AdvisorSmith社の調査では、中小企業の22%が起業から1年以内に、32%が2年以内に、40%が3年以内に倒産するという結果が出ています。起業してみたものの、赤字経営が続き、不安とストレスに押しつぶされそうで、なすすべがないと感じている経営者も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、赤字経営から脱却し、黒字回復を目指す方法を9つのステップにまとめました。
赤字経営を立て直すための9つのステップ
1. しなやかなマインドセットをもつ
一朝一夕で、赤字から黒字へ転換することはできませんが、自分自身の考え方を見直すことはすぐにできます。スタンフォード大学心理学教授キャロル・S・ドゥエックは、著書『「やればできる!」の研究(原題: “Mindset”)』の中で、目標を達成するためには成長型の「しなやかなマインドセット(Growth Mindset)」が必要であると提唱しました。
「しなやかなマインドセット」とは、簡単に言うと、自分は成長できると信じ、やってみようと考える心の在り方のことです。反対は、「硬直マインドセット(Fixed Mindset)」です。自分の能力は最初から決まっていると思い込み、現状を保とうとする心の在り方です。
マインドセットなんて眉唾だ、と思う人もいるかもしれませんが、マインドセットによって最終的なパフォーマンスに大きな差が出ることは、脳科学の分野でも証明されています。
「しなやかなマインドセット」の持ち主は、新しい課題にも進んで取り組みますが、「硬直マインドセット」の持ち主は、失敗を恐れて同じことを繰り返します。あなたも無意識のうちに「硬直マインドセット」になってしまってはいないでしょうか。
「しなやかなマインドセット」を育むために、次のポイントを意識しましょう。
- 失敗から学ぶ:失敗からは多くの学びを得ることができます。あなたのビジネスで何が起きたのかを冷静に見つめ、次はどうしたらいいのかを考えましょう。
- 柔軟にかまえる:何もかもが計画通りに進むことは、ほとんどありません。想定外のことにも臨機応変に対応できるようにしましょう。
- 楽しむ:自分のための時間をつくりましょう。身を粉にして一生懸命働くことはできますが、心も体もボロボロになり、やめたくなってしまっては元も子もありません。
アントレプレナーにはポジティブシンキングが重要です。しなやかなマインドセットを身につけて、困難を乗り越えましょう。
現状を把握する
客観的にあなたのビジネスを分析して、現状を把握しましょう。
ビジネスモデルの分析や経営戦略のための、さまざまなフレームワークがあります。まだ利用したことがない場合は、フレームワークを活用した分析を試してみましょう。
よく知られているビジネス分析のフレームワークには、次のようなものがあります。
SWOT分析
SWOT分析では、自社の外部環境と内部環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の観点から分析します。強みと弱みは自社でコントロールすることができる内部要因であり、機会と脅威は通常、自社ではコントロールできない外部要因です。SWOT分析を通じて、内部要因と外部要因を多角的に見つめ直すことができます。
3C分析
3C分析では、Customer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)をそれぞれ分析します。内部と外部の両面から分析するという点でSWOT分析に似ていますが、3C分析は、自分たちの強みと弱みの分析により重点を置いているのが特徴です。
4P分析
4P分析では、Product(商品・製品)、Price(価格)、Place(立地・流通)、Promotion(広報・宣伝)を分析します。製品やサービスの販売促進を目指すときに有効です。
PEST分析
PEST分析では、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会環境)、Technology(技術)の4つの要素を分析します。自社ではコントロールできない外部環境が自社に与える影響に特化した分析です。市場調査や、将来の予測に役立ちます。
分析のためのフレームワークを活用して、あなたのビジネスモデルと現状を客観的に把握しましょう。
3. ターゲットを特定して、ペルソナを設定する
現状把握の延長として、ターゲットを特定しましょう。ターゲットは、マーケティングや広告活動の対象となる人のグループのことです。ターゲットを特定することで、新規顧客を開拓しやすくなり、より質の高い見込み客をウェブサイトに呼び込むことができます。
あなたの商品を買ってくれるのは、どんな人でしょうか?既存の顧客のプロフィールを分析して、どういった層の人が買ってくれているのかをまとめてみましょう。競合分析を行い、競合他社の顧客について知ることも重要です。
ターゲットの特定に加えて、ペルソナの設定も効果的です。ペルソナとは、架空のユーザー像です。ターゲットがユーザーを層でとらえるのに対して、ペルソナはユーザーを個人としてとらえます。市場調査や顧客のデータに基づいて、性別、年代、職業、収入、居住地や家族構成、性格まで細かく設定し、架空のユーザーを作りあげましょう。リアリティを持ってユーザーのライフスタイルを想像できるようになり、具体的な対策を打ちやすくなります。
4. 財務状況を把握する
一口に赤字といっても、収入が少なすぎるのか、支出が多すぎるのか、その両方なのかで、対処方法は異なります。赤字を黒字に転換させるには、収入と支出を見直し、キャッシュフローを確認し、財務状況を正確に把握する必要があります。業種にもよりますが、現状をタイムリーに把握するには、月単位ではなく、週単位で財務状況を確認してもよいかもしれません。
次のような状態になってしまっていないでしょうか。
- 自転車操業になっている
- 予算を確保できていない
- 予期せぬ支出が続いている
- 負債が多すぎる
- 税務にしっかりと対応できていない
- プライベートと事業の支出が混在している
- 財務レポートの見落としや報告漏れがある
財務状況を把握し、どんな問題が起きているのかがわかれば、一つひとつ改善していくことができます。収入が足りていないのであれば、収入を増やすために単価をあげる、顧客を増やす、市場を開拓するなど、収入を増やすための対策が考えられます。反対に、支出が多いのであれば、何にお金がかかりすぎているのか、節約できる部分はないか、などを検討してみましょう。
5. 価格設定を見直す
現在の価格設定が適切かどうかを見直しましょう。
商品やサービスが提供する価値に対して、価格が高すぎる場合、購入者の数は減ります。反対に、提供される価値に対して価格が安ければ購入者の数は増えますが、価格を下げすぎると、会社経営に深刻な影響が及びかねません。
適切な価格改定には、次の情報が手がかりになります。
原価と経費
製品の原価と経費を正確に把握することができれば、十分な利益を出せる販売価格が計算できます。Shopifyの利益率計算機を使えば、商品の総費用と期待する利益率を入力するだけで、販売価格を簡単に計算することができます。
市場価格
市場にある程度の競争相手が存在する場合、競合製品の価格調査は必須です。製品が差別化されていない場合、競合製品の価格より高いと売れません。また、社会情勢によって市場の動向は変わり、需要と供給のバランスも変化します。適切な市場価格の範囲内で価格を設定したら、利益が出るように原価を調整しましょう。
商品のライフサイクル
商品を売り出したばかりの導入期、販売を伸ばす成長期、普及して競争が激化する成熟期、他の新製品が出てきて売上が下がる衰退期というように、商品にもライフサイクルがあります。たとえば、売り出し始めは多くの人に浸透させるために価格を下げるなど、商品が今どの段階にあるかも意識して、価格設定を行いましょう。
6. 資金を調達する
ビジネスプランにおいて、キャッシュフローが回っていない場合は、事業計画書を作成し、外部から資金を調達するという選択肢もあります。
資金の調達方法には次のようなものがあります。
補助金・助成金
各都道府県、地方自治体、公共団体ごとに、さまざまな補助金や助成金、支援制度などが用意されています。利用できる制度がないかどうかを調べてみましょう。
銀行融資
日本を拠点に事業を行っている場合は、日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性があります。複数の制度が用意されているので、あなたの事業に適したものがあるかどうか、チェックしてみましょう。外的要因により一時的に業績が悪化してしまった場合は、条件に当てはまれば、セーフティネットとして資金を補填してくれる制度もあります。
また、民間銀行も、保証付き融資やプロパー融資、不動産担保融資など、さまざまな形で融資を行なっています。
ビジネスローン
ビジネスローンは、通常の銀行融資よりも金利は高いですが、保証人や担保なしで、スピーディーに借入を行うことができるのが特徴です。
ファクタリング
ファクタリングとは、売掛債権、つまり請求書や注文書等を期日前に買い取ってもらうサービスです。法的には、債権の売買にあたります。
7. 目標を設定して、行動する
何もかもうまくいかないと感じているときこそ、適切な目標を設定して、その目標に向かって行動することで、成果につなげることができます。目標設定と成功の間には強い関連性があるという研究結果も出ています。
大きな目標に辿り着くためのステップとして、小さな目標を細かく設定するのがおすすめです。たとえば「メールリストの登録者数」をKPIとし、200人の獲得を目標とする場合、次のように小さな目標を設定できます。
- 無料のメールマーケティングソフトに登録する
- メールリスト登録用のランディングページを作成する
- メールキャンペーンを作成する
- ウェブサイトやSNSでメールリストを宣伝する
小さな目標を達成するたびに自分をほめてあげ、着実に成果を積み重ねていきましょう。
8. ピボット(戦略変更)する
事業を見直した上で、ビジネスモデルの変更や、異なる業種への転換、ターゲット顧客の見直しといった、思い切った方向転換(ピボット)が必要になることもあるでしょう。
新型コロナの感染拡大により、ピボットを余儀なくされたものの、災い転じて成功につながった事例もあります。
iHeartRaves社は、もともと店舗で音楽イベントの参加者向けにファッションアイテムを販売していましたが、パンデミックによって音楽フェスが次々と中止されたことで、厳しい状況に追い込まれました。そこで、ピボットを決断しました。在宅中にも使用できるランジェリーやルームウェアなどの商品にマーケティング活動をシフトし、フェイスマスクの販売も開始して、パンデミックの危機を乗り切りました。
最初は苦境を乗り切るためのピボットだったとしても、そこで得たものが、ビジネスの幅を広げてくれることもあります。
9. リストラクチャリングを行う
リストラクチャリングとは、企業の改革や事業構造の再構築に取り組むことです。日本では「リストラ」という略称が人員削減を表す言葉として認識されていますが、本来「リストラクチャリング」は、組織の構造やビジネスモデルの改革全般を指します。
リストラクチャリングには次のような種類があります。
- 財務リストラクチャリング:資金調達の検討や、不要な資産の売却、経費や返済計画の見直しなど、財務によるキャッシュフローの改善を目指します。
- 業務リストラクチャリング:人件費の削減や業務の効率化、利益の増加を目指します。
- 事業リストラクチャリング:経営状況の悪い事業から撤退し、成長が見込める事業にリソースを集中させるなど、事業の整理によってリソースの最適化を目指します。
- M&Aによるリストラクチャリング:経営状況の悪い事業の売却などによって売却益を得て、成長が見込める事業に資金を集中させます。
リストラクチャリングは効果が期待できる反面、会社に混乱が発生する、従業員のモチベーションが下がるなどのリスクを伴います。コンサルティングファームや金融機関といった、外部の専門機関に協力を仰ぐのもよいでしょう。
まとめ
赤字から回復させて、あなたのビジネスを再び軌道に乗せるために、一度立ち止まり、9つのステップで見つめ直してみましょう。
続きを読む
- インスタグラムでフォロワーをもっと増やす! 12の方法をご紹介
- ネットショップで売れるものを探そう:利益が出る商品を見つけるための12の戦略【2022年版】
- 起業するには?起業するために必要なことから会社の立ち上げまで5つのステップ
- ハンドメイドアクセサリー・ジュエリー事業の始め方:製作から販売まで
- あなたのショップで売れる商品が見つかる! 自分で発送しなくてもOKな商品を探せる12のアプリ
- パーソナルトレーナーになるための資格とは? 在宅でも取得できる方法と働き方について分かりやすく解説!
- 初心者でもハンドメイド販売ができる10種類の商品アイデアをご紹介
- クラウドファンディングとは?やり方・仕組み・成功例を紹介
- 確定申告はいつまで? 期間、期限、申告内容、遅れる場合の対処法ほか【令和3年(2021年)分】
- 会社設立の疑問を今すぐ解決! 手順・書類・費用・補助金を紹介【簡単解説】
赤字経営の立て直しについてのよくある質問
赤字経営でも会社は潰れない?
赤字経営でも、会社がすぐに潰れるわけではありません。しかし、赤字経営は手持ちの資金が減っていることを意味します。資金が減り、事業が継続できなくなってしまうと、倒産することになります。
赤字経営のデメリットは?
赤字経営のデメリットには、融資が受けづらくなることや、取引先からの信用低下が考えられます。そして、倒産の危険も高まります。
会社が潰れる主な原因は?
CB Insightsの調査によると、スタートアップ企業が潰れる主な原因には次のようなものがあります。
- 資金繰りが悪化した
- 市場で必要とされなかった
- 競合に勝てなかった
- ビジネスモデルが破綻していた
- 法的な問題をクリアできなかった
- 価格設定に問題があった
- 適切なチームではなかった
- 時宜を逸していた
- 製品の質が低かった
- チームメンバー間の摩擦を解消できなかった
- モチベーションを失った
文:Taeko Adachi