これから起業する方や、融資を受けたいと考えている方にとって、「事業計画書に何を書けばいいか分からない」「事業計画書を作成する目的が分からない」と悩んでいる方も多いでしょう。
この記事では、事業計画書とは何かを明確化し、事業計画書の作成目的や融資に通りやすい事業計画書の書き方とポイント、注意点などを紹介します。
事業計画書のテンプレートをダウンロードできるサイトも紹介しているので、書き方に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
事業計画書とは?
事業計画書とは、事業内容や目的、戦略、収益予想など、具体的な数値やデータを含めて作成する書類です。金融機関や投資家は、この事業計画書で融資するか判断するため、どのくらい成長性や有益性があるビジネスかをアピールする必要があります。
また、事業計画書はビジネスのマイルストーンにもなります。あなたのビジネスの目標や進め方が明確になり、競合他社との差別化を図ることができるでしょう。
事業計画書作成の目的
事業計画を作成する目的は大きく分けて2つあります。
事業の全体像を明確にする
事業計画書を作成することで、具体的にどうすれば「売上」を上げることができ、「利益」が見込めるのかを再確認できます。頭の中で思い描いている事業の優位性や独自性など、さまざまなアイデアを客観的に見直すのに役立ちます。
起業する際に事業計画書ができれば、ビジネスの可能性を分かりやすく伝えることができるため、これからビジネスを一緒に始めるビジネスパートナーや従業員から信頼を得やすくなるでしょう。
金融支援や融資を受ける
起業したばかりの会社が金融機関や投資家から融資を受けるために、事業の目的や資金調達方法、競合他社との違いなどを説明している事業計画書が必要です。具体的なビジネスプランや実現可能な数字など根拠のある事業計画書なら、「事業の将来性・信頼性」と「返済能力」を金融機関や投資家にアピールできるでしょう。
事業計画書の書き方:融資を受けるために記載すべき8つの項目
日本政策金融公庫が提供している「創業計画書」の8つの記載項目(PDF)を参考に、事業計画書で融資を受けるための書き方を紹介します。
1. 創業の動機
創業の動機には、事業を始める目的や理由、商品説明と差別化、ターゲット層や市場などを書きます。また、経営者の経歴と事業がどのように関係しているか記載しましょう。これまでの経験と事業内容に繋がりがあれば、説得力や信憑性が高くなります。SNSなどですでに顧客を獲得できている場合も、記載しておくと信頼性が増します。読む相手が融資するか判断するために「知りたい情報は何か」を考えながら、空欄がすべて埋まるように記入しましょう。
2. 経営者の経歴
経営者の略歴等には、これまでの職務経験や経歴、資格などを記載します。事業に関連する経験がある場合は「事業を成功させやすい」という印象を与え、強いアピールポイントになるため、事業と関係のない経歴よりも関連のある経歴を優先して記載します。
また、会社員時代の役職や実績なども経営者に向いているかどうかの判断材料になるので、具体的に記入しましょう。
3. 取扱商品・サービス
取扱商品・サービスの内容では、これから始める事業のコンセプトや具体的な商品名などを記載します。具体的にどのような商品やサービスを主力として事業を展開するのかについて、短い言葉で明確に書きましょう。
例えば、以下のような情報を含めると伝わりやすいでしょう。
- 誰にどのような商品を提供するのか
- 料金・単価
- 商品やサービスの特徴など
パワーポイントやワードで事業計画書を作成する場合は、商品・サービスの写真やイメージ画像を載せると、よりイメージしてもらいやすくなります。
セールスポイント
セールスポイントは、あなたの事業の強みをアピールする項目で、事業計画書で融資を受けるために重要な項目です。あなたが顧客のために「解決しようとしている問題」そして「どのように解決する」のか、金融機関や投資家を説得できる根拠を記載しましょう。
「事業を応援したい」と思ってもらえるように、事業の将来性をアピールすることも効果的です。あなたの事業の魅力や可能性、そして収益性を示すためにも、事業計画書の核となるこの項目はしっかり作り込みましょう。
ビジネスモデル・ターゲット・販売戦略
あなたが始めようとしている事業が、どのような仕組みで売上や利益を生み出せるのかについて説明します。
また、事業のターゲット層も詳しく記載しましょう。
- 性別
- 年代
- 職業
- ライフスタイル
- 収入レベルなど
これらのターゲット層に対してどのようなマーケティング戦略を練っているのかを説明できれば、より説得力が増します。
競合との差別化ポイント
あなたの事業の強みをアピールするために、競合他社の強みや弱みを分析・比較して、どのように優れているのか説明すると良いでしょう。また、競合他社と差別化を図る方法を説明し、競争優位性をアピールすることで説得力が増します。
競合との差別化の例:競合他社Aは顧客のアフターサポートサービスが手薄で、競合他社Bは返金保証サービスを提供しておらず、商品の種類も少ない状態です。しかし、自社のECサイトは返金保証サービスや商品の種類も豊富で、24時間いつでもメールとLINEで問い合わせを受ける体制を整えています。
競合他社を調査するために、競合のECサイトや実店舗に足を運んで、競合他社がどのような市場に参入しているのか、どういった目的でビジネスをしているのか、商品の価格やサービス内容、ブランディング方法、プロモーション方法などを徹底的に調べましょう。
4. 販売先・仕入先・外注先の明確化
取引先・取引関係等は、販売先、仕入先、外注先が決まっている場合に記載します。
事業計画書を提出する時点で取引先などが決まっているほうが、金融機関や投資家へビジネスに対する真剣さをアピールでき、あなたの事業をより具体的にイメージしてもらうことができます。実際に取引先と結んでいる契約などがあれば、資料として添付するとより効果的です。
また、シェアや掛取引の割合、回収・支払いの条件など、お金の流れに関する情報を記載する部分でもあります。お金を貸す側はお金の使い道を詳しく知りたいため、正しい数値と情報を提示しましょう。
5. 従業員の人数
3ヶ月以上従業員を雇う場合は、従業員の人数を記載します。
事業を始めたばかりの頃はできるだけ人件費を抑えたほうが経費や支出が少なくなり、融資を受けやすくなります。
6. お借入の状況
事業や個人で借入がある場合は、正しい数字で必ず記入しましょう。日本政策金融公庫は個人信用情報登録機関に照会をかけ、実際に借り入れしている金額を確認することができます。嘘の情報を記入してしまうと、信用を失うことになります。
7. 必要な資金と調達方法
必要な資金と調達方法では、どのくらいの資金が必要で、どのように資金調達するのか記入します。
必要な資金
左側の「必要な資金」は、設備資金と運転資金に分かれています。設備資金とは、事業に必要な設備や資産を購入するために発生するお金のことで、店舗、工場、オフィスの増改築、敷金保証金などが含まれます。設備資金に関する見積書や契約書などの書類も提出する必要があるので用意しておきましょう。
運転資金とは、継続的に必要になるお金のことで、仕入れ費や広告費、家賃などです。運転資金は、3〜4ヶ月分くらいを目安に記入します。また、次に解説する「事業の見通し」の売上原価と経費に記載する内容と一致する必要があるので注意しましょう。
調達の方法
右側の「調達の方法」には、自己資金・家族や友人等・日本政策金融公庫・他の金融機関等から借入する金額を記入します。「自己資金」は、自分が所有しているお金のことです。融資を受ける際に経営者個人の通帳を見せるため、記載した金額と同じ額を用意しておく必要があります。ただし、融資を受けるためだけに用意した「見せかけのお金」では、お金を貯める計画性を持っていない人と判断されてしまうのでやめておきましょう。
最終的に左側の「必要な資金」と右側の「調達の方法」の合計額が一致しなければいけません。
8. 事業の見通し(月平均)
事業の見通しでは、創業当初と事業が軌道に乗った後(1年後)のおおよその利益を記入します。理想の数字ではなく、実現可能な数字を記載しましょう。
記載する項目は以下の8つです。
- 売上高
- 売上原価(仕入れ)
- 人件費
- 家賃
- 支払利息
- その他の経費
- 合計(経費の合計)
- 利益
「売上高」「売上原価」「経費」には、計算の根拠を右側の欄に記載する必要があります。取引先との契約書や見積書がある場合は資料として添付すると、より説得力が強まります。
大事なポイントは、毎月の利益が返済予定額を下回らないことです。金融機関や投資家は融資の判断をするにあたって、毎月の返済予定額をきちんと返していける能力があるかどうかを重視します。そのため、毎月の利益が毎月の返済額よりも多い必要があります。
また、人件費の注意点として、法人の人件費には「役員報酬」の金額も記載するので、「人件費=役員報酬+従業員の給料」になります。個人事業主の場合は「利益」が自分の所得となるため、人件費の項目ではなく「利益」に記載するように気をつけましょう。
融資を受けやすい事業計画書のポイント
融資する側の金融機関や投資家は事業計画書で以下の4つのポイントを意識しています。
- これまで何をしてきたのか(経営者の経歴・スキル)
- どのような事業を始めようとしているのか
- 借りたお金を何に使うのか
- 借りたお金をどうやって返していくのか
そのため、これまでの経験やスキルと融資対象の事業に関連性があるのか、資金の使用用途や事業の見通しなど事業計画書に記載されている数字が実現可能なのか、事業主は計画的にお金を返済していく能力のある人物なのか、などを証明する必要があります。
競合他社と比べてどのような競争優位性があるのか説明して、差別化を図るのも大切なポイントです。
また、事業計画書を読む人に合わせた言葉を選んだり、詳細を記載したりすることで、理解してもらいやすく、伝わりやすい事業計画書を作成できるでしょう。
事業計画書のテンプレート
事業計画書は特に決まったフォーマットがあるわけではありませんが、初めて作成する場合や、久しぶりに事業計画書を作成する場合は、記入すべき項目がわからない方のほうが多いでしょう。
以下のサイトで、事業計画書のテンプレートやフォーマットを無料でダウンロードできます。
また、日本政策金融公庫の「創業計画書記入例」にある、婦人服・子供服小売業など事業内容に合わせたわかりやすい事業計画書の記入例も参考にすると、より事業計画書のイメージがつかみやすくなります。
書きやすいテンプレートを選んで、金融機関や投資家に事業の魅力が伝わる事業計画書を作成しましょう。
事業計画書を書くメリット
事業の全体像を理解できる
事業計画書を作成することが、事業を成功させるためのロードマップになります。具体的な売上目標の数値、商品やサービスの魅力、競合他社との差別化ポイント、市場規模、マーケティング方法、販売戦略、事業を軌道に乗せるための資金の使い方などを理解することが、利益を最大化することに繋がります。
事業の目的を明確にして、改善を図れる
頭の中のビジネスアイデアを言語化することで、実際に実現できるのかを分析し、検証できるようになります。事業の目的や目標を明確化できれば、事業を成功させやすくなるでしょう。
競合他社を理解できる
事業計画書では、競争優位性をアピールする必要があり、具体的な根拠を説明するにはライバルである競合他者を分析し、理解を深める必要があります。競合他社を分析すれば、あなたの事業に何が足りないのかを理解でき、具体的な解決策や計画などを作成できます。
顧客を理解できる
顧客分析は、ターゲットを明確化でき、具体的なマーケティング方法や商品の販売方法を考えるのに役立ちます。また、顧客の立場になって事業計画書を作成すれば、より良い商品・サービスを生み出すことができるので、費用対効果の向上も期待できるでしょう。
資金調達のサポートを受けられる
事業計画書の中身で融資や出資を受けられるか決まります。そのため、事業の収益性を明確にする必要があります。
もし友人から「多額のお金を貸してほしい」と頼まれた場合、「いくらお金を貸してほしいのか?」「何のためにお金を使うのか」「いつ頃までに返済してくれるのか」など、知りたくなるでしょう。
金融機関も同様に融資の判断をするにあたって、経営者がどのような人物で、何にお金を使い、現実的にどうやってお金を返済してくれるかなどを見ます。
ポイントを押さえた収益性の見込める事業計画書を作成できれば、投資家や金融機関から信頼を得て、資金調達を成功させられるでしょう。
事業を始めるビジネスパートナーと方向性を確認できる
事業に相応しい人材を集めて、会社や事業を維持するためには、会社の目標や目標達成の方法を示す必要があります。事業計画書が健全で実現性の高いものであれば、従業員や経営陣と足並みをそろえることができ、同じ目標に向かって進むことができるでしょう。
起業時にどこから融資を受けられるか
起業して資金調達をしたいときは、日本政策金融公庫と信用保証協会が融資を受けられる公的機関として有名です。ほかにも、銀行や投資家などから融資を受けるという選択肢もあります。
公的機関で資金を調達する場合は、日本政策金融公庫がおすすめです。日本政策金融公庫は政府が100%出資している公的金融機関で、一般の金融機関がおこなう金融を補完する役割を担っているため安全性が高く、個人事業主にも融資してくれます。
また、日本政策金融公庫では、令和6年4月1日から各種融資制度を無担保・無保証人で利用可能になりました。新たに事業を始める方や事業開始後で税務申告2期を終えていない方は利率が原則0.65%引き下げになったり、長期での返済が可能(設備資金20年以内・運転資金は原則10年以内)になったりします。
女性向けの新規開業資金の支援もしており、新たに事業を始める方、または事業開始後約7年以内の「35歳未満または55歳以上」の方限定で特別利率が適用されます。
一方、信用保証協会とは、中小企業・小規模事業者への資金調達を支援することを目的に設立された公的機関です。中小企業などが融資を受けたいときに、協会が保証人となり、金融機関からの融資を受けやすくなる信用保証制度を利用できます。利用条件を満たしていない個人事業主の方などは利用できないので、日本政策金融公庫のほうが融資を受けやすいでしょう。
事業計画書を作成するときの注意点
事業計画書を作成するときの注意点を紹介します。
売上高と利益を決める
事業計画書を作成するときの大事なポイントは、実現可能な売上高と利益の数字です。利益が見込めないと、返済能力がないと判断されてしまうため、融資を受けるのが難しくなります。
また、売上高と利益が決まっていれば、マーケティング方法や販売方法、経費の使い方など具体的な事業計画書を作成できます。売上高と利益は明確にしておきましょう。
自己資金がないと融資は下りない
日本政府金融公庫の創業融資を検討している場合は、自己資金を2割程度用意しておくと、融資を受けられる可能性が高くなります。というのも、日本政策金融公庫総合研究所の「2023年度新規開業実態調査」によると、資金調達額の自己資金の割合は「23.8%」だからです。自己資金ゼロだと、融資を受けられる可能性が低くなります。
事業の計画性を証明するために、自己資金ゼロよりも、ある程度資金を用意しておいたほうが良いでしょう。
専門用語を多用しない
事業計画書を書くときは、なるべく専門用語の多用はやめましょう。事業計画書で融資を受けやすくするためには、誰が見ても分かる内容のほうが事業内容や目的、戦略などが伝わりやすくなります。
また、事業計画書の量も膨大になりすぎないように気を付けましょう。日本政策金融公庫のテンプレートのような見開きA3用紙1ページ分、またはA4用紙2ページ分くらいで十分です。
まとめ
事業計画書は、融資を受けるときや事業を見直すときに重要なものです。
相手に伝わりやすい事業計画書を意識して、具体的な根拠と数字で事業の将来性や収益性を証明できれば融資を受けやすくなり、従業員やビジネスパートナーからの信頼を得ることができるでしょう。
金融機関や投資家が理解しやすく、融資したいと思ってもらえる事業計画書を作成して、資金調達を成功させましょう。
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よくある質問
事業計画書には何を書く?
事業計画書には、基本的に以下の項目が必要です。
- 事業の目的と背景
- 経営者の経歴
- 事業内容
- セールスポイント
- ビジネスモデル・ターゲット・販売戦略
- 競合分析
- 販売先・仕入先・外注先
- 従業員の人数
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し(月平均)
事業計画書はいつ必要?
事業計画書は融資・出資を受けるとき、事業の内容を見直すとき、起業するときに必要です。起業するにあたって、事業計画書の提出義務はありませんが、どのように事業を進めていくのか、具体的な行動計画を立てやすくなります。融資を受けるつもりがなくても、事業計画書を作成してみましょう。
事業計画書はどこでもらう?
事業計画書には決まったフォーマットが存在しません。そのため、日本政策金融公庫や日本マイクロソフト社が提供している事業計画書のテンプレートを参考にしてください。
事業計画書は誰が作る?
事業計画書は、経営者・事業主本人が作りましょう。事業の目標や将来性などを記載する事業計画書は、経営者本人が記載しないと説得力のあるものができません。また、融資を受ける際に、事業主本人が質問に答えることができなければ、その事業計画書の信頼度は低くなります。
文:Momo Hidaka