このセッションでは、Shopify Japanシニアテクニカルパートナーマネージャーの岡村純一氏が登壇。飛躍的に増えた日本向けショッピファイアプリの中で、「顧客獲得」「商品提供」「運用改善」といった注目すべき3つのアプリの特徴について紹介し、開発パートナー企業とのアプリ開発から見える今後のEコマースのトレンドにも踏み込んで語りました。
<目次>
1.パートナーエコシステムは「三方良し」の関係
岡村氏はまず、マーケターなどShopify上でビジネスを展開するパートナーや、Shopifyを利用するマーチャントと協力しながら、エンジニア(開発パートナー)がアプリやテーマといった商品開発に注力するパートナーエコシステムについて説明。「エコシステムを構成するパートナーとマーチャント、開発パートナーの三者関係は、回転運動の慣性の働きを利用してムラを抑えるフライホイール(弾み車)に形容できる」と話しました。
「パートナーエコシステムのフライホイールは、車輪のように三方良しの関係で、ステークホルダーが互いにバリュー(価値)を発揮し、助け合う関係を表しています。具体的には、Shopifyを利用するマーチャントが増えると、マーチャントからの改善要望が増加します。すると、より多くの開発パートナーが改善要望に応えようと商品開発に注力し、結果としてよりよい商品が生まれるとともに、Shopify上でビジネスを展開するパートナーが増加します。さらに、パートナーが増加すると、Shopifyの価値が増え、マーチャントの事業が拡大していきます。いわば、自然発生的に三方良しの関係が広がる正のサイクルですね」
さらに、フライホイールの成立要素として、Shopifyが「コマースのOS」として独立性のある環境を提供している点に着目。「Shopifyの持つOS機能により、開発パートナーがマーケティングや配送、データ管理といった信頼性の機能を容易に追加できるとともに、マーチャントの多様なニーズがかなえられています」としました。
2.「顧客を獲得する」「商品を届ける」「ストアを改善する」の主要3テーマ
続けて、8000個以上のShopifyアプリが日本市場に流通するなかで、日本のEC市場でビジネスを展開する上で重要なアプリ機能のテーマとして、「顧客を獲得する」「商品を届ける」「ストアを改善する」の3つがあると説明しました。
1つ目の「顧客を獲得する」は、一般消費者向けの自社ECサイトの運用で発生しやすい顧客獲得と集客の課題を解消してくるアプリ機能だと定義。「Amazonのようなマーケットプレイスは顧客が勝手に自社商品を見つけてくれる一方、自社のECサイトは集客を自前でしなければなりません。そこで役立つのが『顧客を獲得する』という部分です」としました。
2つ目の「商品を届ける」は、顧客を集客後、商品購入が発生した時に商品を配送するためのアプリ機能だと説明。「商品提供の形態も、レンタルやサブスクリプション(定期購入)など、さまざまなニーズが発生しています。そういった多様化する配送ニーズに対応するのが『商品を届ける』です」と語りました。
3つ目の「ストアを改善する」は、顧客を獲得して商品を届けられるようになった後で、フライホイールのような形でビジネスを積極拡大したり、逆にコスト削減を図ったりするフェーズで必要とされるアプリ機能だと説明。「具体的には、データ管理・分析のほか、商品のレコメンド機能、アップセル・クロスセルといった、購入者のユーザーエクスペリエンス(UX)を高めるアプリが、『ストアを改善する』に該当します」としました。
3.顧客獲得ではソーシャルギフティングがトレンド
岡村氏は、EC市場での重要な3つのアプリ機能に付随する形で、EC市場で起きているトレンドについても言及。「顧客を獲得する」では、広告出稿のみならず、SNSやランディングページ(LP)、UGC(ユーザー生成コンテンツ)など、日本のマーチャントが顧客とつながるアプリが続々と登場している実態について紹介しました。
例えば、マーチャントの中では、ウェブサイトではなく、エンゲージメントが高い顧客向けにスマートフォンのアプリを提供し、アプリから直接購入するニーズが高まっているとのこと。このようなニーズの変化を踏まえ、岡村氏は「マーチャントがノーコードでアプリを入れるだけで、自社ストアを仕様そのままに独自のスマートフォンアプリとして提供できるアプリも登場しています」と明かしました。
このほか、住所がわからなくてもメールやSNSを介してギフトが贈れるソーシャルギフティングが搭載されているアプリが流行している現状についても指摘しました。
「自分が信頼できる人脈や人のつながりで、もののやり取りをする傾向が若い世代を中心に増えています。その傾向の延長にあるのが、ソーシャルギフティングですね。ソーシャルギフティングは単なる流行ではなく、商品がSNSで広がりやすかったり、人脈をデータ的にたどれたりする点で、マーチャント側に及ぶすメリットも大きいです」
4.返品が新規顧客とのタッチポイントに
続いて、岡村氏は、「商品を届ける」を巡り、日本にもともと根強い定期購入から、さまざまな商品提供が求められている現状について紹介。このうち、お試しについては、アパレル関連のECサイトの事例を取り上げつつ、「試着後に、最終的に買うのであれば、そのまま課金される一方、買わないのであれば、そのまま課金も走らない、といったニーズもすごく高まっています」としました。
また、商品提供のトレンドの広まりを受け、購入個数が多い顧客にのみ割引を適用したりするといった複雑なパターンのサブスクリプションも実現されてきていると指摘。実現の秘訣には、Shopify自体に機能を標準搭載せず、すべてAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)として提供している点にあるといい、「開発パートナーがAPIを活用し、マーチャントの多様なニーズを拾えるサブスクリプションサービスの提供を実現させています」と語りました。
なお、岡村氏によると、商品提供の方法が多様化するなか、返品が増えている事実があると言います。返品はネガティブな印象がある一方で、返品自体が新規顧客のタッチポイントになっているとのこと。台湾や香港では、返品のタイミングでアップセールを促したり、次回購入時に適用されるクーポンを与えたりするECソリューションが登場している流れを踏まえ、岡村氏は「返品のニーズは今後日本でも上がってくる」と予見しました。
5. LINEでつながった人だけにアップセル、クロスセル
岡村氏は「ストアを改善する」で、日本の開発パートナーが日本のEC市場に最適化したアプリを出している事実を紹介。具体例には、500円割引のクーポンを決済後のサンクスページで掲載するといったカスタマイズがあるといい、「日本の開発パートナーによるアプリ開発で、マーチャントがノーコードでかつ低価格でのカスタマイズが可能になりました」としました。
ストア改善では、セット販売や追加購入などに終始する従来の販売方法から、有益情報などで付加価値をつけるようになったアップセル・クロスセル戦略の変化が特筆すべきだと言います。具体的には、購入後のサンクスページでLINE公式アカウントにつなげて顧客と対話を図ったり、LINE公式アカウント上でクーポンを発行したりする方策が新たな戦略にあたるとのこと。岡村氏は「LINEでつながった人だけにアップセル、クロスセルしている点が最近のEC事情を反映しています」と強調しました。
このほか、料金の支払いによって保証期間が延長する延長保証も、新たなアップセル・クロスセル戦略になっていると指摘。「リピーターになりやすく、今後も購入回数が増えそうな顧客に対し、直接的な価値を提供しない付加価値的なサービスを商品とセットで販売するといったトレンドも、アプリを通じて発生しています」と語りました。
6. ビジネスの専門化が進んでいる以上、アプリエコシステムは必要
最後に岡村氏は、アプリ開発にかかわるパートナーエコシステムが必要な理由として、ビジネスが各業態・地域で特化している背景が大きいと強調しました。
「ビジネスの細分化が進んでいる今、Shopify同様、もしくはそれ以上に価値を有しているのは、開発パートナーです。この構造的な結果として、開発パートナーはShopifyよりマーチャントを知り、専門性に優れたアプリを生み出しているといえるでしょう」
固定化したECプラットフォームではなく、外に開かれたOSとして、優れたアプリの開発に寄与する環境を提供し続けてきたShopify。Web3など、革新的な技術が登場する中でも、Shopfyは開発パートナーと連携した価値提供に注力する考えであり、今後もパートナーエコシステムからどのようなアプリが誕生するか目が離せなさそうです。