ピッチとは。プレゼンテーションやLTとの違い、ピッチデックなども解説

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ピッチとは、主にスタートアップ業界で行われる短く端的なスピーチです。一般的にピッチとプレゼンテーションは以下のように区別されています。

「ピッチ」は、短い時間で、多くない枚数のスライドを使い、内容や要点を絞って端的に行われます。「プレゼンテーション」は、30分〜1時間、あるいはそれ以上の時間をかけて、説明に必要なだけの枚数のスライドで、内容や要点を十分に説明し、多様な話し手が理解できるように実施されます。

ここではIT業界やスタートアップ業界で「ピッチ」と使われるときの意味、プレゼンテーションとLT(ライトニングトーク)との違いも解説します。

本記事では「ピッチ」を「エレベーターピッチ」が短縮された単語であるとし、記事内では指定や前提がない限り「ピッチ」と表記します。

ピッチ(Pitch)とは 

IT業界やスタートアップ業界で使われる用語である「ピッチ」と、その周辺用語を説明します。

「ピッチ」は英単語のpitchから来ており、音楽の文脈では「音程」の意味で使われます。例えば有名な熟語である“pitch perfect”は「完璧な、寸分の狂いもない」の意味を持ちます。英単語としてのpitchの意味は複数ありますので、興味があり詳しく知りたい方はぜひ調べてみてください。本記事ではビジネスシーンでの使われ方に焦点を当てます。

ピッチとは?

ピッチとは、主にスタートアップ業界で行われる短く端的なプレゼンテーションです。ピッチデックを使って、イベント会場や、起業家と投資家が参加するクローズドな場で実施されます。ピッチの話し手はスタートアップやIT企業の起業家、聞き手は主に投資家です。

ピッチもプレゼンテーションも、話し手が聞き手に対して資料を見せながら解説や説明を行なうものですが、ピッチの方がより端的です。ピッチは、イベントやコンテスト・コンペティションの際に、ステージや専用に設けられた会場で、起業家や経営者が、自社の事業や将来の成長性についてスライド資料にまとめたものを使い、それらを見せながら行われます。ピッチの目的は投資を受けることや、将来投資をしてくれる投資家とのコネクションを作ることです。多くのピッチが起業家対複数の投資家で行われますが、クローズドに設けられた場では1on1になることもあります。

また、ピッチイベントの場合、複数のピッチがトーナメント形式などで行われ、審査員による審査が入り、上位1社あるいは数社が賞金を受け取ることもあります。

ピッチの聞き手には、転職を検討している潜在候補者や、競合他社の経営者、別業界のスタートアップ起業家なども存在します。

ピッチデック(Pitch Deck)とは

ピッチはピッチデックを使用しながら行われます。ピッチデックとは、主にスタートアップ企業が、自社の会社概要・事業計画・ビジョンを説明するために作られた、10〜20枚程度のスライドプレゼンテーション資料のことです。

ピッチデックとは

 

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ここではスタートアップ業界で使われるピッチデックについて解説します。

ピッチデックの特徴

多くのピッチデックは、短時間で端的に理解できることが優先され、大きなフォントを使用して、数字やグラフを必要に応じて差し込んで作られます。

わかりやすく、魅力的で、信頼できるものであることが求められます。

ピッチデックの構成

構成はおおむね、以下のようになります。

  1. 表紙
  2. 簡単な自社説明
  3. 課題
  4. 課題を解決する自社のビジネス・製品
  5. 市場規模
  6. トラクション
  7. 競合
  8. 自社の優位性
  9. 創業者もしくは経営陣・チームの紹介
  10. 連絡先

ピッチデックは視覚的な見やすさとわかりやすさが重要視されます。話し手の後ろなどに設置されるスクリーンに映されるためです。

シリコンバレーで有名なガイ・カワサキ氏は、ピッチデックを10枚に収めるよう提唱していますが、もちろんピッチを行なう状況に応じて内容は増減します。

ピッチデックの構成1:表紙

どのような資料にも表紙は必要です。

ピッチデックの構成2:簡単な自社説明

短く端的に自社を紹介します。論文でいう、冒頭の要約部分に当たります。

ピッチデックの構成3:課題

ピッチの主語であるスタートアップが取り組む、試乗とそこにある課題を説明します。

ピッチデックの構成4:課題を解決する自社のビジネス・製品

3で説明した課題を解決する自社の製品やビジネスモデルを説明します。

ピッチデックの構成5:市場規模

市場全体の規模を説明します。

ピッチデックの構成6:トラクション

ユーザー数、年間収益率、利益率などを載せます。

ピッチデックの構成7:競合

競合他社、あるいは競合製品などを説明します。

競合の多さは、市場に大きな潜在的可能性があるとも言えます。競合の少なさは、未開拓の新市場であり伸びしろがある、あるいは、解決の難しさから競合が参入していないとも言えます。

ピッチデックの構成8:自社の優位性

競合と比較した自社の優位性を説明します。

ピッチデックの構成9:創業者もしくは経営陣・チームの紹介

創業者、あるいは共同創業者、経営陣、チームの説明をします。創業者、あるいは共同創業者が創業に至った強いきっかけやストーリーがある場合、ぜひ含めるといいです。

ピッチデックの構成10:連絡先

ピッチを行った起業家や創業者の連絡先などを載せます。

ピッチのポイント

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ピッチの目的

多くのピッチが資金調達を目的としています。

ピッチの話し手

多くが、スタートアップの起業家(創業者)です。

ピッチの時間

ピッチは最短10分前後〜長くても20分程度です。

ピッチの聞き手

聞き手の多くは、投資家、あるいは潜在投資家です。資金を投入する価値がある、成長性のあるビジネスに取り組んでいるスタートアップなのかを理解するためにピッチを聞いています。

ピッチ、プレゼンテーション、ライトニングトーク(LT)の違い

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IT業界やスタートアップ業界で使われる類似のものに、ピッチ、プレゼンテーション、そしてライトニングトーク(LT)があります。この3つの違いを紹介します。ライトニングトークは、以下「LT」と表記します。

冒頭でもお伝えしましたが、本記事では「ピッチ」を「エレベーターピッチ」が短縮された単語であるとしています。

ピッチ、プレゼンテーション、LTの共通点

全て、話し手が聞き手に対して、何かを伝える目的で話をするものです。

いずれの場合も、1人の話し手が複数の話し手を相手にする状況と、話し手と聞き手が1人ずつである1on1の状況もあります。

ピッチ、プレゼンテーション、LTの相違点

起源

エレベーターピッチの起源は複数あり、そして諸説あるとされていますが、説の一つに「要人に対してエレベーターの待ち時間や乗る時間で端的に話を伝えたこと」があります。

プレゼンテーションの起源も複数ありますが、単語は14世紀後半からあり、フランス語やラテン語を起源としているとする説があります。

LTの起源は、Yet Another Perl Conference(略称YAPC、以下YAPC)19100会議が作った用語です。YAPCを直訳すると「さらに別のPerl会議」、これはプログラミング言語の一つであるPerl(パール)に関する議論が行われる有識者や愛好家たちが参加する会議です。名付けることなく行われていたこの特徴あるコンパクトに主張や要点を伝える話し方が、2000年に行われたこの会議で「LT」と名付けられました。

時間

ピッチとLTの共通点は、短時間で端的に話をする点です。それに対してプレゼンテーションは長めの持ち時間があることが多いです。しかし、それぞれに対して「ピッチとは●分のものである」「LTは●分でなければならない」「プレゼンテーションは●時間未満のものである」といった決まりはありません。

ピッチはエレベーターの待ち時間や乗る時間で要点を伝えたことが起源にあることから、最短で1分前後〜、最長でも20分程度です。

LTは、通常5分以内のトークです(英語)

プレゼンテーションは30分前後、状況に応じて60分や90分程度のこともあります。

実施する際に使われる資料

ピッチの際に使用する資料は10枚〜であることが多いです。LTも同程度あるいは前後しますが、資料の内容はスライド1枚に単語1〜3つのみなど、聞き手に強い印象を残すことを意図して用意されたスライドが含まれることもあります。プレゼンテーションの資料は、時間や内容に応じますが、10枚では到底収まらず、表紙から始まり30枚あるいはそれ以上になることもあります。

資料の内容は当然、話し手と聞き手の理解や話の目的に応じて変動します。例えばピッチがスタートアップの起業家から投資家に対して行われ、投資家は投資を実施できるが業界の事情には明るくない場合、資料には業界を理解できる内容とその将来性を含め、設けの将来性があることをわかりやすく示すべきでしょう。対してLTがYAPCのように話し手も聞き手も一定のプログラミング知識を有する有識者で構成される場で行われる場合、その資料に「Perlとはプログラミング言語の一種で〜」など、当然わかっていることの説明は不要です。

ポイント

「ピッチ」は特にスタートアップ業界で使われることが多く、その特徴から、話の内容が「自社のビジネス内容(事業内容、ビジネスモデル、他)を伝える」ものに対してピッチと名付けられることが多いです。またピッチの目的は、話し手がビジネスの実利、例えば資金調達やビジネスに有益なコネクションやチャンスを得ようとすることが多いです。

「LT」はカンファレンスや議論の場で講演者や登壇者が自身(あるいは自分のビジネスなど)の主張とその要点を伝える場合に使われることが多いです。話の早い段階で可能な限り話し手の主張を明確にすることが求められます(英語)。LTは、結果として(資金を調達、などの)実利を得ることよりも、議論や意見交換の場で多数の意見を重ねるために効率よくわかりやすく行われます。

主張や要点を伝え合っていき、場の目的によっては議論を深めていく状況で行われる発言が「LT」とされることが多いです。

「プレゼンテーション」はグループとの会話、会議の演説、チームへの説明など、さまざまな会話の状況で行われるコミュニケーション手段です。

使い方を理解するための例

例1:スタートアップ業界で「ピッチイベント」は開催されるが、「LTイベント」「プレゼンテーションイベント」とはあまり言わない

スタートアップが資金調達や投資家との出会いやコネクションを得る目的で開催されるイベントには「ピッチイベント」と名付けられていることが多く、「LTイベント」「プレゼンテーションイベント」と名付けられていることはあまりありません。

しかしながら、例外もあるかもしれません。

例2:LTは「トーク」

架空のトークイベント「2050年のEC〜未来を語る」に、EC企業3社のCEOが3名とモデレーター1名、合計4名が登壇することとします。この場合、ここで行われるのはLTです。イベント構成の例は、前半でEC企業3社のCEOがLTを実施、休憩を挟んで後半にモデレーターが進行と仲介を行いながらEC企業3社のCEOが意見を交わす、などです。

この状況で行われるトークを「ピッチ」「プレゼンテーション」と呼ぶことはあまりありません。

実際の事例を2つ紹介します。敬称略です。

Googleは2009年1月にGoogle Chrome 正規版リリースを記念したパーティを開催し、このイベントは「Googleが初めてのLTイベントを開催する」と話題になりました。イベント名は「Google Chrome Out of Beta Party - Google Chrome について語るライトニングトーク大会 - 」です。これは「どんなトピックでも結構」とされ、プログラマーや技術の話に限定されていません。

また、テクノロジーコミュニティTECH Streetが2020年8月にイベント「マイクロソフト担当者に聞く、Teams最大活用<テレワーク応援#1>」を開催しています。このイベントにはセミナー登壇者として日本マイクロソフト株式会社のプロダクト マーケティング マネージャーが、ライトニングトーク登壇者として2名の方が登壇しています。

以上のように、トークイベントで行われる短い話、話をする、伝えたいことがある、しかしその目的が資金調達などのように明確な実利ではないような場合に「LT」が使われる傾向にあります。

例3:「LT」は起源も使われ方も技術者やテクノロジーに関連する

「LT」は現在でも技術者、例えばプログラマーやエンジニアが自身の学びや取り組んでいる仕事などを簡潔にまとめて要点を伝えるような会および状況で使われます。そしてこれらの会および状況を「ピッチ」あるいは「ピッチイベント」と呼ぶことはあまりありません。

ただし、内容や文脈、文化に応じて「プレゼンテーション」「プレゼン」と呼ばれることがあります。

例4:言葉の使い方

少なくともIT業界やスタートアップ業界では、「ピッチをプレゼンする」「LTをプレゼンする」「プレゼンをピッチする」のような言葉の使い方はあまりしません。

しかし、する方は、するかもしれません。

ピッチイベント

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Slush

世界最大級のスタートアップイベントです。フィンランドで生まれたイベントで、首都ヘルシンキで開催されます。

世界のピッチイベント

ピッチはスタートアップイベントの中の一環として開催されることが多いです。スタートアップイベントの開催が多い地域は北米、ヨーロッパ、中国、東南アジアです。

日本のピッチイベント

日本には、日本を代表するスタートアップイベントやピッチイベントが存在していません(2022年5月現在)。かつて、SlushとTechCrunchが東京で開催されていました。

VCやCVCなどが独自でピッチイベントを開催している例もあります。ぜひ探してみてください。

ピッチ:質問と回答

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よくある質問

Q1: ピッチとは?

ピッチとは、主にスタートアップ業界で行われる短く端的なプレゼンテーションです。ピッチデックを使って、イベントや、起業家と投資家が参加するクローズドな場で実施されます。資金調達を目的に行なわれます。

Q2: ピッチデックとは?

ピッチで使われる資料です。多くのピッチデックは、ピッチの話し手の後ろなどに設置されるスライドに映されます。

短時間で端的に理解できることが優先され、大きなフォントを使用して、数字やグラフを必要に応じて差し込んで作られます。

例えば、日本の省庁が製作し公開している資料は、必要な情報が漏れなく盛り込まれています。そのために文字が小さくなっていたり、多くの色が使われていたりすることもあります。齟齬が発生しないよう、意図や内容が間違いなく伝わることを目的として製作されているため、そうなることは当然です。しかし日本の省庁が発行する資料は、読み手に応じて誤解が起きてはならない、誰が読んでも事実を正しく理解できるものである必要があります。要点を見栄え良くわかりやすくまとめるピッチデックとは別のものです。

Q3: エレベーターピッチとは?

エレベーターピッチは、短く限られた時間の中で要点を要人に伝えることです。ピッチとほぼ同義語で使われます。起源は複数あり、そして諸説あるとされています。ピッチとエレベーターピッチに厳密な違いや定義分けはされていません。どちらも、要点を端的に伝えるピッチを指します。
本記事では「ピッチ」を「エレベーターピッチ」が短縮された単語であるとしており、記事内では指定や前提がない限り「ピッチ」と表記しています。

おわりに〜ピッチが必要な人はこんな人

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ピッチのように、超短時間で端的に正確に情報を伝える能力を持っていると便利です。また、事業主の方は必要に応じて事業計画書を作る人もいらっしゃいますが、事業計画書の作成時に求められるものとピッチの準備や実施で求められるものは似ています。事業計画書をステークホルダーに説明する際の内容も、ほとんどピッチと同様です。

商売やマーケティングには、選択肢が多いほうがいいとは限らず、選択肢が限定されていると購買率が上がるとする研究結果(英語)があります。

大量の情報を長々と伝える必要はありません。短く端的に、自分のことや自分のビジネス、あるいは経営する会社の情報を端的に紹介できるといいかもしれません。ビジネスでもプライベートでも役に立ちます。

例えばShopifyで作る自社のWebサイトにも、商品・サービスや自社について、短く端的でも構わないのでぜひ相手に伝わるような紹介を入れましょう。長々と説明文章を入れる必要はありません。長い文章は、完読されないこともあります。

商品やサービスの説明文に相手が知りたい情報を端的に含ませたり、会社や事業のことをわかってもらえる「概要」ページやAboutページを設置したりするといいですよ。


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