起業家(アントレプレナー)になるには資格も学歴も経験も必要ありません。きちんと計画を立て、準備をし、計画を遂行するために努力を続ければ、自分で新規事業を立ち上げることができます。
この記事では、起業するまでに必要な行動を、8つのステップでまとめました。また、起業家になった後に成長していくためのポイントも紹介しています。起業したいけど何から始めたらいいかわからない、という人はこのステップに沿って、次の一歩を踏み出しましょう。
起業するまでの8つのステップ
1. 事業のアイディアを見つける
起業の第一歩は、優れた事業のアイディアを見つけることです。以下から、どんな商品・サービスを提供するかを考えましょう。
困りごとから見つける
日常生活や仕事で感じる困りごと、普段の生活で不便に感じること、もっとこうなれば良いのにと思うことをリストアップしてみましょう。自分自身の体験だけでなく、友人や家族、同僚など周囲の人々からも意見を聞き、「こうだったらいいのに」を想像すると、新たなアイディアがうまれるかもしれません。例えば、自分がペットと住める賃貸が見つからず困っていたら、ペット向けの不動産を紹介するペットビジネスを始めることもできるでしょう。
社会課題から見つける
気候変動や貧困、教育格差といった社会課題にも、事業のチャンスが眠っています。新聞や雑誌、オンラインニュースをチェックし、現在の社会でどのような問題が議論されているのかを把握して、その解決に貢献する方法を考えましょう。社会的目的を持つソーシャルビジネスに発展させられる可能性があります。
自分が好きなことから見つける
自分の趣味や好きなこと、興味のあることからアイディアを見つけた事業は、モチベーションを保ちやすくなります。例えば料理が好きならば、新しいレシピサイトや、料理教室を事業にするのもいいでしょう。自分が楽しんで取り組めることは、改善点やアイディアもひらめきやすく、長期的には成功につながる可能性が高くなります。
自分が得意なことから見つける
自分自身のスキルセットや強みを振り返り、それがどのように市場のニーズに応えられるかを考えましょう。例えばプログラミングが得意ならば、アプリ開発やウェブサイト制作のサービスを提供することができます。また、過去の職務経験や専門知識があれば、それを活かしてコンサルティングや教育サービスを始めることも一つの方法です。
2. ビジネスとしての可能性や妥当性を検証する
アイディアが実現可能で、市場適応性があるかを検証します。
資格や許可
業種によっては、許認可が必要な場合があります。例えば、飲食店や居酒屋を開業する場合には飲食店営業許可を受けた施設が必要であり、不動産業を営む場合には宅地建物取引主任者の免許などが必要です。アイディアの実現に足りないものがないか、新たに取得するにはどんな手順が必要か、確認しておきましょう。中には審査に時間がかかるものや、受験できる時期が決まっているものもありますので、早めに着手していなければ起業までの計画が影響を受けてしまう可能性もあります。
競合の分析
同じような商品・サービスを提供している競合他社がいるか調べましょう。競合他社が多数いる場合は市場の有効性が実証されていることを意味しますが、後発での参入となると明確な差別化が必要になります。一方で、競合分析を行った結果、もしも類似の事業がまったくなかった場合には、似た要素のある複数の事業を調べたりアンケートをとったりして、本当に需要があるかどうか見極めることをおすすめします。
市場動向の分析
自分が起業しようとしている事業で扱う商品・サービスの市場が、現在どんな状況にあるかを認識しておく必要があります。
- 一時的な流行:短期間で急成長しているものの、その人気がたちまち消えてしまう可能性がある市場です。参入と撤退のタイミングを完璧に合わせることができれば収益性のあるビジネスになりますが、長期的にはリスクがあります。
- トレンド:「一時的な流行」ほどの急成長はしませんが、長期的なニーズの高まりが予想されている市場です。例えばパンデミックが発端となったデリバリーサービスやリモートワーク関連商品など、社会情勢の変化で新たに生まれたニーズは人気が衰退するスピードもさほど速くはありません。トレンド商品は長期的な成長市場へと発展していくこともありますが、それを予測するのは困難です。
- 安定:景気の動向に影響されず、常に一定のニーズと市場規模を維持している分野です。誰もが使う日用品や消耗品などが、わかりやすい例といえるでしょう。市場が衰退することはほとんどありませんが、成長もしていないため長期間にわたってポジションが固定されていることもあり、新規参入が難しい傾向があります。
- 成長過程:継続的に成長しており、長期的または恒久的なニーズが発展する兆候のある市場です。この間に参入することができれば、将来的に安定した収益を獲得できる可能性があります。
これから市場がどうなるのか予測するのは困難ですが、似た商品・サービスをサンプルとして市場の成長傾向を調べることで、おおよその見当をつけることができます。
3. 商品やサービスを開発する
アイディアの可能性を検証できたら、商品・サービスを具体化していきます。
オリジナルの商品をつくる方法
オリジナルの商品を開発する場合は、手づくり商品でもパートナーに製造を依頼するのでも、まずは試作品を作成して改良を加えながら完成に近づけていくことが大切です。形になったら、利用者によるテストを行って反応を収集することも効果的です。これにより、実際の市場投入前に潜在的な問題を解決し、ユーザー満足度を高めることができます。
サービスの開発でも、とるべき流れは同様です。事業のアイディアが本当にユーザーに受け入れられるかテストして、サービスに改良を加えていきましょう。
商品の在庫を持たない販売方法
商品の在庫を持たずに販売をする方法もあります。例えば既存の商品の販売を事業とする場合には、在庫の管理や発送をメーカーや卸売業者などが代行してくれるドロップシッピングを利用することも、ひとつのアイディアです。また、プリントオンデマンドサービスを利用すれば、オリジナルデザインのTシャツやバッグ、スマホケース、マグカップなどを制作・販売する事業でも、受注するごとに制作されるため在庫は必要ありません。Shopify(ショッピファイ)では、開設したネットショップとプリントオンデマンドサービスを連携してシームレスに受発注を管理することも可能です。
4. 事業の形態を決める
事業の形態を、個人事業主にするのか、法人にするのか決めましょう。まずは個人事業主として起業し、軌道にのったら会社化するという人は多いですが、出資を受けたい場合や、大企業など信用を重んじる会社との取引が予想される場合は、最初から法人を設立したほうがスムーズです。個人事業主と法人にそれぞれメリットとデメリットがあるので、自身の事業に適した形態を選択することが大切です。
個人事業主
メリット
- 手軽:開業届を税務署に提出するだけで始められます。
- 費用がかからない:開業届の提出は無料です。個人のためランニングコストも抑えられます。
- 会計業務が簡単:経理や税金の申告といった会計業務が比較的簡単で税理士を雇う必要がない場合も多いです。
デメリット
- 社会的信用度が低い:法人に比べて、取引先や金融機関から信用を得にくい傾向があります。事業実態を確認しづらい、といった理由から個人事業主との直接取引を避ける企業も存在します。
- 資金調達が難しい:融資を受ける際に、法人よりも審査で不利になる場合が多くあります。
- 所得税が高い:一定の所得までは個人事業主のほうが税率が低いですが、利益が大きくなると累進課税により所得税率が高くなります。
法人(株式会社など)
メリット
- 社会的信用度が高い:法人化することで取引先や金融機関からの信用が高まります。
- 資金調達がしやすい:銀行融資や投資家からの資金調達が個人事業主よりも有利です。
- 税制面で優遇されている:所得税に比べて税率が緩やかで、経費にできる範囲が広がるため、節税の方法も広がります。。
デメリット
- 設立と維持に費用がかかる:法人設立には登記費用や定款作成費用が必要です。また、年次報告や税務申告などを行う必要があり、維持費用もかかります。
- ルールが多い:法人には会社法などの規制が適用され、遵守すべきルールが多くあります。
- 税務処理が煩雑:法人の会計や税務処理は個人事業主よりも複雑で、多くの場合税理士が求められます。
5. 事業計画を作る
方針や目的、具体的な目標を事業計画として明確化しましょう。具体的には、次のような項目を検討する必要があります。また、これらの内容をドキュメントにまとめた事業計画書は、金融機関の融資を受ける際などに提出が求められることもあります。
- ミッション:事業の使命、役割。何をするのか
- ビジョン:ミッションを続けて行った先の理想の世界観。どんな状態を目指すのか
- パーパス:何のために存在し、何を達成するのか
- バリュー:価値観や指針。何を大切にしているのか
- 職歴・事業実績:事業に関連するスキルや経験を持っているか
- 事業の概要:商品・サービスを誰にどのような方法で提供するのか
- 強みや特徴:この事業にしかない商品価値はなにか
- 顧客層:誰をターゲットにするか
- 財務状況:どのくらいの収入が見込めて、どのくらいの資金が必要か
- 目標:初年度、3年後、5年後、10年後の目標など、事業の見通し
- 関係者:従業員の数や、取引先との関係
6. 資金を確保する
0円、または低コストで始められる事業もありますが、多くの場合、起業には資金が必要になります。一般的な資金調達の選択肢は以下の通りです。
- 個人の資金を使う:手元に資金があれば、それを事業に投入することができます。ただし、資金を回収できない可能性や、回収するのに時間がかかる可能性も考慮しておきましょう。
- 補助金・助成金:各都道府県、地方自治体、公共団体ごとに、さまざまな補助金や助成金が用意されています。創業時に特化したものは多いのでチェックしてみてください。
- 政府金融機関:日本を拠点に事業を行っている場合は、日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性があります。複数の制度が用意されているので、あなたの事業に適したものがあるかどうか、チェックしましょう。
- 銀行融資:民間銀行も、保証付き融資やプロパー融資、不動産担保融資など、さまざまな形で融資を行なっています。
- ビジネスローン:通常の銀行融資よりも金利は高いですが、保証人や担保なしで、スピーディーに借入を行うことができます。
- クラウドファンディング:プロジェクトやアイディアをウェブ上で公開し、賛同する不特定多数の人々から実現に必要な資金を募ることができます。
7. 事業を始めるための環境を整える
事業のスタートに向けて、必要な環境を整えていきましょう。
インフラの整備
事業を運営するために、必要なインフラを整えておきましょう。必要に応じてオフィスの確保や機器の購入、ネットワーク・電気・水道・ガスの契約などを行いましょう。オンライン上では、事業内容がわかる独自のウェブサイトを用意する必要があります。ネットショップが必要な場合には、Shopifyを利用すれば簡単に短時間で構築することができます。また、事業の内容に応じてSNSでも専用のアカウントを用意しておきましょう。
マーケティングと宣伝
ターゲットとなる顧客層にアプローチし、認知度を高めるためのマーケティングも事業のスタート前から進めておきましょう。ロゴやテーマカラー、キャッチコピーなどの作成も、商品やブランドをイメージづけて印象に残すために重要です。また、SNSマーケティングや広告、オフラインでのPR活動などの施策から、事業内容とターゲットにあわせた戦略を計画していきます。
法的手続きと保険の加入
必要な法的手続きを完了させましょう。個人事業主なら税務署に届出を提出してください。法人であれば登記を行い、社会保険や労働保険への加入なども忘れずに行うようにしましょう。また、事業活動中に発生するリスクに備えて、適切な保険にも加入しておくことが望ましいです。
8. 事業を開始する
すべての準備が整ったら、いよいよ事業を開始します。はじめのうちはイベントやキャンペーンを通じて、顧客との接点をとにかく増やす必要があるでしょう。また機会を見つけて、新しい市場や顧客層へのアプローチを検討することも重要です。定期的なレビューと目標設定を行い、事業の進捗を確認しましょう。
起業家として成長するためのポイント
起業家になり、事業をスタートさせても、軌道に乗るまでに時間がかかる場合は多々あります。事業を長く続けていくには、事業に関する情報や社会情勢、現在のトレンドなどの情報を常にインプットし、学び続けることが重要です。成功した他の起業家たちも、先人から多くを学んでいます。活躍している起業家の失敗や成功から学びましょう。
例えば、Forbes JAPANの「日本の有名な起業家ランキング2024」のトップ10には、以下の人々がいます。
- 慎 泰俊(五常・アンド・カンパニー)
- 小川 嶺(タイミー)
- 磯野 謙 / 川戸健司 / 長谷川雅也(自然電力)
- 長尾 昂(京都フュージョニアリング)
- 加藤勇志郎(キャディ)
- 角田 望(LegalOn Technologies)
- 富岡 仁 / 佐野元紀(Telexistence)
- 宮城 徹 / 水野智規(UPSIDER)
- 多田智裕(AIメディカルサービス)
- 山野智久(アソビュー)
起業家に関する本を読んだり、講義を履修したり、ポッドキャストを聴いたり、メールマガジンやニュースレターに登録したりするのもいいでしょう。
同時に、事業を立ち上げて運営してみることが、なにより多くの学びを得られる手段であることもぜひ覚えておいてください。事業は始めた後にこそ、継続的な改善が求められます。顧客からフィードバックを収集し、商品やサービスの質を向上させる努力を続けましょう。先人の起業家たちから学び続け、その知恵や経験を自分の事業に活かせないか考えを巡らせながら、起業家として成長していきましょう。
まとめ
起業には、アイディアの発見や検証、計画、資金の確保や環境の整備など、数多くのステップを、ひとつひとつ着実に進めていくことが求められます。そこで重要なのは、とにかく行動に移すことです。起業は誰にでもできる、という点を忘れず、まずは一歩踏み出してみましょう。さらに立ち上げた事業の改善を続け、学び続けていくことが、起業家としての成長と成功につながります。そして何より、自分のアイディアを事業にできることには、何ものにも変え難い達成感があるはずです。
続きを読む
- Shopifyストアを立ち上げるためのチェックリスト
- Shopify ペイメントにてジェーシービー(JCB)の対応決定!
- 【Shopify事例50選】起業家をインスパイアする魅力的なストア例
- 消費アクティビズムを通じて人種的マイノリティを支援 【ニューヨーク発、最新EC事情 〜Black-Owned Business編〜】
- パワフルな女性たちはアクションを起こしている!【ニューヨーク発、最新EC事情 〜女性史月間編〜】
- 行き詰まりの解消:なす術がない時にすること
- ユニコーン企業とは? 国内/海外における代表企業とそのサービス、事例についてご紹介
- ギグエコノミーとは。市場規模、将来の成長予測、今後の働き方
- 1年を振り返ろう 新年をフレッシュな気持ちでスタートするためのエクササイズ
起業についてのよくある質問
実業家と起業家の違いは?
実業家とは、生産、流通、販売など実生活に役立つ事業を営んでいる人を指します。一方で起業家とは、業種を問わず新しい事業を起こす人のことを指します。
経営者と起業家の違いは?
経営者とは会社を経営する人を指し、起業家とは自分で新しい事業を起こす人を指します。経営者が経営する会社は、自分で設立した会社に限りません。既存の企業を継承した場合など、会社を経営しているすべての人のことを経営者と言います。会社を設立して経営を行う起業家や、実業家も経営者に含まれます。
起業家になるメリットは?
- 自己実現:自分のアイディアを事業として形にし、世の中へ発信することができます。
- 主体性を持った仕事ができる:事業の方向性や戦略を自分自身のアイディアと裁量で決定できます。
- フレキシビリティ:時間やスケジュールの管理を自分で行えるため、柔軟な働き方が可能になります。
- 社会貢献:事業を通して、社会や地域に貢献することができます。
文:Taeko Adachi イラスト:Islenia Milien