コーヒーを毎日飲む人は4人に3人と言われており、そのうち約75%が自宅でコーヒーを楽しんでいます。こうした背景から、コーヒー豆のネット販売は非常に魅力的なビジネスチャンスと言えるでしょう。
しかし、コーヒー豆販売のような食品のネット販売では、必要な許可や資格、食品表示など、押さえておくべきポイントがあります。
本記事では、副業としてコーヒー豆のネット販売を始めたい人や、ECサイトを通じて本格的にビジネスを展開したい人に向けて、コーヒー豆販売に必要な許可の取得方法や販売開始までのステップ、成功のコツをわかりやすく紹介します。ぜひ参考にしてください。
コーヒー豆販売に必要な許可

2021年6月以降、コーヒー豆を販売するには営業届の提出が必須となっています。コーヒー豆の自家焙煎や粉砕販売を行う場合は、管轄の保健所へ届出を行わなければならず、未提出の場合は50万円以下の罰金が科される恐れがあります。
また、カフェ営業を併せてコーヒー豆販売を行う場合は、別途営業許可証も必要です。
申請は厚生労働省の「食品衛生申請等システム」からオンラインで可能です。
申請のポイントは以下の通りです。
- 屋号・営業所住所・メールアドレスなどを準備
- 食品衛生管理者資格(1年以内取得予定でも可)を用意
- 食品衛生システムでアカウントを作成し、「営業の届出」から必要事項を入力。主として取り扱う食品または添加物として「コーヒー豆」「ばいせんコーヒー豆」を選択し、コーヒー製造・加工業の新規届出として登録
さらに、販売時には品名・原材料・内容量・賞味期限・保存方法など、食品衛生法に基づく表示が求められます。届出後も、衛生管理や適切な表示を徹底し、安全で信頼される販売を心がけましょう。
コーヒー豆のネット販売の始め方:6つの手順

1. 焙煎豆を仕入れるか自家焙煎を行うか決める
コーヒービジネスを始める際、まず決めるべきなのは販売スタイルです。焙煎豆を仕入れて販売するのか、自家焙煎した豆を販売するのかを決めましょう。
焙煎豆を仕入れる
焙煎済みの豆を仕入れる方法は、焙煎の手間が不要で販売を効率よく始められるのが魅力です。コーヒーの卸売業者から仕入れて販売する方法や、ドロップシッピングを活用する方法があります。
- メリット:焙煎の設備などが不要で、販売工程が単純。ドロップシッピングの場合は在庫管理も不要
- デメリット:販売できる商品の自由度が低く、品質のコントロールができない。差別化がしにくい
- おすすめな人:コーヒー豆そのものでなく、マーケティングやブランディングに力を注ぎたい人
- 向いていない人:焙煎の経験が豊富な人やカフェの経営者。あるいは豆や焙煎具合にこだわりたい人
自家焙煎を行う
自家焙煎は味や個性を追求できるため、こだわりを持って商品作りをしたい人に適している販売方法と言えるでしょう。
- メリット:販売できる商品の自由度が高く、他店との差別化が可能
- デメリット:設備や在庫管理の費用がかかる。作業量と作業時間も多い
- おすすめな人:焙煎技術を学ぶ意欲があり、そのための時間がある、またはフォローしてくれるスタッフがいる人
- 向いていない人:ビジネスにかけられる時間や、リソースが限られている、またはマーケティングやビジネス運営のほうに関心がある人
2. 仕入先を見つける
焙煎豆を仕入れるか自家焙煎するかを決めたら、そのコーヒー豆を提供してくれる仕入先を見つけましょう。豆の質はブランドへの評価に直結するため、仕入先選びは非常に重要となります
仕入先探しのポイントは以下の3つです。
- 商品の品質:まずはサンプルを取り寄せるか、少量を注文して味や香りを確認しましょう。求める品質に合っているかどうかを見極めることが大切です。経験豊富な焙煎士がいるか、製品の強みについても明確に説明してくれるかも確認しましょう。
- カスタマーサービス:仕入先が豆の特徴や風味、人気の客層などを丁寧に教えてくれるかも大切なチェックポイントです。商品に関する情報をしっかりと提供してくれる仕入先を選べば、仕入れ後の疑問やトラブルにもうまく対応でき、顧客の信頼獲得やサービス向上にもつながります。
- 価格:仕入れ価格が高すぎると、コーヒー豆の販売価格とのバランスが取れず、利益率が下がります。ターゲット顧客に合った価格設定ができるよう無理のない仕入先を選びましょう。
3. ターゲットとなるニッチ市場を見つける
個人でコーヒー豆を販売する場合、安価な商品を求める一般層ではなく、こだわりのコーヒーを求める層というニッチ市場に目を向けるのがいいでしょう。そのためには、自社の強みや理想の顧客像を明確にし、販売戦略を練る必要があります。
ニッチ市場を見つけ販売戦略を練る際に考えるべき主なポイントには以下のようなものがあります。
- 顧客はどのような人か:フェアトレードのコーヒー豆を自宅で挽いて淹れるのか、さまざまなフレーバーを手軽に楽しみたいのか、など
- 顧客のニーズや課題は何か:カフェインレスのスペシャルティコーヒー豆を探している、産地などに詳しくないが特定のフレーバーのコーヒー豆を購入したい、など
- 自社でその課題をどう解決できるか:カフェインレスコーヒー豆専門店にする、簡単に好みに合ったコーヒー豆が見つけられるサイト構成にする、など
Google検索やキーワード検索などでニッチ市場の需要や競合状況を調査することも大切です。SNSや業界の掲示板なども活用し、市場やターゲットの需要や課題を調べましょう。
コーヒー豆のサブスクリプションやスペシャルティコーヒー豆の専門店など、アイデアを数多く出し、あとで絞り込むこともできます。完璧なアイデアを追い求めるのではなく、実行可能で効果的なものを選びましょう。
見つけたアイデアは、SNSで反応を確認したり、少数の顧客を対象にキャンペーンを行ってフィードバックを集めたりすることで、販売につながるニッチ市場を見つけ出し、効率的にコーヒー豆販売を始めることができます。
4. 商品ラインナップを決める
ターゲットとするニッチ市場が決まったら、商品のラインナップを明確にしましょう。
どのような商品を扱うのかを先に決めることで、今後のブランド構築や販売戦略もスムーズに進めることができます。
販売する商品を決める際には、焙煎したコーヒー豆だけに限定せず、他の商品も組み合わせることで、ラインナップの多様化を図ることもできます。これにより、さまざまな顧客ニーズに対応できるようになり、リピーター獲得や安定した売り上げにつながります。
例えば、以下の商品を取り扱うのが良いでしょう。
- ケーキやクッキーなど、発送可能な焼き菓子
- キャンドルや芳香剤など、コーヒーの香りのする商品
- チョコレートやアイスクリームなど、コーヒー味の食べ物
- コーヒーマシン、ドリッパー、キャニスターなど、コーヒー関連の製品
- ハーブティーや、ホットチョコレートなど、コーヒー以外の飲み物
- コーヒーマグやボトルなどのオリジナル商品(その他のプリントオンデマンド商品も可。ただし、「コーヒーも売っている雑貨屋さん」にならないために販売する商品は限定する)
何を販売するかはブランディングの方針によって異なりますが、コーヒーブランドである以上、商品はコーヒー関連に絞るのが賢明です。あまりにも多くのジャンルの商品を扱うと、ブランドのコンセプトやビジョンが曖昧になり、結果としてブランドポジショニングが弱まってしまう恐れがあります。
5. ブランドの方向性を決める
コーヒーブランドは競合が非常に多いため、他社と差別化を図ることは欠かせません。特に、狙ったニッチ市場で顧客の心をつかめるかどうかが、ブランドの成否を大きく左右するポイントとなります。
ターゲットとするニッチ市場が決まったら、ブランドの方向性を明確にしましょう。方向性を具体化することで、マーケティング施策がぶれることなく、一貫したブランド作りが可能になります。
以下の項目を参考に、ブランドの方向付けをしていきましょう。
- ターゲット層を理解する:ブランドイメージは顧客層に合わせることが重要です。ターゲットがどんな価値観を持ち、何に共感するのかをよく理解しましょう。
- ブランドメッセージを考える:ターゲット層に対する解像度を上げたら、次はブランドイメージやブランドストーリーを作り上げていきましょう。顧客に響きそうな言葉や、ブランドを差別化できるような表現を考えます。どのような価値提案をするかも考えていきます。
- ブランド名を決める:ロゴやドメインなどにも関わるため慎重に決めましょう。決めにくい場合はビジネス名ジェネレーターやグループインタビューの活用も効果的です。
- ブランドカラーとフォントを選ぶ:ブランドカラーはマーケティングにおいて非常に重要で、顧客の印象を大きく左右するものとなります。わずかな色味の違いも印象に影響します。例えば、ネオンカラーの緑は遊び心があるイメージに、森を思わせるような深い緑は落ち着いたイメージになるため、色彩理論を活用して決めると良いでしょう。
- ブランドスローガンを書く:ブランドの魅力を一言で伝えるスローガンを作成します。スローガン自動生成ツールや競合の研究も参考になります。
- ロゴをデザインする:ロゴは、パッケージ、店舗やECサイトのトップページ、SNSのプロフィールなど、多くの場所で使用されるため、ブランド作りをするうえで非常に重要です。
6. ECサイトの構築やECモールへの出店を行う
コーヒー豆をオンラインで販売する方法には、ECサイトかECモールがあります。
ここでは、簡単に本格的なネットショップを開設できるShopify(ショッピファイ)を使ったECサイトの構築方法を紹介します。
- Shopifyの無料トライアルを開始する:Shopifyの無料トライアルを開始し、オンラインストアの設定を行います。
- テーマを選択する:Shopifyテーマストアで、自分のブランドに合うテーマ(ECサイトのテンプレート)を選択します。テーマはアプリを追加したり、カラーやフォントを変更したりしてカスタマイズすることも可能です。
- トップページや固定ページを作成する:最初に表示されるトップページを作成したあと、配送ポリシーや返品ポリシー、お問い合わせページなどの固定ページを作成します。
- 商品ページの作成とグループ分け(コレクション作成)を行う:販売する商品の写真を撮影し、商品説明を書いて商品ページを作成します。その後、同じ条件のコーヒー豆をグループ分けしてコレクションにまとめます。こうすることで、顧客が自分の欲しいコーヒー豆を見つけやすくなります。
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配送オプションを設定する:利益を確保できる送料を算出し、Shopifyで配送対象とするエリアを決め、送料設定を行います。
自家焙煎で鮮度にこだわる場合は、配送にかかる日数も考慮して配送エリアを設定するようにしましょう。また、Shopifyのローカルデリバリーを利用して、指定区域内の顧客に配送業者を介さずに直接商品を届けたり、店舗での受け渡しを可能にしたりすることも可能です。 - 決済オプションを設定する:顧客が希望する決済手段が利用できるよう、Shopifyペイメントやサードパーティ決済を設定します。
- ショップのオープンを告知する:ECストアの準備が完了したら、SNSや有料広告、Googleビジネスプロフィールなどでショップのオープンを知らせましょう。
コーヒー豆販売に必要な表示

コーヒー豆を販売する際には食品表示法を守る義務があり、原材料や保存方法、消費期限などを表示する必要があります。食品表示法が定める食品の表示項目の例は以下の通りです。
【表示項目(必須)】
- 名称:「レギュラーコーヒー」など
- 原材料名:「コーヒー豆」
- 生豆生産国:豆の原産国を明記。ブレンド時は多い順または「他」と記載可
- 内容量:「100g」など袋の重さを除いた量
- 賞味期限:焙煎日から約1〜2か月が目安
- 保存方法:「直射日光・高温多湿を避けて保存」など
- 使用上の注意:「開封後は早めにお召し上がりください」など
- 製造者氏名および住所:販売者の名前または屋号と営業届出済みの住所
【必要に応じて表示】
- 原料原産地名:生豆の詳細な原産地
- 原産国名:加工を含めた最終的な国
- 添加物:使用している場合のみ記載
- 栄養成分表示:健康増進法等の対象となる場合
- アレルギー表示:該当する場合
- 遺伝子組換え表示:該当する場合
特に生豆生産国や賞味期限などはロットや販売時期ごとに異なるため、ラベル作成時に空欄を用意し記入する方法もおすすめです。
コーヒー豆販売ビジネスを成功させるコツ4つ

1. マーケティング戦略の構築
オンラインでのコーヒー豆販売では、マーケティング戦略がビジネスの成功を大きく左右します。
ターゲット顧客に人気のSNSや、どのようなコンテンツを求めているのかを調べましょう。
顧客の多くが既にメルマガ会員であったりSNSのフォロワーであったりするのであれば、メールマーケティングやSNSでのハッシュタグキャンペーンなどUGCを獲得できる施策を行うと良いでしょう。
開店したばかりであれば、SNSマーケティングを行ってブランド認知度を高めるのが効果的です。また、検索エンジンの検索結果ページに表示されるように、検索エンジン最適化(SEO対策)も行う必要があります。SEO対策は、コンテンツマーケティングに有効で、ブランド認知度の向上に役立ちます。
2. ブランドの差別化
類似商品が多い市場で埋もれないためには、環境に配慮したパッケージや、フェアトレード認証の取得など、明確な差別化ポイントも必要です。顧客が「なぜこのブランドを選ぶのか」に答えられる強みを作ることが大切です。
また、商品ラインナップを工夫することでも差別化することができます。ドリップポットやフレンチプレスなどの抽出キットやコーヒーフレーバーの食品、ブランドオリジナルのマグカップやエコバッグなどを販売したり、購入すると寄付ができる仕組みを作ったりすることで他店と差別化できます。
3. ストーリーテリングの活用
創業の背景やコーヒー豆農園とのつながり、焙煎へのこだわりなどストーリーテリングをすることで、ただの商品ではなく物語としてブランドに価値を与えましょう。これは価格競争を回避し、ファンを育てる有効な手段となります。
ECサイトにAboutページを作って写真と文章で伝えたり、動画を制作してYouTubeやInstagramなどで公開したりしましょう。
4. 集客と販売チャネルの工夫
集客力を上げるには、SNSやSEO、メールマーケティングなどを組み合わせ、短期的な販促だけでなく中長期的な認知拡大やリピート顧客の獲得を目指す仕組み作りも必要です。ロイヤリティプログラムの導入やリファラルマーケティングなども検討してみましょう。既存顧客からのレビューを参考に、販売チャネルを増やすのも良いかもしれません。
プラットフォームごとに顧客の行動を分析し、改善を繰り返すことで販売効率は大きく高まるでしょう。Shopifyで構築したECサイトであれば、レポート分析を利用して顧客の行動や改善点を把握することができます。
コーヒー豆販売は儲かる?

適切なマーケティング戦略を導き出し、ブランド力を強めていけば、コーヒービジネスは大きく儲かる可能性があります。コーヒーは手に入りやすく業界には競合も多いですが、その商品を求めている顧客が多いことの裏返しであるため、販売がしやすいということです。そのため、コーヒー豆販売は、うまくブランディングを行うことでビジネスとして成立しやすいと言えるでしょう。
コーヒー豆販売のメリットは以下の通りです。
- ターゲット人口が広い:コーヒーは国内外問わず多く飲まれている飲み物であるため、幅広い消費者層が存在します。既存のブランドに満足していない顧客や、新しい味を求める顧客にアプローチすることが可能です。
- 小規模ブランドが強みを活かせる:コーヒー好きの人たちは、個性的なアプローチに魅力を感じやすい傾向にあるため、コーヒー豆販売は小規模ブランドが強みを活かしやすいと言えます。大きなブランドの方が品質もサービスも良いと考えられがちですが、コーヒーのようなコモディティ商品(先物取引市場で取引されている汎用品)の場合、この傾向は当てはまりません。
- ニッチな需要がある:コーヒービジネスはブランディングが鍵となることから、特定の狭い顧客層をターゲットとするようなニッチな商品も工夫次第で販売数を伸ばしやすい傾向にあります。
まとめ
個人によるコーヒービジネスは年々多様化しており、適切なマーケティング戦略とちょっとした工夫次第で、趣味を収益化することも十分可能です。自家焙煎したコーヒー豆を販売する場合は、営業届の提出が必要となり、食品衛生責任者の選任や、食品表示法に基づく原材料・消費期限などの適切な表示も求められるため、コーヒー豆販売に必要な許可や認可を正しく理解してビジネスを始めましょう。
Shopifyを利用すれば、手軽に本格的なECサイトを構築して趣味で起業することも可能です。コーヒー豆販売に挑戦したい人は、本記事を参考に、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
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よくある質問
コーヒー豆焙煎販売は利益がでる?
コーヒー豆焙煎販売は利益がでる可能性があるビジネスです。コーヒー豆販売の利益率は60~80%とされており、オンライン販売やサブスクリプション、実店舗での販売なども行えば、安定した売り上げが見込めます。
コーヒー豆をネット販売する始め方は?
販売するコーヒー豆を準備し、ブランドの方向性を定めたら、ターゲットとするニッチ市場向けにECサイトを構築したりECモールに出店したりすることで、コーヒー豆のネット販売を開始できます。
コーヒー豆を販売するのに資格は必要?
コーヒー豆を販売する際に必要な資格は特にありません。しかし、コーヒー豆を販売する場合は、営業許可の取得や食品表示法が定める内容をパッケージに表示する義務があります。名称、消費期限または賞味期限、保存方法、原材料名などを記載しなければいけません。
文:Takumi Kitajima