、開業手続きが必要です。開業の手続きは、個人事業主と法人の場合で異なります。いずれも申請に必要な書類を準備する必要があるため、特定の日時までに事業を始める予定がある場合は、スケジュールに余裕を持って手続きを進める必要ことが求められます。
個人事業主の場合
個人事業主として起業する際の手続きは、法人と比較して簡便です。開業してから1か月以内に、税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出するだけで完了します。申請にあたって、費用がかかることはありません。ただし、確定申告時に節税効果の大きい青色申告を希望する場合は、「所得税の青色申告承認申請手続」を開業から2か月以内に提出する必要があります。
加えて、業種によっては許認可証の取得も求められます。許認可とは、特定の業種で事業活動を実施する際に必要な許可のことです。具体的には、以下の業種などに当てはまる場合は取得が必要となります。
- 酒類やたばこ、動物、古物などの物品販売業
- 建設業
- 食品や医薬品などの製造業
- ホテルや飲食店、美容業、診療所などのサービス業
- 不動産業
法人の場合
法人を設立する場合、複数の手続きが必要になります。まず、会社設立に必要な基礎情報として、商号(会社名)や本社所在地、事業目的、資本金、発起人を決定し、それらを定款に記載します。次に、公証人役場で定款の認証を受けた後、資本金の払い込みを行いますが、法人の設立前に会社名義の口座は開設できないため、一般的には発起人の口座を利用します。その後、法務局で会社設立の登記申請を行い、手続きは終了です。
法人を設立する際、諸経費がかかります。たとえば、定款認証の際に資本金に応じて3万~5万円、株式会社の登録免許税に資本金の0.7%または最低15万円が必要です。こうした手続きを税理士などの専門家に依頼する場合は、その費用も追加でかかります。
法人を設立した後、税務署や年金事務所などでの社会保険や税務関連の手続きも欠かせません。また、従業員を雇う場合は、労働基準監督署で労働保険の加入手続きも必要です。
起業するために必要な知識・スキル
起業には、幅広い知識とスキルが求められます。事業に関連する専門知識のほか、会社を適切に運営するために欠かせない法律の知識やコミュニケーションスキルなどが必要です。こうした知識やスキルにおいて特に重要なのが、お金とマーケティングに関するものです。
お金に関する知識・スキル
起業家にとって、お金に関する知識とスキルは必須です。事業の成長には単に利益を上げるだけでなく、収支の管理や資金の流れを正確に把握する力が必要となります。
経営においては、収益を上げる戦略を立てるために適切な管理会計の知識が求められます。株主などの社外向けに財務状況を伝える財務会計とは異なり、管理会計は社内向けにまとめる会計を指し、経営判断に役立つものです。
自社の財務状況を把握するために、貸借対照表と損益計算書、キャッシュフロー計算書の読み方を学ぶところから始めることをおすすめします。自社の財務状況を客観的に理解できなければ、正しい経営戦略を策定するのが困難なためです。
また、事業の成長には収入と支出が滞りなく循環する安定した資金計画を立てることも重要です。資金計画を適切に作成し、資金繰りを管理することで、会社の安定運営が可能となります。
マーケティングの知識・スキル
マーケティングは、顧客が何を求めているのかを理解し、ニーズに応じたビジネスを市場のなかで展開していくための取り組みのことです。その方法論や手法といった知識は、経営者にとって不可欠といえるでしょう。
SNSを活用して商品やサービスの存在をアピールすることや、需要を調べるために開発前の商品を予約販売するドライテストも、マーケティング手法として効果的です。こうしたマーケティング戦略を起業段階から実践すれば、コストをかけて開発した商品がまったく売れなかったといった問題を回避しやすくなるでしょう。
まとめ
起業する際、まずは目的を明確にしたうえで、事業内容や適切な事業形態を決める必要があります。その後、融資や補助金・助成金などを活用して資金を調達し、開業手続きを行います。
起業で成功するためには、資金管理やマーケティングの知識が不可欠です。特に、顧客のニーズを的確に理解し、効果的なマーケティング戦略を展開することが起業の成否を分けるといっても過言ではないでしょう。
また、インターネット上で商品やサービスを販売するビジネスで起業するなら、Shopify(ショッピファイ)がおすすめです。Shopifyには、売り上げなどを管理する機能や複数のマーケティング機能が備わっています。利用にあたってプログラミング言語などの専門知識も不要なため、初心者でも簡単にネットショップを開設することができます。無料体験も実施していますので、お気軽にShopifyをご活用ください。
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よくある質問
0から起業する際、最初にすべきことは?
なぜ起業するのかという目的や理由を明確にすることから始めましょう。目的や理由が定まれば、それらに基づいて事業計画を立て、自分のビジネスに合った起業方法を選ぶことができるようになります。
起業におすすめの事業形態は?
低リスクで起業したい場合は個人事業主、大企業などの信用を重要視する企業と取引したい場合や金融機関からの融資を受けたい場合は法人がおすすめです。事業の規模や取引先の条件を踏まえて、最適な形態を選ぶことが求められます。
起業に向いている人・向いていない人の特徴は?
起業に向いている人の特徴:
- 行動力がある
- 専門的な知識やスキルを持っている
- 柔軟な考え方ができる
起業に向いていない人の特徴:
- 責任感がない
- 慎重すぎて行動に移せない
- 資金管理がうまくできない
起業で失敗をしないためのポイントは?
- 起業の目的を明確にする
- 顧客の需要を理解する
- 時代の変化に対応する
- 経費を必要最低限に抑える
- リスクと対策を事前に考える
文:Yukihiro Kawata