世界の小売業において、Eコマースが存在感を増しています。インターネット利用者が50億人を越える今、ネットショップを利用する人の数は益々増加しており、2026年、世界のEコマースの売り上げは8兆ドルに達する見込みです。この記事では、越境ECに必要なすべての機能をそろえるShopify Markets(ショッピファイ・マーケット)について解説します。
Shopify Marketsとは
Shopify Marketsとは、Shopifyを利用したネットショップが海外販売を行う際、海外市場の特定や言語・通貨のローカライズ、関税の計算などを、1つのページでまとめて設定・管理できる越境販売管理ツールです。言語や通貨の設定などの基本機能は、Shopifyのすべてのプランで利用することができます。
Shopify Marketsのメリット
簡単に海外市場へ参入できる
国や地域ごとの価格や言語、支払い方法の設定が1つのShopifyストアでできるため、数日で海外向けのページを整えることができます。
国、地域にあわせた顧客体験の提供でコンバージョン率を上げることができる
それぞれの国や地域にあわせた言語と通貨表示、決済方法を設定することで、現地の顧客にストレスのないショッピング体験を提供できます。使い慣れた環境で買い物ができる安心感から、商品の購入に至る顧客の割合(コンバージョン率)の向上が見込めます。
コストを抑えたグローバル展開ができる
複数の国や地域への販売を1つのページでまとめて管理できるため、いくつものサービスを利用する必要がなく、サイトの運営コストを抑えることができます。運営スタッフの人数も最小限で済むため、人件費も抑えることができます。
Shopify Marketsの機能
販売エリア区分の作成
「マーケット」という区分を作成し、異なる国や地域の顧客に対し、それぞれ違った設定を割り当てることができます。例えば、カナダ・アメリカ・メキシコをまとめて「北アメリカ」、中国・韓国をまとめて「東アジア」というマーケットにした場合、北アメリカマーケットの顧客にはAの商品、東アジアマーケットの顧客にはBの商品を優先して表示するなど、マーケットごとに設定を分け、同一マーケット内では国が違っても同じ設定を適用することができます。Shopifyのプランによって、作成できるマーケットの数は異なります。
現地通貨での価格設定
ショップがShopifyペイメントを有効にしている場合、商品の表示価格が130以上の国際通貨に自動で変換されます。レートは最新の為替レートで自動的に変換・端数処理が行われます。手動で為替レートを設定することも、マーケットごとにそれぞれ異なる商品価格を設定することも可能です。1つのマーケットに複数の国や地域が含まれている場合でも、顧客は現地通貨を選択できます。商品の閲覧、チェックアウト、返金まで、普段利用している通貨に換算されるので、顧客は安心して買い物ができます。
通貨の設定を分けるにはウェブサイトのドメインを分け、それぞれの国と地域に適したサイトに自動でリダイレクトする方法と、統一のドメインを使用し、顧客自身が現地通貨を切り替えできるようにする方法があります。顧客自身で切り替えができるようにする方法は2つあります。1つ目は、切り替え機能がついたテーマを使用することです。DawnなどShopifyから無料で提供されているテーマの多くは、国と言語の切り替え機能が組み込まれており、その機能を利用して通貨を変更することができます。2つ目は、Trancyなどの外部アプリで切り替え機能を追加することです。同様の機能を備えたアプリとしてはGeolocationがメジャーですが、こちらは2024年12月にサービスを終了する予定です。注意してください。
海外向けページの作成と国や地域別のSEO対策
Shopify Marketsでは、3つの方法で海外向けのページを設定することが可能です。それぞれ設定の方法や、SEO対策の面で、次のような違いがあります。
サブフォルダ
同じドメイン内の別の階層となるサブフォルダ(サブディレクトリ)を追加して国や地域別のページを作ることができます。例えば、your-shop-name.comという主要ドメインがあり、新たなマーケットとしてフランスを追加した場合は、your-shop-name/fr-frというURLを持つフランス向けのページが作成されます。
サブフォルダを使用した場合、最小限の作業で特定の国や地域向けのページを作成できるだけでなく、訪問者が主要ドメインのサイトを開くと、言語およびロケーションの設定と一致するURLのページに自動でリダイレクトされます。使用しているのはあくまで主要ドメインであるため、サイトの信頼度も引き継がれ、検索順位においてもプラスに作用します。
サブドメイン
プリフィックスを追加してサブドメインを設定することも可能です。例えば、your-shop-name.comが主要ドメインの場合、「fr.」というプリフィックスをつけたfr.your-shop-nameをフランス向けサブドメインとして作成することができます。Shopify管理ドメイン・外部ドメインどちらも無料で設定できますが、SEOの点ではサブフォルダほどメリットがなく、サイトの信頼度を確立するのに長い時間がかかる場合もあります。
国や地域ごとの固有ドメイン
メインの独自ドメインに加えて、国や地域ごとに固有のドメイン(ccTLD)を取得することもできます。例えば、アメリカでyour-shop-name.com という主要ドメインを使っているサイトがフランスを第二の販売先としたい場合、your-shop-name.frのように、フランス固有のトップレベルドメインを設定し、フランス向けにローカライズしたサイトを作成することが可能です。
固有ドメインの取得は、それぞれのドメインを別途購入する必要があるため、ある程度収益が見込めるマーケットに対し、特定のターゲティング戦略を使用する場合のみおすすめです。完全に別のドメインのサイトになるため、それぞれのサイトが別々に検索順位を上げサイトの信頼度を確立して行く必要があり、SEO対策に最も多くの時間と努力を必要とします。
これら3つの方法は、組み合わせたり使い分けたりして使用することが可能です。
ローカライゼーションと翻訳
Shopify Marketsでは、Translate & Adaptというアプリと連携したり、自身で用意した翻訳のCSVファイルを追加したり、互換性がある外部アプリを使用したりして、オンラインストアのコンテンツを翻訳することができます。1つのストアで最大20言語に対応して販売することが可能です。
世界29カ国の8,709人を対象とした調査(英語)では、オンラインで購入する際に自国の言語コンテンツを希望する人が65%、外国語の場合はそのサイトでの購入をまったく考えない人が40%という結果が出ています。このことからもわかるように、気になる商品があっても、言語が違うと購入まで踏み切れない人は多くいます。Shopify Marketsを利用することで、ストア全体が顧客に合った言語で表示されるため、顧客は自分の母国語で安心して買い物ができます。
販売エリア別の商品表示設定
Shopify Marketsでは、作成したマーケットごとに、どの商品を公開するか選択できます。新しいマーケットを追加すると、そのマーケットには通常すべての商品が公開されます。特定の商品を特定のマーケットで販売したくない場合は、管理画面からその商品の表示を停止することができます。例えば、国際配送が難しい商品などがあれば、あらかじめ海外の顧客に対して非表示にしておくことが可能です。
顧客が自分の国や地域で販売されていない商品を表示しようとすると、自動的に地域に適したページにリダイレクトされます。例えば、日本でしか販売していない商品がほしいイギリスの顧客がいたとします。その顧客がセレクターで国の表示を日本に切り替え、その商品を表示・購入しようとすると、顧客は居住地であるイギリスの設定と一致するURLにリダイレクトされます。
決済方法
Shopifyペイメントを利用しているストアは、Shopify Marketsを利用することで、それぞれのマーケットに適した決済方法を提供することができます。
国や地域によって、どの決済方法が好まれるかは異なります。2022年に3,739名を対象としてPonemon Instituteが行った調査(英語)によると、希望する支払い方法が選べなかったとき、サイトから離脱したと答えた人は回答者の59%にのぼり。このようなカゴ落ちを防ぎ、顧客に快適なショッピング体験を提供するためにも、マーケットに適した決済方法を提供することは重要です。
また、Shopify Marketsでは、チェックアウト時に入力する住所フォームは自動的にローカライズされます。Googleのオートコンプリート機能が組み込まれているため、海外からでも違和感なく住所を入力し決済手続きを進めることができます。
関税や輸入税の計算と徴収
Shopify Marketsを利用すると、チェックアウト時に海外取引でかかる関税や輸入税を計算し徴収することができます。
海外取引では、関税などの料金が購入代金に含まれているかどうかわかりにくく、カスタマーエクスペリエンスが悪くなる場合があります。そのため、越境ECではチェックアウト時に関税や輸入税を明示することが重要となります。Shopify Marketsでは、要件を満たした場合または外部アプリを利用することで、顧客に対して輸入税なども含めた合計費用を明示することができ、配達時の高額な費用の発生や荷物の受け取りを拒否されるというような事態を避けることができます。関税を計算するためのストアの要件は以下の通りです。
- プレミアムまたはPlusを契約している
- Shopify Shipping以外の配送サービスを使用している
- Shopify Fulfillment Networkを使用しない
- 商品に適用されたHS(統計品目)コードがある
- 登録に基づく税金を使用している
配送設定
Shopifyペイメントを利用するストアは、Shopify Marketsで海外への配送料に固定料金を設定することができます。このとき、基本通貨ではなく、現地通貨を使用して固定の現地配送料を設定することができるため、顧客は商品の配送料を現地通貨で確認することができます。配送料が不明瞭だと、カゴ落ちや予期せぬ高額な配送料の請求によるトラブルなどが発生してしまいますが、Shopify Marketsではそういったトラブルを未然に防ぐことができます。ただし、配送エリアに複数の異なる通貨を使用する国や地域が含まれる場合は、現地通貨での設定はできません。その場合は、ストアの基本通貨から自動換算されます。
配送エリアに国や地域を追加するには、 [配送と配達] の設定からその国または地域を含む新しいマーケットを作成するか、その国または地域を既存のマーケットに追加します。
Shopify Marketsプランと料金
Shopifyのサブスクリプションに登録していれば、Shopify Markets自体は無料で使用することができます。プランによって、追加できるマーケットの数や利用できる機能には次のような差があります。
ベーシック
- 料金:月額4,850円(年12回請求)、または月額換算3,650円(年1回請求)
- 追加できるマーケットの数:3個
- 関税と輸入税の計算と徴収:非対応
スタンダード
- 料金:月額13,500円(年12回請求)、または月額換算10,100円(年1回請求)
- 追加できるマーケットの数:3個
- 関税と輸入税の計算と徴収:非対応
プレミアム
- 料金:月額58,500円(年12回請求)、または月額換算44,000円(年1回請求)
- 追加できるマーケットの数:3個(1個追加するごとに、月額59ドルで追加可能)
- 関税と輸入税の計算と徴収:対応
Plus
- 料金:最低月額2300米ドル
- 追加できるマーケットの数:50個
- 関税と輸入税の計算と徴収:対応
Shopify Marketsを使用した越境EC事例
倉重電動工具株式会社
鉋やのみなどの手工具や包丁など、日本の伝統的な工具を取り扱う倉重電動工具株式会社のホームページでは、左上で言語、右下で通貨を切り替えられるようになっています。
BENTO&CO
京都発の弁当箱専門店BENTO&COでは、メインページは英語に設定されています。上のメニューで [Language] を選ぶと、フランス語、ドイツ語、イタリア語、日本語の別ドメインのページに移動します。言語の変更と共に、表示通貨も変更されます。配送先には、数十カ国以上の選択肢が用意されています。
amirisu
編み物用品の人気店amirisuでは通貨表示の選択肢が非常に多くあります。JPY以外の通貨を選択すると、言語も英語に変更されます。
まとめ
Shopify Marketsは、海外市場への進出を容易にする強力なソリューションです。国や地域ごとの販売設定を1つのページで管理でき、煩雑な作業も不要になるため、越境ECのハードルをぐっと下げることができます。国や地域に応じて細やかな設定ができるので、世界中の顧客に快適なショッピング体験を提供でき、売り上げにもつながりやすくなります。ネットショップの海外展開を目指す人は、ぜひShopifyでネットショップの開設を行い、Shopify Marketsを活用してください。
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Shopify Marketsについてのよくある質問
Shopify Marketsとは?
Shopify Marketsとは、Shopifyを利用したネットショップが海外販売を行う際、海外市場の特定や、言語・通貨のローカライズ、関税の計算などを、1つのページでまとめて設定できる管理ツールです。
Shopify Marketsは日本でも使える?
日本でも使えます。
ただし、Shopify Marketsの機能をさらに拡張した、Shopify MarketsProを使用できるのは、現在のところ米国のユーザーのみです。
Shopify Marketsの価格は?
Shopifyでネットショップを運営しているユーザーは追加料金なしで使用することができます。
文:Taeko Adachi