ジェンダーギャップが縮まらない国、日本。ジェンダー平等に向けた動きが起きてはいるものの、他の先進国との差は広がるばかりです。こうした状況を直視し、女性をエンパワーメントしていこうと石井リナさんはBLASTを起業しました。1枚でも過ごせる吸水ショーツを展開するフェムテックブランド「Nagi」はすでに多くのリピーターを獲得。女性に新たな選択肢を提供しています。起業の動機や「Nagi」にかける思い、商品開発の舞台裏について石井さんにお聞きしました。
■問題意識が起業へと駆り立てた
153か国中121位。これは、世界経済フォーラムが毎年発表する日本のジェンダー・ギャップ指数(2019年)にほかなりません。前年の110位からさらに順位を11下げ、日本のジェンダー・ギャップは残念ながら現在、先進国では最下位です。
ジェンダーの側面においてなぜこんなにも遅れているのか。驚きと同時に感じたシンプルな疑問が、IT広告代理店でSNSマーケティングを担当していた石井リナさんを起業へと駆り立てました。
「それまではフェミニズムという考えを知りませんでした。ただ、振り返れば就活を行うなかで女性だけが制服を着用している会社に嫌悪感を持ったり違和感を覚えました。とはいえ、経営層に男性しかいなくてもとりたてて問題意識を持つことがなかったので、当時は感覚が麻痺していたと思います」
ジェンダー平等の社会に向けて、何ができるのだろう。自分にできることがあるのではないか。石井さんは、日本の実態を知った翌年の2018年に起業へと踏み出し、女性向けエンパワーメントメディア「BLAST」を立ち上げました。女性に日本の現状を知ってもらい、自分の意思で生き方を選択できる社会を追求していくためです。
海外にはこうしたメディアはすでにいくつも存在していますが、日本では初。「BLAST」は、これまでフラットに取り上げられることが少なかった社会問題やセックスなどジェンダーにまつわる情報を積極的に発信し、女性たちの支持を獲得していきました。
「『BLAST』は年齢や職業とは関係なく、思想でつながるメディア。イベントを開催すると、高校生から40歳代まで、幅広い層が来てくださりました。心の拠り所にしているという声も寄せられましたし、男性にも見ていただき、『彼に勧められて見るようになりました』という女性も少なくなかった。コアなコミュニティが形成できていたと思います」
石井さんが過去形で「BLAST」を語っているのは、メディア「BLAST」休止し、持てる資源を新しく立ち上げたフェムテックブランド「Nagi」に集中したからです。
「メディアとプロダクト、そしてコミュニティの3軸で女性をエンパワーすることができると考えています。女性をサポートするプロダクトは当初から計画していました。きわめて身近な身体の問題からアプローチし、物理的に選択肢を提案、そして女性たちをサポートしたいと思っています。」
■ヒアリングから浮かび上がった声に寄り添って商品開発
日本は他の先進国と比較すると、生理用品の種類はさほど多くありません。選択肢はナプキンかタンポンの2つにほぼ限定され、欧米では普及している「月経ディスク」の利用者も少数派。消去法で選んでいる女性が多いのが実情です。
女性はもっと自分に合う生理用品を主体的に選んでいい。石井さんは、海外で利用者が増えている吸水ショーツに着目し、10代~40代の女性150名へのヒアリングを行いました。体に関する悩み、生理用品に対する不満や要望。ヒアリングから浮かび上がったのは、それぞれに異なるリアルな声でした。
「一つとして同じ意見がない。一人ひとり、抱えている悩みが違うことがよくわかりました。万人の悩みを解決するプロダクトを作ることは難しいと最初に割り切れました。そして、ヒアリングを踏まえて私たちなりの最適解を提供しようと考えました」
石井さんがたどりついた最適解が、機能性が高く、シンプルでありながらデザイン性も高い吸水ショーツ「Nagi」です。
30秒で97.2%の水分を吸水し、さらさらの肌触りの「さらさら速乾シート」。多い日の水分もパワフルに吸水し、膨張性を抑える「ぐんぐん吸水シート」。Ag(銀)を配合した繊維を使用することで、ニオイの原因となる菌の増殖を抑制する「しっかり防臭シート」。吸収した水分のモレを防ぐ「あんしん防水シート」。国内メーカーを探し、石井さんは4層構造の「Nagi」を完成させました。
ラインナップは、「スタンダード」と、「スタンダード」よりお尻側の布面積が少ない「スリム」、吸水面がより広い「フル」の3種類。吸水力は高く、「スタンダード」タイプ1枚で、ナプキン3枚分の吸水量にあたる30mLの吸水が可能です。また、くり返し洗って何度でも使用できる耐久性も備えています。
しかし、「Nagi」の魅力はこうした機能性にとどまりません。女性のリアルな声に寄り添った幾重もの創意工夫が施されているのです。
■どんな日も自分らしくいられるように
まずひとつは薄さ。パンツスタイルでもファッションに響かない薄さは、パンツスタイルが一般的となった現代女性にとってはうれしい点でしょう。
これまでの生理ショーツには見られなかったデザイン性も要注目です。黒やオレンジ、ベージュやアズキ色など、洋服に透けにくいカラーリングも揃えられています。ピンクだったり、ハート柄だったり、小さなリボンがあしらわれていたり。そうした既成の生理用品にありがちなガーリーなデザインが「Nagi」には見られません。
「シンプルでスタンダードなデザインを目指しました。そして、パッケージにもこだわりましたね。こちらも作ってくれる工場を見つけるのは難しかったです。下着が入っているとは思えないパッケージにしたいと思い、筒状のパッケージにしました」
グリーン系の紙製筒型パッケージを前にすると、わくわくと気分が高揚する女性は多いはず。毎月訪れる生理の期間を少しでもポジティブに変えたいという石井さんの意思がパッケージからも伝わってきます。
「Nagi」の発売開始は2020年5月。おかげさまで多くの反響があります。発売1週間で2000枚を売り上げ、いまもその上を行く数字で推移しています。Instagramで「Nagi」を紹介してくださる方も多く、生産が注文に追いつかない状況が続いています。
「『こういった製品を待っていた』という声を多数いただいています。機能はもちろん、デザインを褒めていただけるのはうれしいですね。友人同士やお母さんから娘へのプレゼントなど、ギフトの需要も多いです」
自分が使ってみてよかったから、あの人にも勧めたい。娘にも使ってもらいたい。そうした気持ちが自然と沸き上がり、購買行動につながっているのは、「Nagi」がモニターを通して個々の声にとことん寄り添ったからでしょう。
「プレゼント需要が高いのですが、贈る相手にサイズや好みのタイプは聞きづらいですよね。そこで、カラーやサイズ、タイプを確認せずに、相手に贈ることができるオンラインのギフトカードサービスも導入しました」と石井さん。気軽に贈りやすいサービスの導入で、「Nagi」のギフト需要はさらに高まりそうです。
■これからも女性をサポートできるプロダクトを
「Nagi」のオンラインストアはプラットフォームとしてShopifyを利用しています。Shopifyを選んだ理由について石井さんにお尋ねしました。
「将来、越境ECを考えているのでShopify一択でした。すごく気に入っていますが、率直に言えば『大好きだけど、付き合うのがちょっと難しい彼氏』(笑)。日本語適応がまだ完璧ではないこともあり、配送部分で住所の変換などスムーズにいかない場面があります。わたしたちは自社でツールを開発しロジスティクスに繋いでいます。ただし、何より支払いサイクルが早いのは、スタートアップにはうれしいことですね。また、この料金体系で分析ツールが非常に充実しており、とても助かっています。POSやメールマガジン機能など連携できることも多く、総じてとても満足しています」
Shopifyをうまく活用しながら、順調なスタートを切った「Nagi」。石井さんは今後の計画をこう語ります。
「女性の体の悩みに耳を傾けて、女性をサポートできるプロダクトをこれからも開発していく予定です。『Nagi』専用の洗剤の開発も検討していきたいですし、別のラインとして尿もれ用のショーツの開発なども計画しています。そのほかデリケートゾーンのケア用品など、日々をサポートするプロダクトも進めていきたいですね」
「Nagi」を実際に手にとって見てみたいという声に応えて、Shopify POSを活用してポップアップショップも実施したほか、2021年からは一部、卸もスタートするとか。いまは一旦休止しているメディア「BLAST」も、いずれタイミングを見計らった上で再開する計画です。
「Nagi」を主力製品として女性のライフスタイルをエンパワーするBLAST。その舵取りをする石井さんのパワフルな創造力と行動力は次にどのような送り出す製品やサービスを形にしていくのでしょう。「Nagi」同様に、人生を主体的にポジティブに生きるきっかけを女性に提供していくことは間違いありません。
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