オムニチャネルという言葉が最初に世に出てから久しいですが、最近EC業界でもますます名前を聞くようになってきています。今回は小売業におけるオムニチャネル戦略のメリットから実際の顧客体験の事例まで説明します。
オムニチャネル小売とは?
オムニチャネル小売は、あらゆる場所で販売をおこなうことを指すわけではありません。お客さまのいるすべての場所で販売をするべきなのです。この違いは、トップパフォーマンスを誇る企業とそれ以外の企業を分ける差となっています。
オムニチャネル小売は、コマースに完全に統合されたアプローチであり、すべてのチャネルとタッチポイントにおいて、お客さまに統一的なショッピング体験を提供するものです。
本来のオムニチャネルショッピングは、実店舗を超えて、モバイル、オンラインマーケットプレイス、SNSなど、ユーザーがオンラインで閲覧しているあらゆる場所に、リターゲティング広告を通じて展開されます。
消費者は、うまくオムニチャネル戦略をとっているブランドに多くのお金を使うようになっています。それなのに、22%の小売業者しかオムニチャネルを最優先事項と捉えていないのはなぜでしょう? モバイル、マーケティング、商品化戦略など、どれか1つに特化して取り組み、単一の指標を計測するほうが楽だと考えられているのかもしれません。しかし、すべてのタッチポイントを全体的なオムニチャネルのアプローチに統合することが、個々のタッチポイントの威力を最大化する唯一の方法なのです。
この記事では、これを実際に実現する方法をご紹介します。
- オムニチャネル小売とは?
- オムニチャネルショッピングができること
- 複数チャネルの機会創出
- オムニチャネルの価値が高い理由
- オムニチャネルで没入体験を作り出す方法
- 実際のオムニチャネル体験
- ビジネス成長の鍵となるのがオムニチャネル
概念的に見ると、オムニチャネルはかなり単純なものです。全体は細部の合計より価値がある、ということです。オムニチャネルは、すべてのタッチポイントを総動員して、消費者が望むものを、望んでいる瞬間に、デバイスを含めあらゆる場所で、提供します。デジタルとフィジカルの両方の領域で同時的に実行するという点が、複雑な部分です。
小売業者のほぼ80%が、統一的なブランド体験を消費者に届けることに失敗していることを認めています。それを試みているブランドのうち約半数は、十分なスピード感が達成できていないと言います。残念ながら、多くのブランドが遅れをとっているのです。そのおもな理由がこちらになります。
- 内部組織の欠如(39%)
- チャネルを横断した顧客分析の欠如(67%)
- サイロ化している組織(48%)
- データ品質の低さ(45%)
- ショッピングジャーニーにおいて消費者を特定できていない(45%)
こうした障壁を乗り越えるには、まずオムニチャネルの未来を想像することから始めましょう。
オムニチャネルショッピングができること
オムニチャネルは一貫性があり、ユニークです。消費者はどこでも自分のいる場所で購入ができ、使用しているチャネルに合った方法でコミュニケーションがなされ、カスタマーライフサイクルにおけるステージを意識させます。
オムニチャネルにおける消費者の体験は次のようなものです。
- お客さまがあなたをAmazonで見つけ、あなたから購入します。
- 彼らはAmazon仕様の箱開け体験をするとともに、Amazonにはない商品のプロモーションを折り込みで受け取ります。そこには割引コードや、ロイヤリティプログラムの情報、実店舗(またはポップアップショップ)の案内、あなたのサイトの特定のコレクションページのURLなどが一緒に記載されています。
- ランディングページが追跡コードを作動させます。このコードは後に、最初に購入した商品の補完商品に関するリターゲティング広告をFacebook、Pinterest、Googleなどでお客さまに表示させます。
- 2度目の購入の後、お客さまは近所の店舗やイベントに関するメールを受け取ります。
- 次のポップアップが立ち上がる前に、ロイヤルカスタマーはプライベートコレクションのリンクや、メンバーだけのVIPラウンジへの招待をFacebookメッセンジャーで受け取ります。
こうしたオムニチャネルにおけるカスタマージャーニーは、1つの販売チャネルの情報を、別のチャネルへの参加を促すために活用します。これらのアクションは強制的でも不自然でもなく、そのチャネルにおいて自然に感じられるものです。
うまくいけば、バイヤーは1つのチャネルから次のチャネルに連続して移行し、ブランド体験の奥のほうまで深く入り込んでいくでしょう。
オムニチャネル小売の円輪は、Amazonから実店舗、メール、Facebookまで、あなたがいたるところに登場することを意味します。
オムニチャネルの買い物体験を知るために、ハンドメイドブレスレットとアクセサリーの急成長メーカーであるPura Vida Braceletsを見てみましょう。この会社はDNVB(digitally-native vertical brand)ですが、創設者のGriffin ThallとPaul Goodmanはデジタル領域とフィジカル領域をつなぐためにオムニチャネルアプローチをとっています。
Pura VidaのターゲットカスタマーはFacebook(180万人)とInstagram(180万フォロワー)を頻繁に見にきていて、そこでハイクオリティなライフスタイル写真と商品写真を堪能しています。
興味を引かれたユーザーは、会社のオンラインストアを訪れ、すぐさま購入のインセンティブをオファーされます。
メーリングリストに登録したユーザーは、Pura Vidaに新しい販促チャネルを与えることとなり、企業のチャリティミッションや新商品、セールなどの情報を受け取ります。
そして今度はチャネル全体にわたってターゲティングされ、フード・ドリンク・音楽が用意されたエアストリームトレーラーイベントなどを通じて、Pura Vidaのブランドを直接体験します。
ブランドのエバンジェリスト、または会社がマイクロインフルエンサーと呼んでいる人たちは、アンバサダープログラムの招待を受けることもできます。このプログラムでは、Pura Vidaのストーリーをオンラインとオフラインのチャネルを通して広めることで、無料の商品を得ることができます。
ThallとPura Vidaチームにとって、オムニチャネルでカスタマーエクスペリエンスを作り上げることは、料理に近いものがあります。
「これはすばらしいレシピの材料によく似ています」とThallは言います。「それぞれの材料はそれ自体でもおいしいのですが、混ぜ合わせることによってもっとおいしい料理に変わります。結果的に、より良いエクスペリエンスをみなさんに届けられるのです」
複数チャネルの機会創出
こうしたことは全部すばらしいように聞こえますが、多くの小売業者は一貫したブランド体験を作り出せていません。もしあなたが遅れをとっているなら、こう考えてください。消費者はすでにオムニチャネルで買い物をしているのだ、と。約75%の消費者が、複数のチャネルを使って価格の比較をしたり、割引を探したり、オンラインで購入するために店内のタブレットを使用したりすると言っています。
さらに重要なことに、シングルチャネルの消費者と比べるとオムニチャネルのユーザーは、店内の購入機会に4%多く出費し、オンラインでは10%多く支出しています。
使用するチャネルが増えるほど、彼らの支出も増えるのです。
この調査は、IDC Retail Insightsのレポートと同調しています。レポートでは、オムニチャネルマーケティングを利用している小売業者の平均取引規模において15〜35%、ロイヤルカスタマーの収益性において5〜10%の上昇が見られ、ライフタイムバリューにおいてはシングルチャネルユーザーより30 %高かったという結果が報告されています。
これは、とくに若年層の、買い物習慣の多様な変化も反映しています。
データは、オムニチャネルのアプローチが下記の結果をもたらすことを示すその他の調査とも一致しています。
- 年間収益の前年比9.5%の増加
- 顧客コンタクトにかかるコストの前年比7.5%の減少
- オムニチャネルエンゲージメントが弱い企業の顧客維持率33%に対し、89%の顧客維持率
オンラインとオフラインのショッピング体験を融合させる技術をマスターしている企業にとって、オムニチャネルによる機会創出はさらに期待が持てます。
オムニチャネルの価値が高い理由
アメリカの消費者のメディア消費は1日10.5時間でほぼ横ばいですが、新しいチャネルがほかのチャネルに向けられた注目を奪おうと競い合っています。
プラットフォーム別にみる1日のメディア消費時間のシェア(live+time-shifted TVの割合がもっとも大きい)
Nielsenによる画像
オムニチャネル戦略の一部は柔軟性があります。新しいチャネルが出現し、既存のチャネルから注目を奪います。確固たるオムニチャネル戦略を持っているブランドが、顧客のいる場所に柔軟に買い物体験を届けるためにヘッドレスコマースに頼るのは、それが理由です。
新しいチャネルを使って顧客獲得をするためにブランドをポジショニングするだけではなく、オムニチャネルは既存顧客との関係を強化するためにブランドのポジショニングをします。オムニチャネルの顧客は、とくに意図的な顧客維持戦略の一部として努力が向けられた場合に、支出がより多くなることを覚えておきましょう。
オムニチャネルは顧客維持の要です。すぐにリピート購入することを促し、顧客ロイヤルティを向上させ、あなたの顧客ライフタイムバリューを高めます。
新しいチャネルを統合して消費者の注目を得ることは、最初のステップです。あなたはまた、すべてのチャネルにおいてカスタマーエクスペリエンスをパーソナライズする必要があります。これは、成長を加速させる没入型体験を提供できるブランドとしての重要な差別化要因となります。
オムニチャネルで没入体験を作り出す方法
スクリーンとチャネルの増加により、ブランドはあらゆる場所に出没しなければならないと考えるかもしれません。その考えに拮抗してください。効率的なオムニチャネル戦略を実践するには、顧客がいる場所にのみ出ていけばいいのです。
うまくやれば、あなたのブランドがさまざまな場所に登場しているという認識に帰結します。広告、PR、SEO、サービスなどがオーバーラップして、融合的なブランド体験を生み出します。次のことにフォーカスして、これを実現しましょう。
- オンラインでの「発見」タッチポイント
- 地理的なロケーション
- 使用されているデバイス
人が新しいブランドを発見する場所
ターゲット層が新しいブランドを見つけている場所で、あなたの知名度を高めましょう。
どの経路で新しいブランド・商品・サービスを見つけるのことが多いですか?「新聞社や雑誌に掲載されているウェブサイト」がほぼ50%です。
多くのブランドマーケッターはこの調査結果を見て、「どうやったら、XとYのチャネルでもっとも多くの人にリーチできるか?」と問うかもしれませんが、オムニチャネルのマーケッターは、「どうやってこれらのチャネルをオーバーラップさせるか?」と考えます。
あなたのターゲット購買層がもっとも時間を過ごして注目している場所を特定し、それらの交差点にあなたのブランドを差し込みましょう。たとえば、Instagramで宣伝されている商品のファンを、製品デモをおこなっているFacebookライブに招待します。
これを念頭に置くことで、オムニチャネルマーケッターは強力なクロスチャネルのリターゲティングキャンペーンを作り出すことができます。とくに、買い物客がカゴ落ちした後に、さまざまな広告フォーマット(複数チャネル)を使って、あなたから購入することの魅力的なストーリーを伝え、信頼を獲得しましょう。
同時にいろいろな場所に出現することによって、認知を向上できるだけでなく、あなたが登場するそのチャネルに対してターゲット層が抱いている信頼を利用できるのです。
実際のオムニチャネル体験
全天候型バッグとテクニカルアパレルのリーダーであるMission Workshopの商品ページを訪れたお客さまは、以下のようなオムニチャネルリターゲティング体験をすることになります。
1日目
高機能ダッフルバッグのThe Cadre 26に注目しています。
Mission Workshopによる画像
広告を見る前は、最近チェックしたそのダッフルバッグの名前すら知らなかったかもしれません。事実、235ドルという価格を見ただけで、バッグの耐久性や生涯保証という要素については知ることなくサイトを去った可能性があります。
その後、モバイルでInstagramを見ていると、ブランドのライフスタイルに焦点を当てたこの画像が表示されました。
1日目のリターゲティングでは、もう一度サイトを訪れることなく、ブランドと商品についてのより詳しい情報が複数のタッチポイントで表示されました。広告の目的は情報による教育で、買い物客に購入を要求することではありません。
2日目
メッセージングは進化し、新しいメディアフォーマットやレイヤー、ブランドオファーを消費者に提示します。リターゲティングの場面では、Facebookでバッグの動画が表示されるかもしれません。
それに続き、YouTubeでバッグのレビューを見ているときに、商品レビューのプレロール広告が流れます。
3日目
高価なバッグだけを宣伝するのではなく、ブランドはFacebookのコレクション広告を使って、彼らが販売しているほかの商品にも注目を促します。
ウェブを見ているときに、お客さまはコレクションエリアで見つけたのと同じ商品を取り上げたリターゲティング広告を目にします。これにより、チャネルを横断した一貫性がもたらされ、お客さまはブランドからのオファーに慣れることができます。
4日目
Facebook広告を通じて、ローカルの小売パートナーを訪問することを促されたり、スタイリストによる無料相談のオファーが提示されたりします。
スタイリストとの相談を経て、お客さまは購入に至ります。スタイリストはフォローアップメールを送り、お客さまを次回のMission Workshopのトランクショーに招待します。ショーに出席するためには、アカウントを作成してビジネスサイトに登録する必要があります。
お客さまの情報が会社のCRMに入力され、今後のマーケティングに活かすべくセグメント化されます。4日間にわたり、8個のタッチポイントを駆使して、Mission Workshopはオムニチャネル戦略を実行し、以下の点においてお客さまの教育をおこないました。
- 商品ミックス
- 保証
- レビュー
- ブランドと直接関われる場所
メッセージングはチャネルに関連付いていて、お客さまをファネルの下方へと移動させ、デジタルとフィジカルの世界をつなぐことでコンバージョンへ結びつけます。
オムニチャネルはビジネス成長の鍵となる
時流に取り残されないように…というプレッシャーは強くなるばかりです。AmazonとWalmartはオムニチャネル小売にますますフォーカスしています。彼らがやっている2日間の配送や日常的な低価格によって、この巨人たちは消費者の期待を大きくリセットしてしまいます。あなたもそれを超えるか、少なくとも同等の期待をかけられるのです。
シングルチャネルに基づく小売・マーケティング・商品化戦略は、そのうち時代遅れになるでしょう。
オムニチャネルのアプローチによって、新しいチャネルを解き放ち、あなたのビジネスを将来的にも安定して成長できるものにしましょう。
原文:Nick Winkler 翻訳:深津望