食品をネット通販で売るには、特定の許認可や資格の取得に加えて、食品表示法などの法律を遵守することが不可欠です。この記事では、食品のネット販売に必要な許可や資格、注意すべき法律などについて解説します。参入のハードルが高そうにみえる食品販売ビジネスですが、必要な許可や資格を理解し、やるべきことを一つひとつクリアしていけば事業を始められます。
ネットでの食品販売に挑戦したい人は、この記事を参考にしてください。
食品のネット販売に必要な許可

ネットで食品販売を行うにあたっては、ほとんどの場合で「食品衛生法に基づく営業許可」が必要です。食品衛生法に基づく営業許可は、食品の安全性を保ち、消費者に衛生的な食品を提供することを目的として、厚生労働省および消費者庁が管理しています。
購入した商品を小分けにして再販売する場合には、食品衛生法に基づく営業許可に加えて「製造業の許可」が求められることもあります。
食品衛生法に基づく営業許可の対象業種
- 調理業:飲食店営業・調理機能付き自動販売機
- 販売業:食肉販売・魚介類販売・魚介類競り売り
- 処理業:集乳・乳処理・特別牛乳搾取・食肉処理・放射線照射
- 製造業:菓子・アイスクリーム類・乳製品・清涼飲料水・食肉製品・水産製品・氷雪・液卵・食用油脂・みそ・しょうゆ・酒類・豆腐・納豆・麺類・そうざい・冷凍食品・漬物・密封包装食品・食品の小分け・添加物
食品衛生法に基づく営業許可の対象業種は、上記のとおりです。販売業に含まれる「食肉販売」と「魚介類販売」は、容器包装された状態で販売する場合、営業許可は必要なく、届出のみで営業が可能です。また、令和3年6月に導入された「営業届出制度」により、これまで許可の対象外であった業種も届出が必要となりました。詳細については、厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
食品衛生法に基づく営業許可の取得手順
- 保健所での事前相談
- 営業許可の申請
- 施設検査
- 営業許可書の交付
- 営業開始
食品衛生法に基づく営業許可を取得するための手順は、主に上記の5つです。事前相談では、事業施設の図面資料の持参が求められます。
施設検査は特に重要で、指定された「共通基準」および「特定基準」を満たしていない場合、許可が得られません。共通基準はすべての業種に共通するもので、施設の構造や食品取扱設備、汚物処理などが含まれます。一方、特定基準は業種ごとに決められたものです。たとえば、魚介類競り売り営業の場合は作業工程に必要な区画が設けられていることや、商品を保存する冷蔵庫などの衛生管理、海水の殺菌設備といった基準が定められています。
無許可で営業を行った場合は、営業停止や2年以下の懲役、200万円以下の罰金といった厳しい罰則が科される可能性があります。罰則を受けると、執行されてから2年間は営業許可が取れなくなる点にも注意が必要です。
営業許可が下りたら、営業許可書交付予定日のお知らせと認印を持参し、保健所で交付を受けます。その後、正式に営業開始できます。
食品衛生法に基づく営業許可の取得に必要な書類
- 営業許可申請書
- 営業設備の大要・配置図
- 許可申請手数料
- 登記事項証明書(法人の場合)
- 水質検査成績書
- 食品衛生責任者の資格を証明するもの(食品衛生責任者手帳)
営業許可申請書はインターネット上からダウンロードすることができ、法人の場合は申請書に法人番号を記載しておくことで登記事項証明書は不要となります。許可申請手数料は、臨時の飲食店営業で9,300円、複合型そうざい製造業などの場合は35,200円など、業種によって異なる額が設定されています。記載内容に誤りがないかを確認したうえで、施設の完成予定日から10日前までを目安に提出しましょう。
また、保健所の窓口へ書類を提出する以外にも、厚生労働省のウェブサイト上に公開されている「食品衛生申請等システム」からオンラインで営業許可を申請することもできます。
ネットで食品販売するのに必要な資格

食品衛生責任者
食品のネット販売を行う際、営業届出の対象外となる「常温で長期保存が可能な包装食品の販売」以外の業種では基本的に、少なくとも1名は食品衛生責任者の資格を有する人を配置しなければなりません。食品衛生責任者の主な職務内容は、食品の取り扱いに関わる衛生管理、従業員に対する衛生教育の実施、必要な改善措置の提案、保健所による講習会への参加などです。
なお、後述する食品衛生管理者の資格があれば、食品衛生責任者の資格は不要です。
食品衛生責任者の取得手順
食品衛生責任者を取得するには、都道府県が主催する養成講習会に参加して、所定の試験に合格する必要があります。講習の実施方法には対面とeラーニングの形式があり、どちらを選んでも6時間ほどで完了します。試験の難易度はあまり高くないため、きちんと学習していれば問題なく合格できるでしょう。
参加にあたって特別な学歴や職歴の要件はなく、高校生を除いた17歳以上なら誰でも受験可能です。受講料(10,000~12,000円)や講習時間、申し込み方法は各都道府県によって異なるため、事前に関連ウェブサイトで確認しましょう。なお、すでに栄養士や調理師などの関連資格を持っている場合は、講習を受けることなく食品衛生責任者としての資格が認められます。
食品衛生管理者
食品衛生管理者は、食品の製造や加工を行う工場などで、衛生管理を監督する人材です。食品や添加物の製造、加工を行う場合は、1名以上の食品衛生管理者の配置が義務付けられています。
食品衛生管理者の配置が求められる食品は、以下のとおりです。
- 全粉乳
- 加糖粉乳
- 調製粉乳
- 食肉製品
- 魚肉ハム
- 魚肉ソーセージ
- 放射線照射食品
- 食用油脂
- マーガリン
- ショートニング
- 添加物
食品衛生管理者を任命した事業者は、配置したことを都道府県の保健所へ15日以内に届け出る必要があります。
食品衛生管理者の取得手順
食品衛生管理者の資格を取得するには、都道府県が認定した「食品衛生管理者登録講習会」を修了する必要があります。講習会を受講するには、以下の受講資格が必要です。
- 学校教育法に基づく高等学校または中等教育学校を卒業した者、もしくは同等以上の学力があると認められる者
- 食肉製品や添加物の製造・加工における衛生管理業務に2年以上従事している者
ただし、最終的に食品衛生管理者の資格を取得するには、食品衛生管理者登録講習会の修了に加えて、食肉製品や添加物の製造業において衛生管理業務の3年以上の経験が必要です。2年以上3年未満で講習会を受講した場合、3年の経験を満了するまでは資格取得できないので注意しましょう。
講習会の具体的な日程や受講料は開催団体ごとに異なるため、都道府県の公式サイトや関連団体の公告を確認してください。
なお、以下のいずれかの要件に該当する場合も必要書類を提出すれば、食品衛生管理者になることができます。
- 医師、歯科医師、薬剤師、獣医師の免許保持者
- 医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学の課程を修めて大学を卒業した者
- 特定の食品衛生管理者養成施設で所定の課程を修了した者
食品衛生責任者と食品衛生管理者の違い
食品衛生責任者と食品衛生管理者は、設置が義務づけられる施設の種類が異なります。食品衛生管理者は、乳製品や食肉製品、添加物といった特定の食品を取り扱う製造工場などで必ず1名以上が常駐する必要があります。一方、食品衛生責任者は、一般的な食品の販売店や製造施設、飲食店などに配置されます。食品衛生管理者のほうが取得条件の厳しい国家資格であり、より厳密な衛生管理を行う上位職といえるでしょう。
ネットで食品販売するまでの8つのステップ

1. ビジネスモデルを決定する
食品をネット販売するには、主に2つのビジネスモデルが考えられます。一つは自ら食品を製造し、消費者に直接販売するDtoCのビジネスモデルです。ハンドメイドビジネスの場合は自宅での生産のほか、商業施設の利用や製造業者との協力が必要になる場合もあります。自宅で調理して販売する場合は、異物混入を防ぐために日頃から使用しているキッチンとは別で専用の設備を準備する必要があります。
もう一つは、食品を仕入れて販売する方法です。取り扱う食品によっては営業許可が不要なため、初心者でも比較的始めやすい事業といえます。ドロップシッピングを活用すれば、在庫を持たずに販売することも可能です。
どちらのモデルを選択するかは、参入する市場や資金、運営の複雑さを考慮して決定するとよいでしょう。
2. 資格・許可・法律を調べて必要な対応を取る
ネットで食品販売する際、法律や規制の知識が不可欠です。まずは資格について調べ、食品衛生責任者や食品衛生管理者といった必要な資格を取得しましょう。資格がなければ、販売に欠かせない営業許可を取得することができません。
資格を取得したら、管轄の保健所にて営業許可の申請を行います。申請時に複数の書類を提出する必要があるため、管轄の地方自治体や厚生労働省の公式サイトで確認しましょう。
また、許可が下りた後も法律に従って営業を続ける必要があります。食品衛生法や食品表示法、景品表示法、計量法など、販売する食品の種類に応じた法律について調べて、遵守しましょう。
必要な許可や資格の取得方法や規定について不明点があれば、地方自治体や保健所に確認しましょう。法的な要件が複雑である場合は、弁護士に相談するのも一つの手です。
3. 供給者のライセンスや認証を調査する
ネットで販売する商品の製造に取り入れたい食材や売りたい食品を見つけたら、メーカーやサプライヤーといった供給者に必要な認証や資格があるかどうかを確認します。たとえば、オーガニック商品を取り扱う場合は、供給者が正式なオーガニック認証を持っているかどうかを調査しましょう。
4. ブランド構築に注力する
オンラインで食品を販売する場合、ユーザーに試食してもらえないため、ブランドのイメージ作りが重要となります。ブランドの魅力を伝えるには、販売サイトの商品説明欄やキャッチコピーなどを工夫するとよいでしょう。食品が美味しそうにみえるパッケージデザインや写真など、視覚的な要素にこだわりを持てば、商品をさらに魅力的にみせることができます。必要に応じて、デザイナーへの依頼も検討しましょう。
5. 食品の販売価格を決定する
利益を伸ばすためには、食品の販売価格を適切に設定することが求められます。販売価格を設定するにあたって、最初に商品の原価率を計算しましょう。原価には、原材料費や人件費、製造費が含まれます。原価率は、売り上げに対する原価の割合を指す指標で「原価÷売り上げ×100」で計算できます。たとえば、売り上げが500万円で原価が150万円なら、原価率は30%です。
原価率が高いほど、得られる利益は少なくなります。原価率を踏まえて、事業者の利益を確保でき、ユーザーが購入しやすい価格に設定するのがポイントです。しかし、一度で適切な価格を決定するのは困難なため、販売しながら価格を調整するとよいでしょう。
6. 賞味期限を考慮して仕入れ量を決定する
食品を仕入れる際は、賞味期限を考慮する必要があります。特に賞味期限が短い商品を扱う場合は仕入れすぎると売れ残り、最終的に廃棄せざるを得なくなります。新鮮な状態で商品を提供できるように、仕入れ量を慎重に管理しましょう。
適切な仕入れ量を考えるためには、過去の販売データを分析し、需要を予測する手法が効果的です。事業を始めたばかりの時期は、仕入れ量を抑えるのもよいでしょう。食品を自分で製造する場合は、仕入れた材料が賞味期限内に使い切れる量を見積もり、計画的に使用する必要があります。
7. 配送の規定や制限を調べて適切な方法を決定する
ネット食品販売では、食品の配送も大切な要素です。特に国際輸送の場合は、出荷する食品が発送先の国の法律や特定の規制、制限に適合しているかどうかを確認する必要があります。
商品が破損しないように、適切な梱包材を選ぶことも欠かせません。壊れやすい商品や特殊な保護が必要な商品の場合は、梱包コストが大きくなる可能性があります。そのような事態も考慮に入れて、配送料を設定しましょう。
適切な梱包を考えるのが面倒な場合は、フルフィルメントサービスを利用することをおすすめします。フルフィルメントサービスは、商品の梱包や配送といった物流業務を第三者が代行するサービスです。商品の特性上、配送が難しい場合はローカルデリバリーや店舗での受け取りなどの代替案を提供するとよいでしょう。
8. 販路を決定する
自社ECサイトの利用のほか、フリマアプリやマーケットプレイスへの出品が販路として挙げられます。自社ECサイトはマーケティングに力を入れなければユーザーへのリーチが限られる可能性はあるものの、ブランドや顧客を管理しやすいという大きなメリットがあります。必要に応じて、ほかの販売チャネルとの併用も視野に入れるとよいでしょう。
たとえば、メルカリやラクマといったアプリを活用すれば、販売手数料は発生しますが初期投資を抑えて事業を始められます。一方、Amazon(アマゾン)や食べチョクなどのマーケットプレイスでは、すぐに商品を販売開始できますが、競争が激しく、価格圧力に晒される可能性があります。
それぞれの販路の特徴を理解して、自社のビジネスモデルや商品特性に合った方法を選びましょう。
ネットで食品販売する際に注意するべきこと

衛生管理
ネットで食品を販売する際、衛生管理には特に注意が必要です。衛生管理を怠ると、商品を食べた消費者の健康に悪影響を及ぼす危険性があります。
たとえば、温度や湿度が不適切だと食中毒のリスクが高まるため、食品を長時間保管または配送する場合は適切な温度管理が求められます。調理工程では、器具の洗浄・消毒や手洗いの徹底、使用用途に応じた器具の使い分けが重要です。衛生管理にあたって不明点があれば、保健所に相談しましょう。
法律や条例の順守
ネットショップで食品を販売する際には、法律や条例の遵守が不可欠です。定められた規定の違反があった場合、営業できなくなることも考えられます。ネットで食品販売をするにあたって、以下の法律と条例についての理解を深めておきましょう。
食品表示法
インターネットで食品を販売する場合は食品表示法に従って、商品に食品表示ラベルの添付が義務付けられています。
表示項目の例は、以下のとおりです。
- 名称
- 原材料名
- 添加物
- 内容量
- 賞味期限または消費期限
- 保存方法
- 原産国名
- 輸入者
- 栄養成分
- アレルギー
食品表示法に違反すると、3年以下の懲役または300万円以下の罰金などの重い罰則が課される場合があります。
景品表示法
景品表示法は消費者の利益を保護するために、商品やサービスの誤解を招く表示を規制する法律です。景品表示法の目的は、商品の品質や価格、取引条件などが実際より優れているかのように誤認させる表示(優良誤認表示や有利誤認表示)を禁止することにあります。そのほかの誤解を招く可能性のある表示も規制対象です。
違反すると措置命令が課せられ、それでも改善が見られない場合は、2年以下の懲役や300万円以下の罰金が科される可能性があります。
計量法
計量法は消費者保護を目的とした法律で、食品取引において正確な計量を保証するためのものです。商品の表記量と実際の量の間に許容される誤差を定めており、表示量が多くても少なくても誤差の範囲外であれば違反とされます。精米や粉類など特定の29種類の商品については、内容量の正確な表示が強く求められているため、該当する食品を取り扱う場合は注意が必要です。
計量法に違反すると、最大で6ヶ月の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
健康増進法
健康増進法は食品に関する虚偽や誇大な広告を禁止し、消費者の誤解を防ぐための法律です。たとえば「食べると病気が治る」といった誤解を招く表現は、処罰の対象となります。
違反した場合は、厚生労働省は勧告や措置命令の対象となり、従わなかった場合には6ヶ月以下の懲役、または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
米トレーサビリティ法
米トレーサビリティ法は、米を含む製品の流通経路の明確化を義務付ける法律です。米の産地情報や取引の記録を、生産から販売・提供に至るまで詳細に保存しなければなりません。対象となるのは、米や加工品を取り扱うすべての事業者です。
法律に違反した場合は、50万円以下の罰金が課される可能性があります。
条例
国の法律に加えて、地域ごとに設けられている食品表示に関する条例も遵守する必要があります。たとえば東京都では、特定の食品に対して独自の表示基準が定められています。具体的には、調理冷凍食品の原材料配合割合と原料原産地名、かまぼこ類のでん粉含有率と原材料配合割合、はちみつ類の品名と原材料の割合や重量、カット野菜やフルーツの加工年月日などです。
条例を遵守しなければ是正指導や勧告の対象となり、それでも従わなかった場合は製造者情報が公表されます。
まとめ
食品のネット販売を始める際は、営業許可や食品衛生責任者などの取得・確保が重要です。加えて、食品衛生法や食品表示法、景品表示法などの遵守も求められます。違反すると営業停止や罰金の対象となる可能性があるため、販売前に自治体や保健所で必要な許可やルールを確認し、必要に応じて弁護士などに助言を求めましょう。
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よくある質問
冷凍食品をネット販売するには許可が必要?
製造せずに既製の冷凍食品を仕入れて販売するだけの場合、許可は不要です。しかし、冷凍・冷蔵倉庫業の届出が必要となります。
一方、冷凍食品を製造してネット販売する場合は、冷凍食品製造業の営業許可が必要です。冷凍食品のほかにも食品を製造する場合は、複合型冷凍食品製造業の営業許可も求められます。
ネットで食品を売るときの消費税は?
ネットで食品を売る際の消費税率は、軽減税率が適用されるため8%です。
野菜をネット販売するやり方は?
- ネットショップを立ち上げる
- オンラインモールを利用する
- 産直販売のプラットフォームを利用する
- フリマアプリで販売する
文:Yukihiro Kawata